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映画『青春弑恋』 今時の若者を描いた古風な映画(ネタバレ感想文 )

監督:ホー・ウィディン/2021年 台湾(日本公開2023年03月24日)

台湾映画です。青春弑恋しれんと読むそうです。駄洒落かどうか分かりませんが、青春の「試練」を描いた映画です。

英題は『Terrorizers(テロライザーズ)』。
これはエドワード・ヤン『恐怖分子』(1986年)と同じ英題です。
内容は『恐怖分子』へのオマージュあるいは本歌取りであることは間違いないので、おそらくわざとなのでしょう。
ちなみに私、『恐怖分子』大好きです。

私が『恐怖分子』の監督=エドワード・ヤンの作品を観たのは、彼が59歳でこの世を去ってから10年も後でした。
リマスターされた『牯嶺街クーリンチェ少年殺人事件』(91年)を2017年に初鑑賞。3時間56分の衝撃!

それから立て続けに『恐怖分子』を観て、超衝撃!
写すものと写さないもの、台詞で言わせることと言わせないこと、観客に提示すべき情報と観客に推測させる情報、エドワード・ヤンはその「選択」が緻密であり、間違いがなかった。
「映画ってこういうことだよな」としみじみ思う作家でした。

この映画も、エドワード・ヤン同様、写すものと写さないもの、台詞で言わせることと言わせないこと、観客に提示すべき情報と観客に推測させる情報を間違いなく「選択」している映画らしい映画です。

例えば、男女が雨やどりした電話ボックスの中でイチャイチャ(?)するシーンがあるんですが、その中の一つのショットを私は「間違っている」と思ったんですね。その引きの絵は第三者の視点の撮り方だぞ、まるで誰かが覗き見しているみたいに見えるじゃないか、と。
それが後々意図的だったことが判明した時に、この監督は分かってる人だと感じました。

劇中、手書きの手紙などを使いながら「(自分は)古風だ」ということを男女が話します。
これは、監督自身による「古風な映画を撮りますよ」宣言なのです。
VR、配信、コスプレなど今時のツールを扱う今時の若者でも「人の心は変わらない」という古風な映画なのです。
ラストの駅のシーンなんかね、古い手法なんだけど、グッときたんだ。

ホー・ウィディンというこのマレーシア生まれの台湾映画監督は51歳だそうで(本作制作時は49歳)、決して「若者の代弁者」ではありません。
トリュフォー27歳の『大人は判ってくれない 』(59年)ではないのです。
むしろこのアラフィフ監督は、この映画におけるマッサージ嬢のオバサン(お姉さん)や床屋を営む父親に近いポジションです。
そしてこの大人たちは、事情が分かっていて無言のままであったり、「テレビは壊れている」と言って世の中の噂話をシャットアウトしたりしたりする。
つまり、「優しい」大人たちなのです。

Z世代を描いた映画だという売りで、通り魔事件をモチーフにしていることから、大人から見たら『恐るべき子供たち』、若者から見たら『大人は判ってくれない』なのだと勝手に思っていました。
しかし蓋を開けてみれば、「若者だって心は変わらない」「大人は優しい」という映画だったのです。

欲を言うなら、ちょっと世間が狭すぎるんだよな。
あと、実はもっと血みどろなものを期待しちゃったんだよな(笑)。
予告編が悪いんですよ。あと、ちょうどシネマート新宿が『食人族』<4Kリマスター無修正完全版>のポスターとか貼ってたのも悪い(笑)

(2023.03.26 シネマート新宿にて鑑賞 ★★★★☆)

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