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映画『658km、陽子の旅』 理解できないけど共感できる私がいる(ネタバレ感想文 )

監督:熊切和嘉/2022年 日(2023年7月28日公開)

私は熊切和嘉監督のファンで、『青春☆金属バット』(2006年)以降ほとんどの作品を観ていますが、肝心の『鬼畜大宴会』(1998年)を観ていないから、あんまり語る資格がないんだ。
それでも語ると(<語るんかい!)、私は熊切和嘉を「苛立ちとグーパンチを描く作家」と呼んでいます。

『青春☆金属バット』で竹原ピストルと出会ったんだ

本作も「苛立ち」の映画だと思います(グーパンチこそ出ませんが)。
それで今回気付いたのですが、その苛立ちは「閉塞感」から生じているのです。そう言えば、熊切作品はどれも常に、どことなく閉塞感が漂っている気がします。

あともう一つ気付いちゃったんだけど、私の好きな熊切作品は宇治田隆史脚本ばかりで、実は宇治田脚本が良かったんじゃないか疑惑が生じました。
いや、演出は完璧なんだ。熊切の切り取る映画的情景が好き。それに巧い。
菊地凛子のかすれた第一声だけで、もう長いこと人と会話していないことを描き切る。本当に巧いんだ、この人。
ただ、私があまり好きでない作品は、お話(脚本)に「ん?」となる。そしてそれは100%宇治田脚本ではない。そしてこの映画も宇治田脚本ではない。

この映画でちょっと、いや、かなり意外だったのは、主人公の迷走が偶発的なものだったことです。
私はてっきり、例えば「やっぱ行かない!」など、自発的な理由で迷走するものだと、勝手に思っていたものですから。

そうするとね、「大人」な私はイライラするんですよ。
もっと他に手段があったんじゃねーの?もっと早く電話すればよかったんじゃねーの?てゆーか、最寄り駅に連れてってもらえよ。
私には、主人公の行動が理解できない。ハマケン悪いやつだな。

ところがこの映画は、「コミュ障が自分語りをするまでの物語」を描くんです。
その自分語りの中で、「18(だったかな?)で家を飛び出した時、父は42歳。いま自分が当時の父と同じ年齢になった」と言うんです。
つまり、「あの頃大人だと思っていた年齢に自分が到達したのに、あの頃思っていたような大人になっていない自分」を自覚するんです。
これはある意味「大人になりきれない大人」の物語なのです。
それはめちゃくちゃ共感する。
菊地凛子のワンカット長台詞も含めて、グッとくる。

黒沢あすかと菊地凛子だけでグッとくる

理解はできないけど共感できる映画。
それが正直な感想です。

(2023.07.29 テアトル新宿にて鑑賞 ★★★☆☆)

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