憂鬱な気持ちになったらカレーを食べにいくと決めた

時計の針は午後12時を指す寸前。

契約している脱毛コースの施術を受けに蒲田までやってきた。

週初めだというのに蒲田は人が多い。ましてや今日は土砂降りの雨だというのに。

パパッと予定をこなし、土砂降りの中散歩がてら一緒に外に出てきてくれた恋人と合流する。

「お腹すいたね。何食べたい？」

「なんでもいいよ、好きなの食べな。」

男の人って、なんですぐ何でもいいって言うんだろう。

私だって考えるのが面倒な時だってあるよ。今だってまさにそう。

気圧にやられている上に、仕事の疲れも取れてない。身体中だるいし頭もボーッとする。なんなら今すぐ帰りたい。でもお腹は空いた。

ぼやぼやな頭で絞り出した結論はこうだった。

「何も食べたいものがないならカレーかラーメン。」

◇

「たしかこの辺にあったよね？」

店を調べることもなく、恋人はズンズンと人混みをかき分けて歩き出した。

その先にはネパール・インドカレーの文字。


口コミがどうだとか、星がいくつだとかそんなことどうでも良かった。ただ、それなりに美味しいカレーを食べてお腹を満たしてさっさと帰りたかった。

扉の前に立った私たちを見つけてネパール人の店員さんがお店から顔を出す。

どうやら席は空いているらしい。

だったらもうアレコレ考えずに入るしかない。

◇

扉を入るとネパールの神々が私たちを出迎えてくれた。

ああ、この独特の雰囲気。落ち着く。

デフォルメされたガネーシャのぬいぐるみが可愛くて、自然と笑みが溢れた。

「きょうのカレーはブロッコリーとマメです」

カタコトの日本語と共にお水を出してくれた。

メニューを眺める。

どうやらランチセットは好きなカレーを2種類選べるらしい。ひとつはほうれん草カレーって決まってるんだ。

あ、レディースセットなんてものがあるじゃない。1日10食限定か。残っていたらこれにしよう。デザートついてくるしね！ドリンクはもちろんチャイを。

ササッと注文を済ませる。あまり上手ではない日本語で丁寧に注文を取ってくれた。幸いなことにお目当てのレディースセットはまだ残っていた。

そういえば、こういう注文をする時は、商品名じゃなくてメニューに書いてある番号とかアルファベットで頼む方がきっと親切なのかもしれない。

そこまで気が回らなくて、表記されているアルファベットで注文する恋人を見て考えさせられた。私はきっと恋人のこういうところに惚れたんだと思う。

来るまでにぐるりと周りを見渡す。

ひとつだけガヤガヤと賑わっているテーブルがあった。

言葉的におそらくネパール人。朝からみんなで集まってビールを飲んでいる。

ネパール人って普通に日本のビール飲むんだね。

なんて口にしたら、ネパール人の友達がネパールのビールはまずい。日本のビールの方が美味い！って言ってたよ。と恋人が教えてくれた。

この人の交友関係は本当に国際色豊かだ。

ガヤガヤとしている店内。

でも、聞こえてくるのは異国の言葉。テーブルからも厨房からも。

心の疲労度が溜まっている時にあまり賑わっている場所で食事をすることは好きじゃないんだけど、不思議なことに全く気にならない。

私、うるさい場所は嫌いだと思い込んでいたけれど、周りの会話に意識を持っていかれて感情が動くことが嫌なんだな。とこの日初めて気が付いた。

インドカレー屋独特のミュージックもまた、非日常に来たかのような気分にさせてくれる。

街中でBGMとして浪費され続け、歌詞を噛みしめる行為すらできないJPOPも洋楽も、もう聞き飽きたんだよなぁ、、

そんなことを考えていたらカレーが到着。

顔より大きいナン。ナンのサイズ感にはどこのカレー屋に来てもびっくりさせられる。

ここのナンは軽めの焼き上がり。モッチモチの触感がやみつきになった。

真緑のほうれん草カレー。これを湯船に張って浸かりたいと思うくらいにはほうれん草カレーが好き。中に入っているマッシュルームもいい味を出している。

もう一つはチキンカレーを選んだ。スパイスの効いたお味。ゴロゴロッとしたチキンも美味しい。

ナンがなくなる頃合いを見て、おかわりの有無を聞いてくれる。

ホテルのレストラン並みのサービスと察知能力。こういうところが本当に素晴らしいよね、カレー屋さんって。

恋人とシェアしながら、一枚半をぺろりと平らげた。

食べ終わってすぐ、テーブルにデザートが運ばれてくる。

マンゴーソースがラテアートかのようにデコレーションされていた。これを厨房で一生懸命やっているのを想像したら自然と頬が緩む。

◇

心もお腹も満たされた私たちは、また土砂降りの街へと繰り出した。

あんなにも憂鬱だったのに、気付けば気持ちが軽くなっている。

カレーも美味しかったなぁ。

異国の雰囲気に触れて、美味しいものを口に入れることがどれだけ幸せなことか実感した瞬間だった。

憂鬱な気持ちになったらまたカレーを食べにいこう。

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