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それでも、世界がつながることを諦めない。「炎越しの地球」の撮影に向けた若者達の挑戦-後編-[都築則彦]

 先月に引き続き、僕たちが成功させた、人類史上初の映像撮影の挑戦とその映像に込められた想いについてお届けします。前編では、「炎越しの地球」の映像に込められた想いやプロジェクトの経緯をご紹介しました。後編ではプロジェクトの転機となるようなエピソードを、マネジメントに焦点を当ててお届けします。

Earth Light Projectのマネジメントの課題
 Earth Light Projectは、極めて流動性の高いプロジェクトである。これは、生活環境が目まぐるしく変わる学生主体のプロジェクトであり、かつ自由意志に基づいた非営利的なボランティアプロジェクトであることに起因する。
さらに、資金調達やプロモーション、技術開発など、局面ごとに必要とされる能力も異なる上に、パンデミックや悪天候によって想定外の延期を余儀なくされてきた。
Earth Light Projectのエピソードを振り返ると、「社会環境もメンバーも流動的なプロジェクトを、いかにしてマネジメントするか」という問いは、最も根幹的な問いのひとつであった。

打ち上げ直前のオフラインミーティングの様子

自分と向き合い、自分の夢を自分の言葉で語る
 この問いに対する1つ目の答えは、夢を語り、一人ひとりに浸透させることであった。Earth Light Projectは、もともと「オリンピック聖火を宇宙に打ち上げる」というアイデアから生まれた。しかしながら、クラウドファンディングへ踏み切ることで、オリンピック聖火と公式に関連づけられる可能性は断たれた。
最も人とお金を集めなくてはならないタイミングで、プロジェクトの重要なコンセプトが失われたのである。
この困難を前にして、自分の心を奮い立たせ、共感の輪を広げるために、「なぜこのプロジェクトを実施するのか」というコンセプトを再構築する必要に迫られた。
オリンピック聖火が世界を走れなくなった理由は、世界中で噴出する「分断の問題」によるものであり、この問題はパンデミックによって一層深刻になっているように思えた。「分断」を自分の問題として語るために、自分のライフヒストリーとも向き合い、人生で初めて、自らが幼い頃から抱えてきた貧困の問題を、公にした。
そして、自分がなぜ宇宙というテーマにここまで惹かれるのかを、真剣に深掘りした。
このようなプロセスを経て、自分の夢を自分の言葉で語れるようになった。そして、時には一対一で対話をし、時には大勢の前でのプレゼンテーションをしながら、自分の夢を浸透させていった。こうして、クラウドファンディングで1059万円の資金調達に成功し、279名のメンバーを集めることができたのである。

Earth Light Projectのプレゼンテーションの様子

粘り強く仲間と向き合う
 2つ目の答えは、人間関係のトラブルに根気強く向き合い、しなやかなコミュニティ文化を醸成したことである。
Earth Light Projectは30の学生団体による連合プロジェクトであり、異なる組織文化を持ったメンバーが集まっている。
さらに、緊急事態宣言や悪天候の影響で合計13回の延期を繰り返し、深刻な心理的負担を抱えていた。文化的な違いと心理的な負担により、深刻な人間関係のトラブルが生じることもあった。
このような時に一番大切にしていたことは、「Earth Light Projectに関わった全ての人が、笑顔でこのプロジェクトを終えること」という原点を何度も確かめ、伝えていくことであった。
例え自分に批判の矛先が向いていても、修復不可能に見えるほどにメンバー間の関係性が険悪になっていても、「みんなで、このプロジェクトを笑顔で終えるためにはどうすれば良いか」という問いと向き合い続けた。時間はかかっても、トラブルを解決していく上でこの姿勢が重要であり、困難な状況を乗り越えるたびに、コミュニティの文化がしなやかに育っていく手応えがあった。

雨天による打ち上げ延期を説明する様子

誰に対しても開かれたプロジェクトを目指す
 3つ目の答えは、プロジェクトから離れていくことや、帰ってくることを受け止めたことである。学生主体のボランティアプロジェクトである以上、メンバーがプロジェクトから離れざるを得ない状況がどうしても生じる。
この状況をできる限りポジティブに捉え、帰ってくる機会があれば積極的に迎え入れることを心がけた。
これは、僕自身の大学院でのボランティア研究に基づくものであった。「公共性」とは、一般にイメージされるような「共通の利益を追求する」という意味もあるが、「誰に対しても開かれている」という意味もある。
Earth Light Projectのマネジメントでは、「誰に対しても開かれた宇宙プロジェクト」というコンセプトを重視してきた。理系でも文系でも、忙しさに波のある人でも、どんな人でも関われる宇宙プロジェクト。これこそが、Earth Light Projectがボランティアプロジェクトである意義のひとつであった。
このコンセプトを土台にして、Earth Light Projectは、分野を超えた数多くの若者が集まるプロジェクトへと成長していったのである。

打ち上げ本番の様子

まとめ
以上、「社会環境もメンバーも流動的なプロジェクトを、いかにしてマネジメントするか」という問いへの答えをいくつか紹介してきたが、全ての工夫がうまくいったわけではない。自分の未熟さ故に仲間を傷つけてしまうこともあった。
Earth Light Projectの成功の要因は、マネジメントの方法論以上に、仲間に恵まれたことの方がはるかに重要である。ただ、その背景には、数々の困難や失敗を通して自分や仲間と真剣に向き合ってきた、膨大な時間と努力があった。この事実抜きに成功を語ることはできない。

前編に引き続き、最後までお読みいただきありがとうございました。
今回は、内部のマネジメントをテーマにお届けしましたが、Earth Light Projectは、数えきれないほどの多くの方々からのご支援をいただきながら運営してきました。
プロジェクトの成功は、周囲の方々からの温かく力強いご支援があってこそのものでもあります。
この場を借りて、お世話になった方々や、Earth Light Projectに関心を寄せていただいた方々へ、心よりお礼申し上げます。

Earth Light Projectは、これからも、炎越しの地球の映像を、共生社会のシンボルとしていくため、映像活用などを中心に活動を続けていきます。
SNSなどで積極的に情報を発信していくので、ぜひご注目いただけると嬉しいです!

都築則彦(Earth Light Project実行委員会代表)
【ボランティアを、魅力的な社会参加の手段へ】牛乳配達を営む家庭に生まれ、大きな世界を夢見てオリンピック・パラリンピックの最前線へ。2014年にオリンピック・パラリンピックへの参画の幅を広げることを目的に「学生団体おりがみ」を設立。以降、ボランティア文化の革新を目指して「NPO法人おりがみ」を設立し、理事長を務める。有限会社トウチク代表取締役。全国学生ボランティアフォーラム発起人。


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