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映画『ストーリー・オブ・マイ・ワイフ』 (ネタバレ感想文 )船長!女は操縦不能です!

監督:イルディコー・エニェディ/
2021年 ハンガリー・ドイツ・フランス・イタリア(日本公開2022年8月12日)

ほとんど誰も観ないであろう映画で、観た人にしか分からないことを書きます。そして、そういう映画ほど面白いことが書ける悪癖があります。

『わたしの若草物語』(2019年)に似たタイトルですが、全然違います。

そういや以前、女子中高生で溢れかえった渋谷の映画館で『となりの怪物くん』を観た際に、おそらく唯一「夫婦50割引」で入場した年齢の私に安心したのか、見知らぬお爺さんが話しかけてきて「大野が出てるのか?」って聞いてきたので「『怪物くん』違いですね」と教えてあげたことがあったな。あの爺さんまだ生きてるかな?

監督は、何度見ても読めないし覚えられないイルディコー・エニェディ。
ハンガリーの女性監督です。いま66歳。
私は『心と体と』(2017年)を観て惚れ込んで、リストアされたデビュー作『私の20世紀』(1989年)も観て(それ以外は日本で公開されていない)、新作を楽しみにしていました。

2本しか観ていませんが、特徴が2つあると思っています。

一つは視点のしっかりした作品であること。
『心と体と』では、男女の物語を、男側の視点と女側の視点で描いていました。途中に「牛」視点が入るのですが、それを話すとややこしくなるのでやめましょう。牛視点?本当だってば。実際、途中でやたら長い屠殺シーンがあるんですが、その後ピタッとその視点がなくなるんだから。

本作でこの「視点」を考えるとしたら、徹底した「男視点」。
女性監督が考える「男視点」「男の考え方」が一つの妙味だと思うのです。

もう一つはフェミニズム。
『私の20世紀』では、生き別れの双子姉妹が革命家と詐欺師になって再会する話だったかな。
私のイメージとしては、この監督が描く女性像は、処女と少女と娼婦に淑女、How many いい顔、全部持っている。
ああ、そうか、この映画、ウーン君にはまったく、君ってまったく、って映画なんだ。

少し真面目に書きます。

男は「自分語り」をします。
ジャワ島で幸せな家庭を見てさあ、みたいな話です。
ところが、女は自分のことも、自分の過去も一切語りません。なんなら、未来のことも語らない。
(対照的に若いお嬢さんは「私、いい奥さんになるわ」と未来を語る)
レア・セドゥーはひたすら「今」。
なんなら、今日遊ぶお金さえ貰えればいい。
金貰えないで机の上でダダこねるシーン大好き。

これこれ、このシーン

一方、男は船長です。
航海図や天候といった「未来」を見ます。先に「過去」の自分語りについて書きましたが、彼にとって陸上の「今」は苦行でしかない。

これは、過去と未来を見ている男と今を生きる女の物語なのです。

実際、二人は「過去」もないまま、「今」出会って結婚します。
また、船長として「海」の上の仕事を「未来」、旅先での島の思い出を「過去」、そして陸上を「今」だと考えると、レア・セドゥーは「陸」から離れないんですね。
せっかく(新婚旅行も兼ねて?)客船の船長を引き受けたのに、彼女は同伴してくれない。
唯一、終盤で「川」の船上デートをしますが、彼女、楽しそうじゃないんですよ。

そう考えると、前半の貨物船の船上シーンは、実に「男社会」の印象が残ります。

ああ、なるほど。
少し穿うがったフェミニズム観点の見方をすると、一昔前は「男の世界という大海原に飛び込む女」が強い女でしたが、今は「男がおかに上がって来いや」というのが強い女なんだな。
それは『突然炎のごとく』(1962年)のジャンヌ・モローから同じか。

でも、そう考えると、本作は話のオチのつけ方が「男が書いたストーリー」に思えてしまうのが不満。

(2022.08.14 新宿ピカデリーにて鑑賞 ★★★☆☆)

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