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映画『いつも2人で』 (ネタバレ感想文 )ちょっと思い出しただけ

スタンリー・ドーネン監督×オードリー・ヘプバーンは、『シャレード』(1963年)は何度も観てるんだけど、『パリの恋人』(57年)と本作は今まで一度しか観たことなかった。30数年ぶりに再鑑賞。
まさかこんな映画がスクリーンで観られるとは。
「午前十時の映画祭」に感謝。

ヘプバーン(キャサリンもいるので昔は「オードリー」と呼んだもんだが、今じゃ春日と若林のことになっちゃうから)30代後半の作品で、初めての「母親役」「中年役」なんじゃないかと思います。
つまり、世間が求める「オードリー・ヘプバーン像」じゃないんですよね。
実際、実年齢に近いシーンは魅力的ではあるのですが、回想シーンの若く可憐な時期(=世間が求めるイメージ)は、無理が見え隠れします。
有体に言ってしまえば、オードリーの旬が過ぎたことを如実に感じさせる作品でもあるわけです。
実は私、久々にこの映画を観て泣いちゃったんだけど、それもあったのかもしれません。
実際、彼女は、この映画と同年の『暗くなるまで待って』をもって、一度引退するんですよね。

私はこの映画を「あんなに愛し合ったのに系映画」の元祖と呼んでいて、当時は珍しかったと思うんです。
でもこれが今日の、『ちょっと思い出しただけ』(2022年)とか『花束みたいな恋をした』(2021年)に繋がっていくのです。

『ブルーバレンタイン』(2010年)とかフランソワ・オゾン『ふたりの5つの分かれ路』(2005年)とかも、この「あんなに愛し合ったのに系映画」の系譜だと私は思っているんですが、いずれも2000年以降なんですよ。
男女の恋愛物語は「成就するか否か」という「恋愛の成長過程」の物語が王道ですが、2000年以降はそれが「成熟しきった」果ての時代なんじゃないかと思うんです。
『いつも2人で』 は早すぎたんだ。
世間の求めるオードリー像でもなければ、世間が観たい物語でもなかった。

正直、「壊れていく過程」なんて見せられても面白くないんですよ。
それを2020年代の邦画は「ノスタルジー」として甘い料理に仕上げましたが、欧米は「男と女の現実」の苦い薬として捉えている節があります。

あと、今回改めて気づいたのですが、この映画は、2人が成功して豊かになったが故に別れの危機が訪れるんです。貧しかったけど「若かったあの頃なにも怖くなかった」というわけです。「小さな石鹸カタカタ鳴った」というわけです。
ところが最近の邦画、『ちょっと思い出しただけ』も『花束みたいな恋をした』も、成功もしないし豊かにもなれないんですね。むしろ、社会に飲まれて、疲弊して、別れていくんです。自己憐憫の塊みたいな『ボクたちはみんな大人になれなかった』(2021年)なんか典型例で、「どうしてどうして僕たちは出会ってしまったんだろう」ではなく、どうして僕たちはこんなに可愛そうなんだろう?の物語になってしまっている。
これが、いまの日本の現実。

もう一つ『いつも2人で』で今回の発見。ヌーヴェル・ヴァーグの影響を受けているようにも思うんです。
早回しのシーンでハタと気づいたんですが、時間軸をバラバラにした構成なんかもそうなんじゃないかな?と。
そこでさらにハタと気づいたんですが、この映画の前年の作品、クロード・ルルーシュ『男と女』(66年)を意識してるんじゃないか?

クロード・ルルーシュ『男と女』は「世界一どーでもいい話」と私は評している(でも大好きな)映画なんですが、同じなんですよ。どーでもいい話なんですよ。『男と女』なんて、レーサーと美人の未亡人という「ゾンビ」よりあり得ない設定の子連れの中年男女がくっついたり離れたりずーっとイチャイチャしているどーでもいい話(でも面白い)なんですが、この『いつも2人で』も、よーく考えると「だからどうした」って話なんですよね。
でもね、泣いちゃったんだ、俺。

あと、意外に「台詞劇」なんですよね。
でも、スタンリー・ドーネンらしいウィットと、「常に移動している」から、あまり「台詞処理」に感じない。日焼けのシーンと土管のシーンなんか最高じゃない?

その「常に移動している」件ですが、自動車(ヒッチハイク→中古車→高級車と、成功とともに変化している)ばかりでなく、船や飛行機も(もちろん徒歩も)登場します。
これは、ロマンチック・コメディの元祖、フランク・キャプラの『或る夜の出来事』(34年)だと思うんです。
実際、ヒッチハイクのシーンは丸パクリだと思いますしね。
ちなみに『或る夜の出来事』は、船の上から泳いで逃げた娘が、飛行機乗りの男に会いに行く途中、車に乗った男に出会って、走る花嫁となる物語なんですよ。
超素敵でしょ。

監督:スタンリー・ドーネン/1967年 米

(2022.05.02 TOHOシネマズ日本橋にて鑑賞 ★★★★☆)

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