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映画『雁の寺』 川島雄三より若尾文子より水上勉の映画(ネタバレ感想文 )

監督:川島雄三/1962年 大映

正直言うと、思っていたのとだいぶ違ってました。
逆に言えば、川島雄三はこんな映画も撮れるんだと驚きましたけど。

相変わらず川島雄三の画面えづらは観てて飽きないし、若尾文子は魅力的なんですが、実は若尾文子は物語自体にあまり絡んでないんですよね。
こちらが勝手に想像していたのは、やっぱり若尾文子 ー 我々はかつて「あやや」と呼んでいましたが ー 彼女が悪女で男を手玉に取るような話。
ザイルを切っちゃうとかね。
それに最初に中村鴈治郎が出てくるでしょ。
もう、鴈治郎とあややでウヒウヒ映画だと思ったわけですよ。

ところがこの映画の中心は「小僧」なのです。
なんなら、あややを巡る男どもの話の体で始まるのに、途中から彼女は「語り部」の立ち位置に変わってしまう。
そうした視点のブレみたいなものが、この話がどこに向かって進んでいるのか分からない印象を与えているように思います。

どうやらこの「小僧」は、原作者の水上勉が投影されているようです。
水上勉は生まれが貧しく、お寺に小僧として出されたとか。
まあ、私は彼の小説を読んだことはないし、他の原作映画化作品も内田吐夢希少な現代劇『飢餓海峡』(1965年)しか観たことないんですが、なんかこう、貧乏がベースにある気がするんです。
ああ、『五番町夕霧楼』を観てみたいな。
これも「貧しさゆえ」がベースの話ですよね。
へえ、映画は佐久間良子版(63年)と松坂慶子版(80年)があるんだ。

つまり、小僧もあややも貧しい出自なんです。
そこに、金も権力も(色も欲も)持っている階層の象徴として「住職」が描かれる。
黒澤明『天国と地獄』(63年)もそうですが、この時期の日本、つまり60年代半ばの日本は「貧富の差」を意識した作品が目立つような気がします。
もしかすると、高度経済成長期の歪みのようなものが噴出し始めた時期なのかもしれません。

(2023.06.24 CSにて鑑賞 ★★★☆☆)

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