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マホちゃん

前回の話(人影)の続きだ。マホちゃんから画像の添付メールが来てから、彼女にストーカー気質があるのではと気付き始めた。しかしそれからマホちゃんからの連絡はパッタリと途絶える。それからしばらくして私は念願の彼女を作る事が出来た。彼女は地元の小学校の同級生でマホちゃんの事も当然知っている。名前はエミという。彼女とは同窓会で連絡先を交換し交際へ発展した。そんなエミと駅前で待ち合わせをし、二人で品川へ買い物に行く事にした。駅の改札前でエミが待っていた。ほんの少しだけ遅刻をしたが特に不機嫌になる事もなくホッと胸を撫で下ろした。さていざ品川へ向かうかとホームに向かおうとするとエミが呆然として私の後ろを見ていた。

私は何を見ているのかとチラリと後ろを振り向く。その瞬間、梅雨の夜の悪夢が蘇った。マホちゃんだ。マホちゃんはニコニコしながら立っていた。私は「どうしたの?マホちゃん?」と彼女に問うた。すると「いや。怪雨くんが見えたから着いてきたの^^」と無邪気な顔をして返事をした。一体何処から着いてきたのだ。そんな疑問と不安が過るが私はエミがいる手前「今からエミと出かけるんだ^^,もう行かなきゃ」と伝え、エミの手を引きホームへ向かう。
するとエミが不安そうに私に目配せをした。
その理由はすぐにわかる。着いてきてるからだ。ホームに着き同じ車両に乗る。特に接触などはして来ないが私たちの視界から外れない様にしているのが痛いほど分かる。これが見えないプレッシャーなのかと初めて体感した。

エミを見ると先程以上に不安そうな表情を浮かべている。それとは真逆にマホちゃんは満面の笑みだ。きっと行く方角が同じなだけだ。そう私は言い聞かせながら一刻も早く品川へ到着するのを祈った。品川へ着くとすぐ様、2人で電車を降りる。雑踏に紛れ近くの駅ビルに逃げ込んだ。後ろを振り返るがマホちゃんの姿はない。「ああ、やはり偶然だったのか」これが杞憂と言うものだと初めて理解した。エミも安心した顔をしている。

それから買い物を終え、食事を済ます。
途中横浜へ行く用事を思い出し、渋るエミを説得して横浜へ向かった。すでにマホちゃんの事など2人とも頭の片隅にも置いていない。横浜に着き用事を早々に済ませた。エミの機嫌を治すため東口、郵便局近くの大衆カフェで安いコーヒーをご馳走する。学生なら充分だ。2人は喫煙者という事もあり地下の喫煙席へ案内された。自然とタバコを吸いながら今日の出来事を話すが2人共マホちゃんの話は互いに避けている。コーヒーも飲み終わり席を立とうとすると、斜め横の席に居ないはずのマホちゃんが座っていた。エミと顔を見合わせ思わず「マホちゃん!?」と声をあげた。マホちゃんは「コーヒーを飲んでいるだけだよ^^偶然だね」と悪びれもなく話してきた。因みにマホちゃんはタバコを吸わない。偶然居合せたとしても喫煙席しかない地下を案内される事などあり得ない。

私とエミは勘定を済ませ、そそくさと店を出た。後ろを見るとホーミングミサイルの様にマホちゃんが着いてくる。私は「あれ?^^,マホちゃんは帰り?僕らは今から夕食に行くからここで」と強引に引き剥がそうとする。それでもマホちゃんはニコニコと付いてくる。流石のエミもこの図々しさに怒りが頂点に達した。「マホちゃん?いい加減にして!私達は付き合ってるの!迷惑なのよ!朝からずっと付け回して!」まさか自分が言いたい事を全てエミが代弁してくれるとは。するとスイッチが切り替わる音がした様にマホちゃんが真顔になる。「そう....偶然なのに」とぽつりと呟いた。そしてその場から去った。それからすぐにエミの友人(私とも同級生)からマホちゃんが男を追いかけ地元を離れたと聞いた。私とエミは見えない重圧から一時だけ解き放たれた。しかしもう少し話は続く事になる。

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