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映画『八月の濡れた砂』 村野武範はいろいろ食いしん坊(ネタバレ感想文 )

監督:藤田敏八/1971年 日活

最初にお断りしておきますが、私の世代の映画ではありません。
この映画が公開された1971年(昭和46年)の私はまだ幼稚園児。
この映画はおろか、この時代の空気感すら分かりません。バブー(<赤ん坊すぎるだろ)。
でもこの映画、うまく説明できないんですが、好きなんです。

正直、映画の出来は決して良くないと思っています。
有り体に言って、下手。
梶芽衣子主演の『修羅雪姫』(73年)を観た時にも思ったんですが、ただでさえ話が雑なのに、映画が雑。藤田敏八は映画下手。
まあ、正直、私が藤田敏八を知ったのは鈴木清順『ツィゴイネルワイゼン』(80年)の役者としてですけどね。いま、何か言ったかい?
でも、この映画、好きなんです。

実は10年ほど前にケーブルテレビで見るともなしに見始めて、なんだか滅法面白くて最後まで見てしまったことがあります。
(冒頭の数分を観ていないので、今回が初鑑賞扱い)

私はこの映画に「説明不能なエモーション」を感じるんです。
今時なら「エモい」っていうの?
いや、「エモい」と私がこの映画に感じる「エモーション」がイコールかどうか疑問ですけどね。
先に「藤田敏八映画下手」と故人に鞭打つ酷いことを書きましたが、実は『修羅雪姫』もエモーショナルな印象を受けたのです。
何かこう、本人も意識していないうちに、映画的な躍動が撮れてしまったような印象。たぶん、70年代前半の藤田敏八は何か持ってたんだと思います。
ま、下手は下手なんだけど。

しかし今回鑑賞して、「説明不能なエモーション」の説明が出来る気がしたのです。いやまあ、まったく個人的な話なんですが。

おそらくこの映画、当時の若者の虚無感が描かれているのだと思います。
いわゆる、「団塊の世代」の後の「しらけ世代」。
大和屋竺が共同脚本で名を連ねていますが、大島渚や若松孝二の「政治の季節60年代」が敗北で終焉した後の時代を描いている。
富の象徴であるクルーザーの船内を血の色に塗り、銃をぶっ放すのは、閉塞感を打破したい若者の焦燥感。
しかしそんなクルーザーは大海原を木の葉のように漂い、まるで先の見えない若者の象徴のよう。
この映画が(公開当時は知りませんけど)評価されたのは、71年という早い段階で70年代の時代の空気感を捉えたことにあると思います。

でも私が感じる「エモーション」は少し違います。
冒頭に書いたように、私の世代の話じゃないもんで。
たぶん私、「夏休みの終わり」感に「エモい」ものを感じるんだと思うんですよ。
森田芳光『(本)噂のストリッパー』(82年)とか塚本晋也『ヒルコ/妖怪ハンター』(91年)とか。

私の言う「夏休みの終わり」感って、具体的には「ひと夏の経験」感なんです。山口百恵的女性視点ではなく、「男の子」が「喪失」を経て「成長」する物語。実は、寺山修司『田園に死す』(74年)にも同じ匂いを感じるんですよね。あー、やっぱり説明不能だ。

最後にもう一つ。
今の若い人は村野武範自体を知らないかもしれませんが、私の世代は「くいしん坊!万才」の人なんですよ。
調べたら7代目くいしん坊なんだって。ちなみに今の松岡修造は11代目。そして、この映画で村野武範の母親の再婚相手の渡辺文雄が初代くいしん坊。
そりゃあ、くいしん坊たちだもん、いろんな女も食っちゃうよね。犯罪だけど。

あと、輪姦まわされてポイと捨てられて全裸で海に飛び込む女の人がいるでしょう?テレサ野田って女優なんだけど、当時14歳だったんだって。
いろいろ犯罪じゃね?

(2022.09.01 神保町シアターにて鑑賞 ★★★★☆)


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