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映画『シャドウプレイ 完全版』中国なう(ネタバレ感想文 )

監督:ロウ・イエ/2018年 中国(日本公開2023年1月20日公開)

現代中国30年間を舞台としたネオノワール・サスペンスという売りだったので映画館に足を運びました。
私、意外と中国映画好きなんです。あと結構「現代史」好きです。あと、ミステリー好き。2時間サスペンス(を観る側)の帝王。京都は殺人事件が多すぎる危険な街。

ロウ・イエという監督の作品を観るのは初めてなのですが、この監督の目指している方向は分かるような気がします。
おそらく「今の中国」を描きたい人なのでしょう。

ただ、終点は2013年か14年。映画製作開始が2016年、ひとまず完成したのが2017年だそうですから、5年から10年前の「中国なう」。
完成後、中国当局の検閲で2年間修正が繰り返されて2019年にやっと中国で公開されたそうです。おそらく当局としては、「5年も昔の話で、今の中国の姿ではない」「習近平国家主席以前の話だ」という決着なのでしょう。
そうした検閲でカットされた数分を復元したのが今回の「完全版」なのだそうです。

習近平以後の中国も様変わりしますがそれは別として、90年代から始まった中国バブル経済はかの国を一変させました。
ロウ・イエが撮りたかったのは、たぶんそこです。
タイトル明け(だったかな?)の現在のファーストショットで、廃墟に近い古い街並の隣にビル群が立ち並ぶ風景が描かれます。
押井守が『機動警察パトレイバー the Movie』(1989年)で同じことをやっていますから、中国は20~30年遅れている印象です。
ついでに言うと、ミステリーとSFも中国は遅れていたのですが、最近では中華ミステリーの質がいいと言われ、中華SFに至っては「三体」が世界を席巻しています。(最近ではアニメの質もいいらしい)
つまりこの国は、共産主義体制のせいでいろいろ遅れていたけれど、やり始めたら極端だし規模も大きい。それがメリットでもある一方、この国の「ひずみ」にもなるのでしょう。その歪みが顕著になったのがこの映画で描いている時代なのだと思います。

描写がリアルです。
北京語?広東語?全然わからないけど、言葉を使い分けてますよね。
私が一番リアルだと思ったのは、ぶつかった自動車の壊れ加減(<そこかよ)。
たぶん、描写のリアルさで「描いている内容もリアルなんだよ」と言っているような気がします。

映画としては、社会派と娯楽性が共存していることは評価します。
社会性(というか主義主張)が強くなると娯楽性を放棄する映画が最近多いような気がしてましてね、特に最近の日本映画。

ただ、この映画の娯楽性は、2時間サスペンスの帝王(観る側のね)の私に言わせれば大した話じゃない。渡瀬恒彦や船越英一郎が日々解いているレベルの謎だし、悲しい女たちだって中山忍や国生さゆりで散々見ている悲哀でしかない。

映画的なことを真面目に言うとさ、緩急がないのよね。
ずーっと「急」なもんだからダイジェスト版を見ている気分。「完全版」なのに。
それと「モデルルーム・カーが横転してウンヌン…」とニュースで言うんだけど、映画としては「その車が証拠隠滅の場所として悪用されている」ことを事前に観客に見せておく必要があると思うんです。そうすると、その車が走っているだけで「映画的な情景」になり得るのです。
んー、そう考えると、「急」な勢いに任せて結構雑な気もしてきた。
その犯人がその犯行現場に潜り込むのは無理がある気がしないかい?

時系列が複雑に交錯する作品は好物だけど、この映画は時系列が行き来して種明かしをしているだけで、伏線やその回収という映画的な面白さには繋がってないように思うんですが、どうだろう?

(2023.01.28 吉祥寺アップリンクにて鑑賞 ★★★☆☆)

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