記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

映画『惑星ソラリス』 (ネタバレ感想文 )ソラリスはいい塩梅。

デジタルリマスター版で再鑑賞。約30年ぶり(<最近そんなのばっかり)。

私は、タルコフスキー好きッ!とか言ってる監督至上主義のいわゆる「シネフィル」系の嫌な野郎なんですが、巨匠・名匠と呼ばれる監督を神格化するのもどうかと思っています。
いや、それも自分が年齢を経たからだな。
若い頃はやっぱりタルコフスキーを神格化していたよ。
『惑星ソラリス』(72年) 製作時、タルコフスキー40歳。俺より全然年下。あいつ小難しいこと言って年下のくせに生意気なんすよ。
てゆーか、タルコフスキーは今の私の年齢で死んでるんだねえ。

そんなこんなでこの作品、今となってはタルコフスキーで一番分かりやすいと思うんです。難解さ加減が丁度いいんですよ。ゲームと同じで、やさしすぎてもムズすぎても面白くない。ソラリスはいい塩梅。

私はずっと「恋愛映画」だと思っていました。初代『ゴジラ』(54年)と双璧をなす究極の恋愛映画。20代の俺、若かったな。
いま観たらホラーでした。
奥さん出てくるまでの「チラ見せ」は完全にホラー演出。
奥さん出てきても怖い。嫉妬とか執念深さとか、別の意味でも怖い。
それに何?あのドア破り。『シャイニング』(80年)と双璧。
そして意外にも「嫁姑問題」物でした。
これはヒッチコックの『鳥』(63年)と双璧。『鳥』は未婚だから嫁姑じゃないけど。もうホントに『鳥』はねえ、最初の頃、グダグダ恋愛物やってんのよ。

でもこの映画、ホラーなのに眠くなるんです。
何故か?配信で倍速鑑賞しても遅いから?違います。
主人公の行動目的が不明だから。
登場人物が何を考えてるのかサッパリ分からんのですよ。
これはタルコフスキー映画全般に言えることなんですが、この映画は特に「話が分かりやすい」から「感情の流れの不透明さ」が際立ってしまう。
そして、登場人物の意図は不明なのに、シネフィル系の観客は「タルコフスキーの意図」を探ろうとするのです。これ、タルコフスキー映画あるある。

後の作品を知っているから分かることもあるんですよね。

例えばこの映画では「(重力装置が切れるから)数分間無重力状態になるよ」と事情を説明してくれます。
なので、この映画公開当時の観客は「浮遊シーンを撮りたかったのねえ」くらいに思ったかもしれません。
しかし後の作品で、何の説明もなく唐突に浮遊シーンが登場します。もはや「毎度おなじみ」くらいの勢いで。
そうなってくると、「なぜ浮遊するか」というストーリ上の事情よりも「なぜタルコフスキーは浮遊シーンを描きたいのか」ということになってくる。これが前述した「タルコフスキー映画あるある」の要因だと思うのです。

タルコフスキーは、同じような(意味不明の)モチーフを繰り返し出してきます。
例えば、この映画で描かれる「母」は、後の『鏡』に繋がっていきます。
この映画で誰だかの誕生日(だったかな?)パーティーで三人がグジャグジャ口論になりますが、後の『ストーカー』で描かれる「芸術×科学×宗教論争」に繋がります。なんならこの映画に登場する「犬」すら、後の映画でも登場する何らかの暗喩なのかもしれません。
ああ、あと「風」ね。火や水は言うまでもないんですが、宇宙ステーション内で風を語るとは思わなかった。通気口にビラビラ付けるでしょ。あれ、ストーリー上には意味はないけど、タルコフスキー的には意図がある。

あと、本の「挿絵」ってのもよく出てきます。
この映画では「ドン・キホーテ」じゃないかな?
東西冷戦の中で宇宙開発競争が熾烈を極めていた時代です。
そんな宇宙開発を「風車に突進するドン・キホーテ」だと非難していたのではないかと私は思うのです。

(2021.11.13 Morc阿佐ヶ谷にて再鑑賞 ★★★★★)

画像1

監督:アンドレイ・タルコフスキー/1972年 ソ連

この記事が参加している募集

#映画感想文

66,330件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?