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喪失の芸術 (「墓の魚」の作品とキリスト教文学)

こんにちは。
「墓の魚」の作曲家です。

前回の記事に引き続き、
今日は南欧のキリスト教文学の根底に流れている
喪失の哲学のお話をしたいと思います。
(それは、つまり私達オペラ楽団「墓の魚」の作品の
根底に通奏低音として流れている
思想の紐解きでもあります)

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私は、人生の本質は[喪失]だと思っています。

そう。
人生の本質は[喪失]なので、
人は持っている物を保守、保身している時よりも、
失う時にこそ、その者の本質(器)が
試されるのだと思っています。

若さだって失われる。
名声だって失われる。
力で伸し上がったヤクザ者も
いつかは弱り、殺される。

そもそも、最後は誰だって命を失う。

ところが社会は
保身に全力を捧げる価値観を人々に植え付ける。
持っている事を讃え、祭り上げる。
喪失に触れない。
死んでいく躯に触れない。

だから、西洋の
古典キリスト教文学が持っている哲学を
現代日本社会は、
最も理解しにくい面があると思います。

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キリストは罪人として処刑され、
そして十字架に架けられ、脇腹を貫かれた。
しかし、その敗北の中にこそ[高貴さ]が存在し、
政治家や社会的地位の要人の中に
それは見つける事が出来なかった。

そんな哲学が、キリスト教文学の根底には流れています。

そう。
塵捨て場の中にこそ、高貴なものは隠されている。
人生とは、
それを、たった一人で
孤独に見つけられるかどうかが問われるのだ・・

という哲学です。

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得る事よりも、廃棄された物の中に、
讃えられる者よりも、
蔑まれる者の中に、
いつだって我々は聖なるものを見つけるべきだ。

フランスの
乞食や、貧困の中に、真の芸術が宿る・・
という思想とも共通点がありますね。

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乞食であり貴族である事が
彼らの気高さなのです。

キリスト教文化圏の
映画や、詩や、文学に馴染んだ人ならば、
彼らの作品から、そんな気高さの物語
感じた事があるかもしれません。

それは社会性の否定からの
個人主義の誇りの思想とも言えます。

ここで、私の作品、
「墓の魚」の詩を見てみましょう。

「我々は、哀れな場所に幻想を見るのです。
哀れな場所に自分の姿を見る。
世界の姿を見る。
永遠に続くと信仰されている平穏も、
その一枚裏には野良犬に喰われる
腐った惨めな甲殻類の世界を隠している。
その世界で我々は信仰を探す。
浅ましく。天使の様に。悪霊の様に。
決して、美しい神殿では探せないのだ。
それは[ゴミ捨て場の信仰]だ!!
我々の人生とは[ゴミ捨て場の信仰]なのだ!!」
■「ゴミ捨て場の信仰」より

こういう作品の根底に、
キリスト教の神学が流れている事に
気づいていただけると思います。
私の作品の場合、
そこに魔女という人間社会の矛盾や、偽善の歪さに
啖呵を切り、挑戦する
トリックスター(道化)達が登場する訳ですが。

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さて、話を戻しますと、
権力であれ、腕力であれ、
力を持たぬ者の方が、
本当の意味での[強さ]を知れる。

このパラドックスとも言えるジレンマこそが、
キリスト教神学の神髄です。

最悪は最高を内包する。

貧困の気高さ。

聖者は泥の中を歩く。

死がある故に命はある。


「墓の魚」の作品を言い表す言葉

Obra de teatro Sucia 汚い戯曲
Zarzuela indecorum 無様なサルスエラ
El Sventramento 真理の腸抜き死骸


でも、こうした思想が
言葉の遊戯の中で隠され、使われています。

[打算]、[妥協]、[場に合わせる]、事は、
総じて社会性と呼ばれ、
生き延びる、上手く生きる事が正義とされる
日本社会ですが。
それは、確かに現実を[ただ生きる]のには
有利なスキルであっても、
[ただ生きる]中には、芸術も気高さもありません。

社会性、冷笑主義、現実主義の中に
[弱さ]があるのは確かだと私は思っています。
それは、時として悪い事ではないかもしれませんが、
その[弱さ]とは向き合った方がいい。

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結局の所、人生は、
どんなに守りに入っても
[失う]ものだからです。
人生は[喪失]なので。

保身して保身して保身しても最後は死ぬ。
だから失った時にこそ、
己の信念を持つか、持たないかが、
私は[人生の本質]だと思ってます。

どんなに人生上手く立ち回っても、
何処かの場面で必ず、
我々は、それを問われる時が来るのですから。


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