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映画『メタモルフォーゼの縁側』 承認欲求から利他主義への物語(ネタバレ感想文 )

監督:狩山俊輔/2022年 日(2022年6月17日公開)

いきなりネタバレというか映画を観た人しか分からないことを書きますが、映画終盤で、スクールカースト上位の勝ち組女子のクラスメイトに芦田愛菜ちゃんが「がんばって」と声をかけるシーンがあります。
このクラスメイトの美少女は汐谷友希というスターダストプロモーションの売り出し中の若手女優だそうですが、結構高身長なんです。芦田愛菜とはかなり身長差がある。
そこでこのシーンは、彼女が階段を降りかける際に声をかけて、同じ目線の高さに揃えるんですね。

この監督は映画が分かっている。

大女優・芦田愛菜の目線が上だと文字通り「上から目線」の物言いになりかねませんし、逆に下からだと卑屈な印象にもなりかねません。
目線の高さというか「高低差」って演出の重要な鍵なんですよ。

最近だと『パーフェクト・ケア』(2020年)の目線の高さの扱いは巧みでした。

サム・ライミの『スパイダーマン2』(04年)なんかも巧みで、「看板のMJ」「階段を降りてくるMJ」とキルスティン・ダンスト演じる憧れの女性MJをトビー・マグワイア演じるピーター・パーカーが常に「見上げ」ていたんですね。それが終盤、スパイダーマンは「上」からやってきて救い、MJに「見上げられる」存在へ変わっていくのです。

話が横道に逸れました。語るならスパイダーマンじゃなくて『パシフィック・リム』(13年)だったな。

『メタモルフォーゼの縁側』に話を戻します。
芦田愛菜ちゃんが走るシーン(スローモーション)が印象的な映画です。
(本当はもっといっぱいあるけど)象徴的な場面は3ヶ所。

最初の走るシーンは、幼なじみ&彼女とバッタリ会って「逃げる」。
次は学校終わりに宮本信子の家に「喜んで向かう」。
最後は幼なじみの手を取り、「彼のために」走る。

逃避 → 自己満足 → 他者利益 へというメタモルフォーゼ変化です。
つまりこれは、自己の承認欲求の渇望から充足へ、そして自己から他者の利益へと考え方が変わっていく物語なのです。

その一つが、芦田愛菜ちゃんが「ズルい」と羨望の眼差しを向けた勝ち組女子に対し、同じ目の高さで「がんばって」と言えるようになる心境の変化です。
宮本信子にも同じことが言えます。
自分用の食事はカボチャが切れずに包丁をぶっ刺したまま放置しますが、カレーやサンドイッチは「他者」へ提供するためにいそいそと作るのです。

正直言うと、「どうせいい話なんだろ?」と食指が動かず無視していた映画だったのですが、公開から半年近く経って岡田惠和脚本だと知り、知った時にちょうど近所の映画館で上映していたので足を運びました。
そしたら、岡田惠和らしい「悪人のいない」予想以上にいい話だったというわけです。
岡田惠和脚本で宮本信子、芦田愛菜といったら『阪急電車』(11年)だな。

この狩山俊輔という監督はお初にお目にかかりますだと思っていたら、
「銭ゲバ」(09年)「泣くな、はらちゃん」(13年)「ど根性ガエル」(15年)「奇跡の人」(16年)と(チーフディレクターではないにせよ)岡田惠和脚本のテレビドラマでさんざん見ていた人でした。
いい演出家だと思います。
別の場所での同時進行をカットバックで見せるという手法を多用しているのがちょっと気になるけど。

(2022.11.27 Morc阿佐ヶ谷にて鑑賞 ★★★★☆)

おまけ
9年前、大女優・芦田愛菜がハリウッドデビューした『パシフィック・リム』の公開当時に私が書いたコメント

大女優・芦田愛菜 当時9歳

あのね、芦田愛菜だよ。あのね、監督のギル、ギロ、デレ、デロ、んふふ。あのね、監督のカイジューに対する愛情がいっぱいいっぱいあるの、設定とか世界観とか。カイジューとかロボットがすっごいおっきいの。ちゃんと大きく見えるの。東京タワーより大きいの。スカイツリーより大きく見えるの。富士山くらい大きいの。愛菜はランドセルがまだちょっとおっきいの。

それとね、あのね、インターナショナル・ジョークがオシャレなの。ロシアは旧式だけど容赦無いとか、鳴き声以外豚を全部使う中国人は怪獣も無駄なく使うとか、司令官がヒバクしたのは日本とか。愛菜は子供だからよく分かんない、んふふ。

それとね、それとね、あのね、「怪獣は斥候」ってアイディアは、仮面ライダーや戦隊物の「怪人」の発想だと思うの。アイディア自体は悪くないけど、『ゴジラ』に始まる日本の怪獣は“破壊”であって“侵略”じゃないのね。つまり日本の怪獣は、敗戦の象徴、空襲などによる“破壊”の象徴だったのね。だけど、侵略して国を建てたアメリカや植民地にされた経験を持つ監督の出身地メキシコは、潜在的に“侵略”って思想が強くあると思うんだ。

もう一つ言うと、「兄ちゃん死んで弟がんばるよ」って話、アメリカに多い気がするの。『アバター』とか。日本だと「親の果たせなかった思いを子供が果たす」ってパターン、韓国だと逆に「弟が死んでお兄ちゃんがウォー!」ってイメージがあるんだけど、どう?あー、えーっと、芦田愛菜だよ。

それでね、あのね、聞いて、あのね、怪獣よりもロボットに言いたいことがあるの、んふふ。

シンクロだ!ダイブだ!って、『GHOST IN THE SHELL』や『エヴァ』以降流行りじゃない?『アバター』とか。この映画は、それをやりたいためにわざわざ「パイロット二人」という設定にしたように見えるの。本末転倒。その結果「家族を失った男女が出会う物語」になっちゃってる気がする。怪獣だ!巨大ロボだ!と大騒ぎした結果ボーイ・ミーツ・ガール。『スピード』かよっ!だいたいさあ、今だって障害者用に脳波だけで動く義手や義足があるってのに、なんで操縦席でバタバタ動いてんの?なんでポーズとってんの?「ライディーン」かよっ!

あー。キャラ忘れちゃったー。んふふ、あのね、ローラだよ。プー。

ライディーンかよ

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