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サプライズ

男と女が二人でコタツに入りながら会話をしている。
「ねえ、明日何も決めてないけど、どうするの?」
「明日?ああ、記念日ね、どうしよっか。」
「今忘れてたでしょ。」
「いや、忘れてないよ、2年と7ヶ月だろ?」
「そう、しっかり覚えてるならいいけど。」
「忘れるわけないよ、だって、、あ、えっと、、8って僕の好きな数字だから覚えやすいし。」
男は顎を触りながら少し慌てるように言った。
「何よそれ、ねぇ、何か隠してるの?」
「ん、何もないよ。記念日だなって。」
「へぇ、でもあなたが顎を触ってる時はいつだって隠し事してるときなの。あなたって本当隠し事できないんだから、すぐわかるのよ。本当に何もない?」
女は少し強い口調になり、容疑者に質問する警察官のように男に説いただしている。
「ん、何もないって。」
「ほんとに?」
「ん、ほんと。」
「それならいいわ。隠し事してたらどうせすぐわかるし。それで、明日はどうするの?」
女は少し溜息をつき、諦めたように言った。
「今こんなご時世だからさ、明日は家でまったりしようよ。どこに行っても開いてないしさ。」
「そうね、それじゃあそうしましょう。」
女はせっかくの記念日だから出かけたかったのか、ムスッとしている。
「それじゃあさ、明日はSUPER BEAVERのライブDVDの鑑賞会でもやろうよ。」
あのバンドとは、二人の共通の好きなバンドであり、この話が弾み、一緒にライブに行き付き合うことになったのである。いわば付き合ったきっかけである。そんなことを思い出してた女は
「久々に観るし、とっても楽しみになってきた、付き合った当時戻ったみたい。」
「そうだね、君が人生で1番好きな曲もこのライブのセトリに入ってるよね。」
「そうよ、"27" って曲。SUPER BEAVERって歌詞がストレートでとってもいいのよね。」
「毎回これ聴くたびに泣いてるよね。」
「だって、ボーカルの歌い方がとってもグッてくるんだもの。」
男はうんうんっと頷いた。女は少し機嫌が良くなり男は安心した。しかし、その安心もすぐに焦りに変わった。
「今月は私ね、記念日にお揃いのピンキーリング買っちゃったの。あなたの小指のサイズって確か7号だったわよね。」
「え、うん、そうだよ。」
男は焦っている。
「あなたは何をくれるの?」
二人は毎月記念日の前日にプレゼントを伝え合うようにしていた。
「え、あ、僕はね、えっと、、」
男は黙り込んでしまった。
「買ってないなら正直に言っていいからね。」
女は子供を宥めるように言った。
「えっと、、、、僕も、、指輪買った。」
「あら、そうなの、それで、焦ってたのね。二人でピンキーリング欲しいって言ってたもんね。」
「いや、ピンキーリングじゃなくて、、薬指につける指輪。」
「え、、それってもしかして、、」
男は頷いた。すべてを察した女は泣いている。
「実は、明日DVD見て君の好きな曲が流れてる時に、渡そうと思ってた。君が昔好きな曲が流れてる時にプロポーズされるのが理想って言ってたから。それに、2年7ヶ月で合わせて"27"だし。」
男は頭を掻き、恥ずかしそうに言った。女はまだ泣いている。30秒ほど沈黙が続いた後、女が口を開いた。
「だからさっきから焦ってたのね、あなたって本当に嘘もつけないし隠し事も出来ないのね。」
女は鼻をすすりながら言った。
「ごめん。凄く緊張してたし、サプライズしようとしてたからバラさないようにしてたんだけど。」
「なんで謝るのよ。それでどうするの。」
男はコタツを出て自分のバッグの所へ行き、そこから小さな箱を取り出し、それを開けて女に見せた。
「あ、あの、結婚して下さい。」
女は指輪を受け取って涙を拭い、満面の笑みで頷いた。

プロポーズから数時間が経ち、二人はコタツで暖まりながら外の雪を眺めている。
「"27"にかけて渡したかったのね、今日って何日?」
と女は聞いた。そして、男はハッとして、顔が見る見る赤くなった。
「あなたってばかね。なんで2年7ヶ月なのよ。」
女は男の愛おしさに微笑んでいて、男はまた頭を掻きながら恥ずかしそうに言った。
「昔、お袋の好きな歌手のアンドレア・キャロルの"なみだの16歳"って曲があって、親父がお袋と付き合って1年6ヶ月の時にプロポーズしようとしたらしいんだ。でも、結局その1週間前に指輪を買ったってのを親父が言っちゃってプロポーズしたらしい。だからというわけじゃないけどそれが頭にずっとあって、君の好きな曲も数字だったから俺も2年7ヶ月でプロポーズしたかったんだ。」
「そういうことね、ほんと、あなたとお義父さんそっくりね。ねえ、"27"の歌詞覚えてる?父と似たような自分を知って嬉しいと思った。って歌詞。」
まさしくその通りだと思い、男は嬉しそうに頷いた。
「てかさ、あなたって本当サプライズ下手ね。」
「それは仕方ない、なんか聞かれたら言っちゃうんだよ。」
「なんでよ、でもね、そんな所も好きよ。」
男は照れた、女も照れている。
「末長くよろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくお願いします。」
二人はコタツに座りながらお辞儀し、また照れている。しばらく沈黙が続き、それが恥ずかしくなった女は机の上にあったリモコンを手に取り、テレビをつけた。
「ねえ、明日どうする?」
「ああ、どうしよっか。

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