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映画『ザ・キラー』 フィンチャーはヒッチコックの進化系(ネタバレ感想文 )

デヴィッド・フィンチャー/2023年 米(日本公開2023年10月27日)

日本のオムニバス映画で『KILLERS キラーズ』(2003年)ってのがありましてね。その一編で『.50 Womanハーフウーマン』ていう押井守が監督している珍作(?)があるんですが、延々と標的ターゲットを待つ殺し屋の話なの。
この『ザ・キラー』の第1エピソードと一緒。
もっとも、本作のストイックな殺し屋が食べるのはタンパク質を摂取するためのバンズ抜きのマクドナルドですが、『.50 Woman』はコンビニのおにぎりや菓子パンで、エンドロールに殺し屋が食べた物が紹介されるという作品(だったと思う)。
ちなみに、その映画で撃ち殺されるのは「悪徳アニメプロデューサー」。
演じているのはジブリの鈴木敏夫(笑)。
二人はOVA『天使のたまご』(1985年)でプロデューサーと監督の関係だったんじゃないかな?

無駄話ついでにさらに無駄話を書くと、『ザ・キラー』の劇中、主人公の殺し屋が好んで聞く音楽はザ・スミスだと思います。
ザ・スミスはあれですよね、『(500)日のサマー』(2009年)で主人公の男女が出会うきっかけとなった曲じゃなかったかな?
「モリッシー好きの殺し屋」って魅力的だなあ。
マッチョではなく内省的な人物である印象を与えますしね。
日本に例えると何だろう?
矢沢永吉を聞くタイプじゃなくて、井上陽水を聞くような殺し屋……か?

私は以前から「デヴィッド・フィンチャーはアルフレッド・ヒッチコックの進化系」だと思っています。
そう言い始めたのは『ゾディアック』(2007年)からですが、思い返せば『パニック・ルーム』(02年)のオープニングタイトルは『北北西に進路を取れ』(1959年)のオマージュでしたからね。
決定打は『ゴーン・ガール』(2014年)。
あれはもう完全に『めまい』(1958年)の本歌取り。

本歌取りとは、本来、和歌の作成技法のひとつで、有名な古歌(本歌)の一部を意識的に自作に取り入れ、そのうえに新たな時代精神やオリジナリティを加味して歌を作る手法のことです。

(松涛美術館Webサイトから)

ちなみに『ゴーン・ガール』のパクリがドラマ『僕のヤバイ妻』(16年)なんですが、「パクリ」と「パロディー」「オマージュ」は似て非なるものです。
決定的な違いは「作者の気持ち」。
前者は「元ネタがバレなきゃいいな」、後者は「元ネタをバラしたい」。
ちなみに本歌取りは「分かる奴だけ分かればいい」。
本歌取りは「新たな時代精神やオリジナリティを加味」するから進化するんです。

さて、話が横道に逸れましたが、この『ザ・キラー』の第1エピソード1は(押井守『.50 Woman』とは全く関係なく)、ヒッチコックの『裏窓』(1954年)ですよ。新手の『裏窓』。
そしてこの長く退屈な「静」のパートから一転「動」へと転換する見事さ。
そこから先は、予想外の『北北西に進路を取れ』。
本歌は「追われる者」ですが本歌取りは「追う者」の話。
そう思ったら、ティルダ・スウィントンがエヴァ・マリー・セイントに見えてくるもん。どっちも綿棒みたいだし。え?見えない?ああ、そうですか。

『北北西に進路を取れ』

殺し屋の男は頻繁に心拍数を計測します。
自身の「冷静さ」を保つためなのでしょうが、私は、「自分はまだ生きている」ことを彼が無意識に確認しているのではないかと感じました。

ハラハラドキドキ、観客の心拍数は上がる映画だけどね。

(2023.11.04 ヒューマントラストシネマ渋谷にて鑑賞 ★★★★☆)

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