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ねこさん・わんちゃんのアレルギー その8 痒がっているとアレルギーになる?②



はじめに

前回の記事では、アレルギーと関係が深い「IgE」という抗体と、「マスト細胞(肥満細胞)」について解説しました。

IgEはマスト細胞の表面にくっついていて、マスト細胞はヒスタミンなどの炎症物質を蓄えています。マスト細胞の表面にあるIgEの2つにまたがるよう敵がくっつくと、マスト細胞は脱顆粒だつかりゅうをおこして、ヒスタミンなどの炎症物質を放出します。

マスト細胞の脱顆粒(イメージ)

マスト細胞の脱顆粒によって、炎症反応がおこると同時に好酸球が召喚されます。好酸球は”対寄生虫 決戦兵器”ともいえる細胞で、最終的に自爆することで脱顆粒し、寄生虫にダメージをあたえる成分を放出します。

これらの反応が実際に寄生虫に対しておこるのはまったく正常なことなのですが、花粉や食べ物に含まれる成分に対しておこると「アレルギー」となってしまうのですね。

ただ、よく考えたら、花粉や食べ物に含まれる成分に対してこんな反応がおこるということは、すでに体が花粉などに対するIgEを作って待ち構えているということです。
つまり、どこかのタイミングで花粉や食べ物に含まれる成分を寄生虫か何かと勘違いしちゃったんですね。

こんなふうに、あるものを体が敵だと認定することを「感作かんさ」といいます

感作というのは、「アレルギーに限らずあるものを体が敵だと認定すること」を指しますが、アレルギーに限定して「あるものに対して体がIgEを作って、そのIgEがマスト細胞にくっついて準備ができちゃってること」を指す場合もあります。

そしてアレルギーを引きおこすもの、つまりアレルギーの原因となる物質のことを「アレルゲン」といいます

CMなどで”アレル物質”なんて言っていますが、あれは「アレルギーの原因となる物質」の略なんでしょうか?

個人的には妙な造語が気持ち悪くて、ふつうに「アレルゲン」と言えばいいのになぁと思ってしまいます。


■ 食物アレルギーのきっかけは食べ物?

「食物アレルギー」というのは食べ物に含まれる成分に対してアレルギー反応がおこることです。そのまんまですね。

皮膚の炎症や、下痢などの消化器症状がみられたり、場合によっては全身に複数のアレルギー症状がでる「アナフィラキシー」がおこったりします。

では、ここで”ピーナッツアレルギー”について考えてみましょう。
ピーナッツアレルギーは、ピーナッツやピーナッツバターなど、ピーナッツを含む食べ物を食べるとおこるアレルギーです。やっぱりそのまんまですね。

ピーナッツアレルギーは日本よりも海外で多くみられます。
たしかに、海外の人はピーナッツバターをよく食べるイメージがありますもんね。

2005年にカナダで、15歳の女性が恋人とキスをしたあとアナフィラキシーで亡くなるという事故がおこった、という話を聞いたことはありませんか?

この女性はピーナッツアレルギーをもっていて、そうとは知らなかった恋人が、ピーナッツバターを塗ったトーストをデートの前に食べていたことが原因だったと報道され、当時はけっこう話題になりました。
(https://nypost.com/2005/11/29/allergy-teens-fatal-kiss/)

ところがこれには後日談があって、女性が亡くなった原因はピーナッツアレルギーではなく、重度の喘息だったことがわかったそうです。恋人がピーナッツバターを塗ったトーストを食べてから、女性とキスをするまでには9時間が経過していたのです。
(https://www.cbsnews.com/news/and-in-the-end-peanut-butter-was-not-to-blame/)

研究によると、ピーナッツバターを食べた人のうち87%は、1時間後にはだ液からアレルゲンは検出されなくなったことが報告されています。
(https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0091674906011924) 

じゃあ、ピーナッツやピーナッツバターをよく食べていると、ピーナッツアレルギーになってしまうんでしょうか?
ふつうに考えたらそうですよね。だって「食物アレルギー」なんですから。


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