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映画『パーフェクト・ケア』 (ネタバレ感想文 )介護物と思ったらアウトレイジ。

ウチのヨメが「ゴロゴローゴロゴロー(づんの飯尾さん風に)、あーあ、年寄り騙して小銭稼げないかなあ」と言っていた矢先にこの映画があったので、早速映画館に足を運びました。
結果、「小銭を稼ぐなんてしみったれた野望じゃダメだ」と決意を新たにしたようです。
(ちなみにウチのヨメは、高齢者の介護ではなく、障がい者の介助を仲介する事業所を経営しています)

映画、面白かったです。情に流されたり半端な改心とかしない所がいい。
全員悪人。まるで『アウトレイジ』(2010年)。
まさに『仁義なき戦い』(1973年)。
手口の鮮やかさはまるで『ミッション: インポッシブル』(1996年)。
あの脱出劇はまさにトム・クルーズ。身体は鍛えておくもんだな。

ちょっとした台詞も計算されている

ロザムンド・パイクが親絡みで脅されて、「あんな毒親」と毒づく台詞があります。
これ、いい台詞です(いい台詞って言い方も変だけど)。
このたった一言で、彼女の「生い立ち」が透けて見えるからです。
動機の言い訳めいた理由付けをグダグダ説明する必要はない。
不幸な環境で育ったことが「野心」を生んだ、ということが伝われば充分。

また、ピーター・ディンクレイジ演じるヤーさんの「はい、殺すの決定」の引き金にもなっています。
何故なら彼は母親を大切にしているから。
彼女が親を想って涙の一つも流せば、彼は赦したかもしれません。
決定的な価値観の相違。

カメラ位置は立場を象徴

この映画の撮影も割と好みでした。
カメラが切り取る構図も良く、時に映画的情景もある。

例えば、ダイアン・ウィーストの家にロザムンド・パイクが訪れ、初めて二人が対峙するシーン。
ロザムンド・パイクがダイアン・ウィーストを少し見下ろす構図だったと記憶しています。二人の身長差ということもありますが、ロザムンド・パイクが優位に立っていることをこのカメラ位置は意味しています。

その後、ロザムンド・パイクと小人のマフィアの対峙の際は、あんなに身長差があるのに、対等な位置関係で二人を撮ります。
「勝負あり!」って時だけカメラが見下ろすんです。しかも足なめで。
足の下=地べたに這いつくばらせてやった、という構図です。
弁護士と法廷でやり合う際は、優位に立つ彼女をカメラがやや見上げますし、ピーター・ディンクレイジとの最後の交渉は対等な高さでカメラが捉えています(たぶん)。

観客の感情を切る手法

ただ、気になる点もあります。
いや、面白いと言った方がいいのかな?

前述した、ダイアン・ウィースト宅にロザムンド・パイクが訪れるシーン。
廊下を歩くダイアン・ウィースト視線で、ドア越しのロザムンド・パイクにカメラが近付くワンカットがあります。
要するにこのシーン、ダイアン・ウィースト視点で撮られているんです。
なので、「ロザムンド・パイクが老婆を訪れる」のではなく、ダイアン・ウィースト視点で「不審な訪問者現る」というシーンになっているのです。
続く「施設」のシーンは決定的です。
完全に「困惑するダイアン・ウィースト」の視点で演出されます。

その結果何が起きるかと言うと、観客はこの婆さんに感情移入します。
お婆さん可哀そう。ロザムンド・パイクは悪い奴だ。お前がダイアン・ウィーストを騙そうなんて百年早い。彼女を誰だと思ってるんだ。『ハンナとその姉妹』だぞ。

これは意図したものか、演出の失敗なのかは分かりません。
ダイアン・ウィーストという大物女優に感情移入させたことで、「この二人の対決か!?」「婆さん大活躍か!?」「すわ『大誘拐』(91年)か!?」という余計な想像の余地を与えてしまったことは失敗だったかもしれません。

でもこの映画において、「観客の感情を主人公から一度切り離す」ことは正解だった気もします。
冒頭に書いたように、彼女は情に流されたりしません。改心もしません。おそらく観客の同情も必要としないでしょう。観客はきちんと「こいつ悪い奴」と思って観た方がいい。中途半端なドラマあるある知識で「でも本当はいい人」「裏には悲しい事情が」なんて幻想を抱くと痛い目に合う。
これは悪人を楽しむ映画なんです。

なので、「彼女に感情移入する話じゃないよー」という監督の宣言だったのだろうと私は思っています。
まあ、ウチのヨメのように間違ったリスペクトをする者もいますがね(<普通いない)。

感情移入できないので「どこに気持ちを持って行っていいのか分からない」という観客もいることでしょう。
でも私は、野心を抱えてジタバタする様が、イマヘイ『にっぽん昆虫記』(1963年)みたいで面白かったんですがね。ロザムンド・パイクは左幸子。(2021.12.05 角川シネマ有楽町にて鑑賞 ★★★★☆)

監督:J・ブレイクソン/2020年 米(日本公開2021年12月3日)

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