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映画『会社物語 MEMORIES OF YOU』 今観るといろいろグッとくる(ネタバレ感想文 )

監督:市川準/1988年 日

市川準長編2作目。
公開当時リアルタイムで観た大学生の私にはこの映画の良さは全然わかりませんでしたが、当時のハナ肇の年齢に近づいた今観るとグッとくるという話を、森田芳光からももクロまで、タフマンからリゲインまで交えて壮大なスケールで(?)書きます。
要するに言いたいことを書き殴ります。どうぞよろしく。

いきなり余談ですが、北千住にある「東京芸術センター シネマブルースタジオ」という所で鑑賞しました。ここを訪れるのは5年ぶりくらいかな。
北千住と言えば、森田芳光の遺作『僕達急行 A列車で行こう』(2011年)で「あそこ(北千住駅)から世界のどこにでもいける」という台詞があるんですが、北千住駅っていろんな路線が乗り入れてて乗り換えに便利なんですよね。北千住に行くたびに森田芳光の遺作を思い出します。
ちなみに副題の「A列車で行こう」はゲームタイトルではなく、ジャズのスタンダードナンバーです。デューク・エリントン楽団の曲。

さて、ここで森田芳光を持ち出したのには理由があります。

本作と森田芳光『そろばんずく』(1986年)は、「バブル期の会社」という同じテーマを全然違うアプローチから描いた二大傑作だからです。
ん?『そろばんずく』は傑作か?
厳密には、『そろばんずく』はこれから始まる(行き過ぎた)好景気の予兆
(バブル景気は1986年12月からと言われ、『そろばんずく』は4ヶ月前の同年8月に公開されている)を描き、
逆に『会社物語』はある種の終末観を漂わせて、91年2月に終焉する(行き過ぎた)好景気の行く末を予感させます。

やっぱり、あの時期は異常だったんですよね。
レストランで「まだお父さんのが来てないだろ!」と子供に食事を「おあずけ」させる親が描かれます。
森田芳光はこの手の「異常性」を強調しますが、このレストランシーンやイッセー尾形のシーンを見る限り、おそらく市川準も「時代の異常性」に気付いていたのだろうと思います。

ですが、彼は「時代の変化」という捉え方をしているようにも思えます。
例えば、部下のOLのお見合い。60-70年代の映画なら、ここで結婚話が決まっていたでしょう。
そして、酔った植木等が「今の日本は俺たちが作ったんだぞー」と叫ぶシーンにも時代の変化がうかがえます。

小さい画像しか見つけられなかった

このシーンはテレビCMで何度も流され、当時の日本人の大半は植木等のこの言葉を「納得」して見ていたと体感しています。
だって、この年齢の先輩方(植木等61歳、ハナ肇58歳)が高度経済成長期を牽引したから「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と呼ばれるまでの今日(当時)の好景気に至ったことは万人の認めるところでしたし、クレージーキャッツが日本の芸能界を牽引してきたことも万人の認めるところだったからです。

ところがこの「異常な時代」は
♪ サラリーマンは気楽な稼業ときたもんだ
から
「24時間戦えますか♬ビジネスマーン」に変化する時代でもあったのです。
なに?知らない?「スーダラ節」じゃねーよ、「ドント節」だよっ!

この映画は、一人のサラリーマンの定年退職に重ね合わせて、ハナ肇とクレージーキャッツが元々ジャズバンドだったこと(私ですらよく知らない)を我々に知らしめると同時に、彼らがコミックバンドとして牽引した「昭和」の終わりを描いた映画なのです。
(ちなみに、本作が公開された1988年(昭和63年)11月26日時点で、昭和天皇が体調不良で世の中自粛ムードだったのは事実だけど、まさか1ヶ月とちょっと後に昭和が終わるとは思っていないから、別に「昭和」を描きたかったわけではないと思いますけどね)

でもね、昭和なんですよ。
いま観るといろいろグッとくるんだ。
なに?このOLたち?
木野花、あめくみちこ、小川菜摘、広岡由里子…
みんな(今だから)知ってる顔。

若い男に持ち上がる結婚相手の専務だかの娘、余貴美子だよね。
伊東四朗が「(タバコ)やめたんじゃなかったの?」と秘書に言われるでしょ?この秘書、筒井真理子でしょ。
どっちもすぐ分かった。(でも羽田美智子は気付かなったんだよな)
こういう雑念は『つぐみ』(90年)でも書いたな。

ついでに、この愛人風秘書にタバコを止められるシーンで言うと、CMディレクター市川準の有名CMが「禁煙パイポ」。「私はコレで会社やめました」ってやつ。
なに?知らない?
伊東四朗が栄養ドリンク飲むでしょ。伊東四朗を起用した「ヤクルト・タフマン」のCMも長らく市川準が手掛けていた。
さらに言うと、「エバラ焼肉のたれ」も市川準が手掛けたCMね。ハナ肇が河原でのBBQで言うでしょ?「タレ取ってくれ」って。

こういうのも、今になるとグッとくるんだけど、何と言っても一番グッとくるのは、上京したての俺が見知った当時の東京の姿。
こんなにもこの時代の東京の姿を切り取った映画を観たことがない。
もう六本木の象徴アマンドはないんだよ……
なに?六本木アマンドを知らないだと!?

待て待て。そもそも、今時の若い子はクレージーキャッツが日本の芸能界を牽引してきたことを知らないのか?
「新春かくし芸大会」毎年恒例ハナ肇の銅像コントを知らんのか!?
ももクロ「Z女戦争」MVの中で川上マネージャーが同じことやってるよ。

ちなみに「Z女戦争」作詞作曲のティカ・α こと相対性理論やくしまるえつこが如何に天才かということを語り出すと長くなるので割愛しますが、この歌詞の中で「ねえエリントン、スウィングしなきゃ意味ないね」というフレーズが出てきます。言わずと知れたデューク・エリントンのことです。
ほーら、この話の冒頭「A列車で行こう」と繋がった。
そしてこの映画では、チャーリー・パーカーは語られてもデューク・エリントンは語られないのでした(<なんじゃそりゃ)。

ちなみにチャーリー・パーカー34歳の生涯は、クリント・イーストウッドが『バード』(1988年)で描いています。あ、同じ年の製作だ。
いずれにせよ、市川準作品は全部デジタルリマスターして永久保存していただきたい。

でもね、ジャズだジャズだと言いながら、酔ったら皆で三橋達也を歌っちゃう。それが昭和だったんですよ。達者でな。

(2023.05.07 北千住シネマブルースタジオにて再鑑賞 ★★★★☆)

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