夕暮怪雨

誰でも読めて語れるをモットーに。生粋のサウナーで怪談を執筆する人。(`・ω・´) 竹書…

夕暮怪雨

誰でも読めて語れるをモットーに。生粋のサウナーで怪談を執筆する人。(`・ω・´) 竹書房さんから 共著 「投稿瞬殺怪談」「怪奇島」「呪霊不動産」「現代実話異録村怪談」他 怪談ユニット テラーサマナーズ結成 https://youtube.com/user/maota0080

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    ちょっと依存性の高い女性の怖い話

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一緒に探して【改訂版】

女性のHは数年前、都内にある駅ビルの書店で働いていた。そこで不思議な体験をしたそうだ。それはHが店の閉店作業をしていた時の事だ。既に店内には客は居らず、締め作業も終え、本人と同僚社員の2人以外は帰っていた。翌日の商品陳列のチェックをするため、退勤前に売り場に向かった。すると急に「ねぇ」と子供の声で呼び止められた。 彼女が後ろを振り向くと、書籍が並べられている棚の横から小さな子供の顔が飛び出してきた。4歳ぐらいの女の子だったそうだ。Hは、その子供を見た瞬間、身体から汗が噴き出

    • 父と息子

       逸人さんは父に溺愛されていた。幼い頃の父に瓜二つだったからだろう。ある夏の夜、父と地元のお祭りへ参加した。買ったばかりのお揃いの甚兵衛を纏う。それが嬉しかった。神社の敷地内に出されていた出店を回る。迷子にならぬよう手を繋ぎ、たこ焼きや綿菓子を催促した。父もはしゃぐ逸人さんの姿を見て、笑顔だ。「金魚救いするか?」「いいの? やった!」2人で祭りを楽しむ。金魚救いを終えた後、連なっている出店を見渡すとお面屋が目に入った。けれどそのお面屋は一風違った。子供心がくすぐられるようなデ

      • 神様の嫉妬

         長野さんの親友は町内の神輿行事に情熱を注いでいた。同級生でいつも一緒だったが、祭りや神輿の時は別だ。親友は毎年夏が来ると入念に準備をする。そして神輿を担いで楽しむ。それが親友の生き甲斐だと長野さんは感じていた。神輿に何度か誘われたりもしたが、体力に自信のない長野さんは断っていた。「他の場所以外で担ぐ気はない、神輿の中にいる神様が嫉妬するからな」いつも親友は冗談混じりで笑って話した。それほど町内の神輿を愛していた。そんな親友が結婚をすることになり、渋々地元を離れることになった

        • 名のない猫

           美南さんは大の猫好きだ。けれど家族に猫アレルギーがおり、家で飼うことが許されなかった。そのため猫を愛でたい時は、お隣さんの所へ頻繁に遊びに行った。そこに住む夫婦が、猫を飼っていたからだ。 小柄な三毛猫で、とても静かな子だった。いつもお気に入りの座布団で眠っている。それがとても愛くるしく、見惚れるほど美しい。 ただ普段から優しい夫婦も、遊びに来る美南さんに約束事をさせた。「この子に名前を付けてはいけない。誰かのものにはなりたがらないから」何度も念を押す。二人は飼っている三毛猫

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        一緒に探して【改訂版】

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        記事

          父の大好物

           涼子さんは数年前、父を亡くした。とても物静かで真面目な性格だった。趣味もなく、唯一の楽しみが、母の作るおはぎだった。彼岸や法事の際に、必ず母が作る。それを父が全てたいらげる。子供を差し置いてだ。普段の父とは思えぬ行動だ。美味しくおはぎを頬張る父を見て、涼子さん達は笑ったそうだ。そんな父が病に倒れた。痩せ細り、最後は食事も出来なかった。何度か母がおはぎを作ったが、意欲はあっても、口に入れられる状態ではない。結局、父は大好物のおはぎを食べることを断念し、亡くなった。涼子さんもそ

          父の大好物

          鼠の頭

          沖縄県中部に住んでいる誠さん。彼女には赤ん坊の頃から、姉のように寄り添ってくれた家猫がいた。名はミィという。ミィは雌猫のキジトラだ。活発で気の強い子だった。誠さんが生まれる前から、家で飼われていた。そして彼女から片時も離れなかった。 それには理由がある。彼女は赤ん坊の頃、鼠に唇を齧られた。鼠は蚊帳を擦り抜け、布団に寝ている誠さんの唇を齧り、大きく形を変えてしまった。彼女自身、赤子であったため記憶にない。痛かったのだろう。その時は声を上げ、泣いていたと聞いている。それからミィは

          タマエ

          隆也さんは大学時代、下宿先で不思議な体験をした。彼の下宿先の世話人は、岸本という男性だった。  とても優しい人間で、息子と妻を水難事故で亡くした苦労人だ。不幸なことに、息子の亡骸は未だ見つかっていない。  そんな寂しさを埋めるため、彼は猫と同居していると話した。それを聞き、隆也さんは猫に会うことが楽しみになる。  猫は雌で、名を「タマエ」というらしい。  けれど何処を見渡してもタマエの姿はない。  隆也さんが猫の所在について尋ねると、 「あいつは私の部屋から出て来られないから

          居眠り

           大学生の上原さんはある地下鉄を利用している。その日は授業が昼過ぎということで、幾分ゆっくりと家を出た。地下鉄の入り口にたどり着き、ホームへ向かう。電車は時刻通りの到着予定。上原さんはホームで待つ。大学の最寄駅まで2駅。時間にして10分ほどだ。ただ電車待ちの中、周囲から何かが聞こえる。それは鈴の音だ。まるで糸に鈴を吊るし、人が手に取り揺らしたような音。(チリン…チリン)何処から聞こえてくるのか?鈴なんて誰が持っているのだ?辺りを見回しても分からない。乗車後、ドアが閉まり電車が

          育児放棄

           工藤さんは思春期に入ると、実の母から酷い虐待を受け始めた。理由は分からない。幼い頃はテレビやドラマに出るような”優しい母親”だった。母は徐々に豹変していく。工藤さんは母から毎日のように叱責されていた。酷い時は暴力や、食事もろくに与えられない。真夏真冬関係なく、夜中外に出される。そして泣きながら朝まで徘徊することもあった。このような行為を母にされても、心底憎むことは出来ない。優しい頃の母が頭によぎるからだ。工藤さんはむしろ自分を責めた。(自分が悪いのだ)と。父は仕事のため家に

          夢の中へ

           結菜さんは以前から大きな悩みを抱えていた。(自分は母の子ではないかもしれない)そんな悩みだ。母とは外見も背格好もよく似ている。父からは「若い頃の母さんに瓜二つだ」と茶化されもする。だから本来、そのような心配をする必要もない。けれど彼女の心のモヤは一向に拭えなかった。その理由は「夢」にあったからだ。幼い頃から時折、夢に現れる人物。それは見知らぬ中年の女。その人物は自らを結菜さんの実母だと名乗る。屈託のない笑顔で彼女を可愛がり、結菜さん自身も女のことを何故か「お母さん」と呼び、

          子守唄

           真斗さんは幼い頃から施設で育った。理由は分からぬが、自分は捨てられたのだと思っていた。当然親の顔も知らなければ、生きているかどうかも分からない。そのせいで自分の正確な誕生日さえ知るよしもなかった。けれど記憶がらなければ親を憎むこともない。それが日常であり、気にも留めることでもなかったからだ。そんな彼にある出来事が起きた。2月の寒い夜、身体が何かに縛られている感覚で目が覚めた。金縛りだろうか?真斗さんは初めての経験に動揺する。振り解こうともがくが、身体一切動かない。言葉さえも

          帯刀

           瞳さんは幼少期、岩手のある地域へ行く機会があった。父との二人旅、そして初めて訪れる場所。旅の理由は分からない。たどり着いた場所は広い古民家で、とても広い。父は入るなり、家に住む老夫婦2人と、何か悲しげな表情で話し込んでいる。そんな空気の中、お転婆な瞳さんは部屋中を駆け回る。時代劇が好きだった彼女は、旅先で父に土産物の模造刀を買って貰った。それを持ち、殺陣の真似事をしながら家中を暴れていた。その姿を見た老夫婦は、ほんの少し笑顔になる。けれど誰も相手にはしてくれない。瞳さんは段

          縁切り

          光彦さんの母は神職として神に仕えていた。日々、神に失礼ないよう生活を行う。自宅には神棚もあり、毎日丁寧に扱っていた。母は特に変わった力もない。けれど一度だけ母の不思議な光景を目撃したことがある。それは光彦さんの父が、理由も分からぬ病におかされた時期。熱も下がらず、毎日のようにうなされた。病院にかかっても原因は不明のままだった。光彦さんも看病を行ったが、父は徐々に弱っていき、意識も朦朧とする。そんな中、母は父の見舞いへも行かない。自宅にある神棚へ、毎日お祈りを必死にあげていた。

          動画配信者

          都内の会社で動画編集の仕事を請け負っている上条さん。主に顧客は動画配信者だ。中には有名な配信者もおり、いわゆるインフルエンサーという肩書きの人物もいる。その中には頻繁にやり取りを行う榊原という男がいた。弱小配信者の頃からの付き合いで、気づけばあるジャンルでは名を聞くような立ち位置になっていた。それはカップルによる配信動画だ。恋人との生活をコミカルに配信する。けれど恋人と袂を分かち、新たに一人で動画配信をすることになった。ある日、そんな榊原から動画編集の委託の依頼があった。上条

          動画配信者

          波長

          陽子さんは中学生の頃、楽しみにしていた番組があった。推しのタレントが出演する、週末のバラエティ。内容はオールジャンルで、時折取り上げる心霊写真のコーナーが目玉になっていた。陽子さん自身も怖いもの見たさではあるが、楽しんでいた。その感想を週明け、学校で仲の良い友人と話すことも楽しみだった。 けれどプロカメラマンである陽子さんの父は、よくそのコーナーを見て笑っていた。真剣に画面を見る陽子さんに対し、冷や水を浴びせる。 「なぁ陽子、こんな子供騙しの写真を見て面白いか?」 「いちい

          いないいないばぁ

          里帆さんは幼い頃から写真を撮ることが多かった。カメラ好きの家族の影響だ。時間があれば自宅のアルバムを引っ張り出し、家族や友人の映った写真を見る。思い出が蘇り、里帆さんはこの朗らかな時間を楽しみにしていた。けれど小学生の頃、ある出来事が起きる。それは仲の良いクラスメイト達を撮影した時だ。出来上がった写真を自慢げに皆に見せる。教室でクラスメイト数人が映る一枚。笑顔でおどけ、各々ポーズを取っている。細かに写真を眺めていると、ふと端に見慣れぬ人物がいることに里帆さんは気づいた。 自分

          いないいないばぁ