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映画『真夏の夜のジャズ』 (ネタバレ感想文 )サッチモは北島三郎

2020年に4Kレストア版を鑑賞した際の感想文を改編して記載しています。
朝ドラ『カムカムエヴリバディ』の「るい」はこの「ルイ」じゃ、と映画を思い出したもので。

1958年7月3日から7月6日まで開催された「ニューポート・ジャズ・フェスティバル」のライブドキュメンタリー。
マーティがタイムトラベルして「ジョニー・B.グッド」を演奏してから3年後に当たります。

ジャズファンには垂涎ものの貴重な映像集。ジュルジュル

ジャズファンには嬉しい作品。
私もアニタ・オデイ目当てで映画館に足を運んだんですけどね。
動いてるアニタ・オデイを初めて見た気がする。
ジャズ巨人達の全盛期の映像(しかもカラー)ってあまり無くて、たいがい演奏とジャケ写しか知らんのですよ。

なので、あの人が!この人が!っていろいろ書きたくなる。
セロニアス・モンクはおもちゃのピアノを太い指で弾いて鍵盤2つくらい余計に叩いちゃったような音を出すよね、とかさ。
ルイ・アームストロングの安定感はまるで紅白の北島三郎みたいだ、サッチモはサブちゃん、とかさ。
でも長くなるからやめとくね。

映画として褒められる出来かと問われれば疑問

監督は写真家だそうなんですが、写真家が映画を撮るといつも同じ罠にハマってる気がするんですよ。
「撮りたい映像」ばかりが先行して「伝えたい内容」が表現できていない。映像は美しいんだけど、ツマラナイ。簡単に言えば独りよがり。
操上和美の『ゼラチンシルバーLOVE』(2009年)とかさ。
「ニューポート・ジャズ・フェスティバルとアメリカズカップの記録である」って、どんな言い訳なんだよ。

60年後の「今」だからわかること

サッチモのことを少し書くけど、「この素晴らしき世界 (What a Wonderful World)」が代表曲じゃないですか。もう耳タコ。でもその曲、この映画から10年近く後なんですよ。この映画はシメで「聖者の行進」を演奏しますが、サッチモの「聖者の行進」って私の幼少期の記憶にある。それほど世界的に大ヒットした気がします(映画『5つの銅貨』の中でダニー・ケイと歌っているのがどうやら同時期らしい)。「この素晴らしき世界」は、北島三郎なら「まつり」なんだけど、この頃は「与作」だったんです。

時を戻そう。

マーティ・マクフライがデロリアンでタイムトラベルした先が1955年。
そこで演奏した「ジョニー・B.グッド」を電話越しで聞いてロケンロールを始めたのが、この58年のフェスに参加しているチャック・ベリーであることは皆さんご存知の通りです。
いやもう、のりのりチャック・ベリーと次のチコ・ハミルトンの落差に笑っちゃうのは置いておくとして、ビートルズのデビューが4年後の62年ですから、チャック・ベリーやプレスリーが人気だったとはいえ、まだロック前夜のロケンロールは、R&Bの一種として、ゴスペルなどと一緒にジャズ扱いだったことがうかがえます。

しかしこの映画でチャック・ベリーが演奏する「スウィート・リトル・シックスティーン」は、5年後の63年に発表されるビーチ・ボーイズの超大ヒット曲「サーフィンUSA」クリソツです。盗作かリメイクかはともかく、チャック・ベリーの影響が大きかったことは事実です。
ちなみに、「サーフィンUSA」のヒットを知ってか知らずか、同じ年にビートルズもテレビで「スウィート・リトル・シックスティーン」を演奏しています(「ライヴ・アット・ザ・BBC」収録。他にもチャック・ベリーのカバー数曲あり)。

こうしたチャック・ベリー門下生(?)たちは、その後、ビーチ・ボーイズ(というかブライアン・ウィルソン)が「ラバー・ソウル」に衝撃を受けてサーフィン・サウンドを捨て「ペット・サウンズ」を生み、今度はそれにビートルズが衝撃を受けて「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」を生み出す、といった具合に、互いに刺激し合いながらロックを進化させていくのです。

一方、アメリカでのジャズ人気は下降線を辿り、マーケットの主軸はヨーロッパに移っていきます。
(そう考えるとこの映画は、ヨーロッパマーケットを開拓したのがサッチモだったという証言記録でもある)。
ジャズ黄金期の映像が少ない理由の一つはここにあるんですよね。
映像よりライブの時代がジャズの黄金期だった。
マイケルJフォックスが調子こいて「変わった音楽」を演奏しなければこんなことにはならなかったのに。

ジャズが一番いい時代。アメリカが一番いい時代。

チャック・ベリー絡みの無駄なネタを言い出したので長くなってしまいましたが、何が言いたいかと言うと、この映画は「ジャズが一番いい時代」を切り取ったということです。
そして、ジャズが一番いい時代ということは「アメリカが一番いい時代」でもあったわけです。
実際このフェスの3年後、アメリカはベトナム戦争という泥沼に片足を突っ込むことになります。マヘリア・ジャクソン「主の祈り」で映画の幕を閉じるのも、まるで何かの象徴のようです。

しかし、それは結果論であって、制作時に意図したことではありません。
ジャズが斜陽になるのも、アメリカが泥沼戦争にはまるのも、アニタ・オデイがヘロイン中毒になるのも、ダイナ・ワシントンが睡眠薬の過剰摂取で39歳で死んじゃうのも、エリック・ドルフィーがヨーロッパツアー中に36歳で突然死するのも、33歳のリー・モーガンが愛人に射殺されるのも、当時は誰も知らなかったのです。時も戻せないし、未来も予測できないのです。

あ、リー・モーガン出てないや。

(2020.08.22 角川シネマ有楽町にて鑑賞 ★★★☆☆)

監督:バート・スターン/1959年 米(4K版日本公開2020年8月21日)


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