映画『キリエのうた』 異邦人とさよなら。天使のダミ声再降臨(ネタバレ感想文 )
最初にお断りしておきますが、私は岩井俊二ファンではなく、「同じ市川崑ファン」の同志だと思っています。勝手にね。
岩井俊二が撮ったドキュメンタリー映画『市川崑物語』(2006年)では、彼の熱い想いと私の想いがリンクして、映画館で涙を流したもんです。
なので、岩井俊二の「逆光」も「ジャンプカット」も「ピンボケカット」も市川崑の影響なのです。
そんな前置きはさておき、この『キリエのうた』、いい映画なのですが、先に苦言を呈します。
私は、岩井俊二を「アイディアとテクニックの人」と評していたのですが、本作は手癖で撮ってる感があります。
『スワロウテイル』(1996年)以来の音楽映画というだけでなく、『Love Letter』(1995年)であり、『リリイ・シュシュのすべて』(2001年)であり、『花とアリス』(2004年)の要素が盛りだくさん。
ほんと、岩井俊二は、女の子たちがイチャイチャしてるの好きよね。
そして根底のテーマは『ラストレター』(2019年)。
ま、彼は宮城県出身ですから、それは仕方がない。
ちなみに私は『ラストレター』で、森七菜や広瀬すずに向ける60歳近い岩井俊二の視線が気持ち悪くてドン引きしたんです。
例えば『花とアリス』とか、まだ彼が若かった頃はそれでもいいですよ。
私も世代が近いし、同志だから(笑)、分かるんです。
ただまあ、そんな岩井俊二も、奥菜恵や広瀬すずというかつての自分のミューズを登場させて「結局、女は詐欺師だった」ということにやっと気付いたという映画なのです(<嘘です)。大人になったな、岩井俊二。
冒頭、アイナ・ジ・エンドがアカペラで歌うオフコース『さよなら』で、ハートを鷲掴みにされます。
オフコースが、イーグルスやボストンの影響を受けているというスージー鈴木先生の受け売りを話し始めると長くなるので、ここでは触れませんが、
岩井俊二はこの冒頭で、「これは別れの映画です」宣言をしているのです。
劇中、久保田早紀『異邦人』も何度か歌われます。
萩田光雄アレンジの最高傑作だという話をし始めると長くなるので触れませんが、これは「彷徨う者」の物語であることの暗示です。
同様に、新宿南口辺りでアイナ・ジ・エンドと広瀬すずが出会った後のシーンでは、バックに『帰れないふたり』が流れます。これは井上陽水と忌野清志郎が(<もういいよ)
その後のオリジナル曲は、小林武史が作ってると思うと腹が立ちますが(<小林武史嫌い)、アイナ・ジ・エンドの歌は大変素晴らしく、憂歌団の木村充揮かと思うほど。
感動しちゃったもん。
小林武史でも感動させられるほどアイナ・ジ・エンドの歌は凄いんだ!
クライマックスの曲はピンとこなかったけどな…と思っていたら、私が感動した曲はアイナ・ジ・エンドが作った曲で、ピンとこなかった曲は小林武史が作った曲だったようです。よかった。自分の耳に自信を深めたよ。
この映画のタイトルでいう「キリエ」は誰なのか?
おそらく多くの人は、アイナ・ジ・エンド演じる歌手キリエ(本当はルカ)のことだと思うでしょう。でも私は、姉のキリエを指していると思います。
私はこの映画を、姉キリエへの鎮魂歌だと解釈しています。
つまり本作は、あの災害の犠牲者へのレクイエムなのです。
だから主人公二人は、彼の地へ向かうのです。
もう一つ。
「アイディアとテクニックの人」岩井俊二どうした?的なことを冒頭で書きましたが、現代を切り取る視点は流石だなと思いました。
それは、「プロになることがゴールではない」ということなんです。
この手の話は、プロになったり、歌手として成功するのがゴールだったりするものです。
でもこの映画は違います。プロデューサーを名乗っている北村有起哉なんか何の役にも立ってない。
でも、地位とか名声とか、足元にビッグマネー叩きつけてやるとか(<それは浜田省吾)、そういうことが今時の若者の「ゴール」ではないんです。
それにこの映画は鎮魂歌、つまり「魂の映画」ですから、物理的なものを手にすることが結論じゃいけないんです。
純白のメルセデス、プール付きのマンション、最高の女とベッドでドン・ペリニヨン的な価値観の代表が、豊原功補なんですよ。爆笑シーン。
余談
松村カムカム北斗くんは、かねがね江口洋介に似てると思っていましたが、兄弟じゃねーよな。親子の年齢だよな。
(2023.10.22 新宿ピカデリーにて鑑賞 ★★★★☆)
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