ペットフード基本の『き』 アレルギーの基本
はじめに
先月の記事では「低アレルギーフードの基本」について解説しましたが、「アレルギーという病気」についてはほとんど解説しませんでした。
「アレルギーという病気」について解説しようとすると、まず、「免疫」について解説しないわけにいきません。
ところが、「アレルギーという病気」をそこそこちゃんとわかってもらえる程度に「免疫」について解説するだけでも、相当な分量とそれなりにややこしい内容になってしまいます。
そうなるともはや、「基本の『き』」ではなくなってしまいます。それで先月は、あえて「アレルギーという病気」についてはほとんどふれずに、「低アレルギーフードの基本」だけを解説したというわけです。
そうは言っても、「アレルギーという病気」がどんなものなのか、イメージだけでも知っておいてもらうと、低アレルギーフード選びで迷ったときに役に立つと思います。
そこで今回は免疫の話は最低限にして、「アレルギーの基本」について解説します。
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■弱い免疫反応と強い免疫反応
免疫反応をものすごくシンプルに説明すると、「体の中に侵入した敵をやっつける」ための反応です。
そして免疫反応は大きく2種類に分けることができます。
(1)弱い免疫反応 = 敵をやっつける力が弱く、穏やかな免疫反応
(2)強い免疫反応 = 敵をやっつける力が強く、激しい免疫反応
の2種類です。
免疫反応が起こると、どうしても流れ弾が飛んできてしまいます。
戦っている場所は体の中ですから、自分の体も流れ弾のせいで、多かれ少なかれダメージを受けることになります。
この流れ弾が「炎症反応」だと思ってください。
■強い免疫反応は「ウルトラマン」?
突然ですが、みなさんは「ウルトラマン」をご存知ですか?
テレビなどで実際に見たことがなくても、ウルトラマンがどんなものかは何となくわかりますよね?
街の中で怪獣が暴れていて地球防衛隊では歯が立たないときに、ウルトラマンが現れて怪獣をやっつけてくれます。
でも、怪獣をやっつけるにあたって、怪獣を投げ飛ばしたり怪獣に投げ飛ばされたりして、ウルトラマン自身も街を破壊していますよね?
ところが、ウルトラマンが街を破壊していることに対して、苦情を言っている人はいません。
みんな、怪獣をやっつけてくれたことに感謝しています。
ウルトラマンでなければ怪獣をやっつけることができないからです。
では、街の中で暴れているのが怪獣ではなくて、ただの”酔っぱらい”なのに、ウルトラマンが現れたらどうでしょう?
ウルトラマンが酔っぱらいを取り押さえようとして、車を踏み潰したり、ビルにぶつかって壊したりするので、むしろ大迷惑です。
暴れているのが酔っぱらいであれば、地球防衛隊に任せておけばいいのです(地球防衛隊でも大げさで、警察に任せるべき案件です)。
それなら街を破壊することなく、酔っぱらいを取り押さえることができます。
ただ、ウルトラマンとしては悪気わるぎはまったくなく、街の中で何かが暴れているせいで、みんなが困っていると思って現れてくれたのです。
たしかに、暴れている酔っぱらいを取り押さえてくれるのはありがたいことですが、街が破壊されることのほうが、はるかに問題です。
■免疫反応とアレルギー
この例え話の登場人物(?)を免疫反応に当てはめると次のようになります。
怪獣・酔っぱらい = 体に侵入した敵
ウルトラマン = 強い免疫反応
地球防衛隊 = 弱い免疫反応
街の破壊 = 炎症反応
さて、怪獣も酔っ払いも体に侵入した敵なのですが、ふたつの大きな違いは「危険度」です。
酔っぱらいが暴れたとしても、ビルが破壊されることはありません。
一方、暴れている怪獣を放っておいたら、街が全滅してしまいます。
怪獣のように、体にとって危険度が高い敵にあたるのが、ウイルスや細菌などです。これは強い免疫反応でないとやっつけることができません。ただし、その分、炎症反応も強く起こります。
それに対して、酔っぱらいのように、体にとって危険度が低い敵にあたるのが、花粉や食事中の成分などです。こちらは本来、弱い免疫反応に任せておけば大丈夫です。それなら、強い炎症反応は起こりません。
本来であれば、花粉を取り除くために目が痒くなったり、鼻水がでたりするほどの強い炎症反応を起こすような、強い免疫反応は必要ないのです。
■免疫反応もアレルギーも起こっていることは同じ
実を言うと、通常の免疫反応でも、アレルギーでも、起こっていることは自体は同じです。
通常の免疫反応とアレルギーの違いは、ちゃんと敵の危険度に応じた強さの免疫反応が起こるかどうかです。
アレルギーというのは、強い免疫反応の「発動条件がバグっている」ために起こるのだと思ってもらうとわかりやすいかもしれません。
■痒がっていると食物アレルギーになる
上の見出しを見て「?」となりませんでしたか?
逆なんじゃないの?
食物アレルギーになったから痒がるんじゃないの?
と思いませんでしたか?
でも逆じゃありません。
食物アレルギーになると痒がるんじゃなくて、痒がっていると食物アレルギーになるんです。にわかには信じられないかもしれませんね。
もちろん、そうではないことも少なからずありますが、最近では皮膚を痒がること(皮膚に炎症が起こっていること)が原因で、その結果、食物アレルギーになると考えられています。
なぜそうなるのかを説明しようとすると、相当にいろいろなことをお話しないといけませんので、ここでは説明しません。
なぜそうなるのかはともかく、「皮膚を痒がっていることが原因で食物アレルギーになる」と思っておいてください。
ですから、ねこさん・わんちゃんが皮膚を痒がっているようなら、低アレルギーフードを試す前に、動物病院で診てもらって、まずは痒みをおさえるための治療を受けさせてあげてください。
■今回のまとめ
免疫反応は「体の中に侵入した敵をやっつける」ための反応
免疫反応には「弱い免疫反応」と「強い免疫反応」がある
強い免疫反応が起こると、炎症反応も強くなる
本来は、侵入した敵の危険度に応じた強さの免疫反応が起こる
強い免疫反応の「発動条件がバグっている」せいでアレルギーが起こる
皮膚を痒がっていることが原因で、食物アレルギーになる
月額マガジンでは、いまのところ6週連続で「免疫・アレルギー特集」を配信しています。
たぶん、あと2~3回「免疫・アレルギー特集」が続きます。
次回配信する「ねこさん・わんちゃんのアレルギー その7」で、「皮膚を痒がっていることが原因で食物アレルギーになる」理由についてわかりやすく解説します。
免疫やアレルギーについて、もう少し詳しく知りたい方は、ぜひ月額マガジンをお読みください。
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