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「ドブ貝のファド」
黒実 音子

水の引いた泥の泥濘に囚われ、
姿を現すドブ貝の
後背縁に写る月明かりに、
私はファドの歌われる芝居小屋(カーサ)の
悲し気な灯りを見る。

「ニル・エリト・レリクトゥム・・
(もう残る事もないだろう・・)」
そう言って、
彼は港の家から出ていった。

この世界に残された聖遺物が
かろうじて彼や、
古びた小屋の痕跡を示すのだ。

私はそれを追って
彼の噂や影に縋りつく。

ああ、ファドは・・!!
リスボアの夜に歌われるファドは!!
キリストの、
最早、原型の無い物語を
求め続ける。

それは大昔に焼かれた
ラテン語のテキストと同じで
実体は朧で虚ろである。

それでも歌の中に
人々は帳尻合わせを求め、
強い帰郷を望む。

ある筈の無い土地への
帰路を求める。

ああ、実体のない
夜のドブ貝の輝きの中に
キリストは宿る。

恒常的に伝染病(ドゥインサ)が流行り、
今日も蚕は黒彊病で死ぬ。
そんな世界に生まれた事を
ギターラは知っている。

故にギターラの音色は
葬儀にこそ相応しいのだ。

兄弟よ。
そうとも。
銃声が響かず、
労働者のいない夜こそが
本当の楽園だ。

盃に注げ!!

血で満たされた体腔(ヘモコエル)に侵入する
死を感じろ!!
全ては導かれるまま、
我々はこの不運な肉体を
棺桶にまで運び、
土をかけられるその瞬間まで楽園を・・
神の帳尻合わせの王国を
探し続けるのだから・・





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