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映画『アフター・ヤン』アフターサービスはなかったのかな?(ネタバレ感想文 )

監督:コゴナダ/2022年 米(日本公開2022年10月21日公開)

悪い話ではないし、悪い映画でもないし、監督の意図も分かるので悪口を書く気はなかったんですが、振り返って突き詰めてみると、さして面白くもなく、なんだか出来の悪い話で、出来の悪い映画に思えてきたんですよ。

監督のコゴナダKO GO NA DAって人は、そのペンネームを野田高梧NO DA KO GO(小津安二郎映画の脚本家ね)から取るほどの小津好きなんですってね。
エドガー・アラン・ポーから取った江戸川乱歩みたいなもんだ。
ちなみに萩尾望都「ポーの一族」の主人公はエドガーとアランなんですよ。
エドガーとメリーベルの関係は「アッシャー家の崩壊」の本歌取りだと思ってるんですが、ここでは関係ない話なのでやめときましょう。

この映画でコゴナダは、SF設定を借りて小津的な「家族もの」を撮りたかったのでしょう。
その意図は分かります。
リモート機器での会話という設定で正面切替しの小津ショットをやってますしね。ま、物舐めのカメラ横移動は溝口健二の手法だけど。

また、韓国生まれの彼は、自己を投影して「東洋人とは?」という「出自」の話を織り込んできていることも、まあ、分からんではありません。

つまりこの映画は、「家族と出自」の物語なのです。

んー……でもねえ……
そのテーマをSFでやって観客に響くのかしらん?
『東京物語』(1953年)だったら、誰しもが老いた自分の親のことを想い、家族について考えを巡らせると思いますけどね。
私がハードSF指向(嗜好)のせいもありますが、この映画のテーマが
「人間とはなんぞや?」
「人はどこから来てどこへ行こうとしているのか?」
なら分かるんです。
押井守『GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊』(95年)とか、『ブレードランナー』(82年)ですな。
義体やレプリカントが意思(魂と言ってもいい)を持ってしまうことで、
「じゃあ、人間って何なの?」という永遠の問いに向かうわけですよ。

この映画でも
「彼は人間になりたかったのかな?」
「そーゆー、人間イチバーンみたいな発想が人間なんだよ、クソがっ」
みたいな台詞があるじゃないですか(<そんな言い方してない)。
私はここに本質があった気がするし、もっと掘り下げたら面白かったと思うんですがね。そういうの、もう古いのかな。原作はどうなんだろ?

もしかすると作り手は、「喪失と再生の物語」を描こうとしたのかもしれません。
ヤンの消えた世界は、小津で言えば原節子を嫁に出した後の笠智衆ですね。アフター・紀子。
(『晩春』(49年)『麦秋』(51年)『東京物語』の原節子の役名が「紀子」なので「紀子三部作」と呼ばれています。私、ずるいんです。)

ただ、話としては昔からよくあるパターンなんですよ。
消えた友人の過去を探るとか、死んだ友人から手紙が届いたとか。
いわば、チャンドラー「ロング・グッドバイ」。
『探偵はBARにいる』(2011年)も同じですね。
この手の話は、過去を探る過程の「旅」が肝です。
その道程で予想外の真実がつまびらかになったり、作家の意図する裏テーマが描かれたりするものです。
「喪失」の後、苦難を乗り越えた先に「再生」がある。
コリン・ファレルは眉を八の字にして困り顔をしていますが、お前、圧縮ファイルを解凍してるだけだからな。

そうやって、突き詰めていくと、なかなか出来の悪い近未来に見えてきます。

まず、このAIロボットが買い取り商品だったこと。
10年前はそれでもよかったでしょうが、今や我が家だってサブスクでルンバ使ってますからね(正しくはレンタルだけど)。
Amazon EchoとGoogle Home は買って後悔してます。Google Nest とか新しい物がすぐ出てくるから。

そもそも、人型ロボットの意味が私には分からないんですよ。
人間は、本能的に「人間そっくり気持ち悪っ!」と思ってるの。
ロボットはロボット的な形状のほうが心理的に受け入れやすいんです。
ドラえもんはドラえもんの形状だからいいんです。
スピルバーグの映画『A.I.』(2001年)の原案はスタンリー・キューブリックで、本来は性的な描写があったとかなかったとか語られていますが、ロボットが人間そっくりである必然性は性的玩具の意味合い以外に見出せない。
それに二足歩行の技術が難しいんだ。正直言うと、ガンダムで科学的に最も正しいモビルスーツはガンタンクなんだよ。
そう考えると、この映画の近未来は古い。古い近未来って何だ?

そもそも正規品を買わなかったコリン・ファレルが悪いんじゃねーの?
新古品だと思ったら、中国人が保証書を偽造した超中古品でしたって話でしょ。大叔母の記憶から考えたら50年以上の骨董品だぜ。
だとしたら、部品もかなり古いはずですよね?
修理屋で「これは骨董品だなあ」ってすぐ分かるんじゃないの?
たぶん皆だって10年前のiPhone5とか修理に出したら「もう部品ありません」って言われると思うよ。
そういう細部が雑なSF大嫌いなんだ。

芳根ちゃんの『アーク』(2021年)の時も感じたけど、「SFだったら何でもあり」「架空の世界にした方が設定が楽」という誤解がある気がします。

SFは、逆に緻密なんです。SFなめんな。

(2022.10.23 渋谷WHITE CINE QUINTにて鑑賞 ★★☆☆☆)

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