インドのひとたちとわたくし。(106)-ロックダウン2.0:お酒をめぐる問題
当然のように、21日間のロックダウンは5月3日まで延長になった。延長は4月30日までという説もあったが、月の終わりがなにかの区切りになるとも思えずにいたら、今日から4月20日まではとにかく監視を強化して、市民がどこまでロックダウンを徹底できるのかを評価したうえでさらに約2週間の延長、で、5月3日までということだろうか。
我が家では頻繁に手を洗うのはもちろんのこと、外で買い物してきたら、家の中のものに触る前に玄関で手を消毒し、買ってきた品物のパッケージもそこですべて消毒液で拭いてからキッチンに持ち込む。ドアノブやスイッチなど手を触れる先は毎朝これも掃除のついでに除菌クリーナーでふき取る。リモコンや携帯、PCもだ。
食材の調達はだんだん慣れてきた。水は宅配の店が近くに見つかったし、生鮮野菜と果物は近所でまかなえる。肉や魚は営業している数少ないデリバリー店から届くのを気長に待つ。輸入食材など近所で見つからないものは、週1回程度、徒歩とリクシャで少し先のマーケットまで足を伸ばす。
今日も朝からオーガニック店に出向いた。いつも陽気な赤毛のアンジュンが、さすがにげっそりした顔で階段の下の目立たないところに座り込んでいる。宅配の注文が殺到してさばき切れないらしい。それでも新しい商品は入荷しているようで、前回は買えなかった冷凍ポークやオーガニックのコーヒー豆が入手できたから大成果だ。
問題は、やはりお酒である。
14日午前のPM 演説の直前まで、隣のグルガオンでは明日から酒の販売を再開、デリーは20日から、という話が出回っていたのでひと安心していたのに、演説の翌日に出た政府のガイドラインでは「お酒とたばこの販売は一斉禁止」とある。思わず目をこすって二度見した。が、やはり書いてある。えええ、こないだ酒類業界が政府に陳情したとか、デリー政府が販売再開を検討しているとか、ニュースになっていたのは、あれはなんだったのか。路上に吸殻を吐き出す噛みタバコとか、喫煙そのものが感染リスクも高いという理由で禁止するのはまだわかる。しかし、お酒は違うだろ。
ロックダウン開始時に販売を禁止した時点で、すでに市中にはグレー・マーケットが出来ている。
隣の州から酒を「密輸」して警察につかまっている話は何回も報じられている。配達用ミルクの大缶の中や、野菜の荷台の下に酒瓶を隠して運び込もうとしたらしい。州をまたぐから摘発されたわけなので、市内で出回っているお酒はその比ではないだろうな。
その筋に詳しいひとにちょっと教えてもらった。だいたい通常価格の2~3倍の値段で売られていて、運搬中に警察につかまった際に「これは自家消費です」と言い訳がきくよう、瓶はすべていったん開封されて運ばれる。閉店中のレストランから分けてもらうということもあったらしいが、いずれも今は市中在庫が払底しているとのこと。
ケララ州では、酒が買えないあまり絶望して自ら命を絶ってしまったひともいて、特に、問題の深刻なアルコール中毒患者は、医者の処方があればお酒を買えるようにしたらしい。農村部では粗悪な質の地酒で命を落とすひとも出ている。西ベンガルやアッサムが、州政府の判断で販売を再開したばかりで、デリー政府もいずれ、と期待していたのにまったく残念だ。
酒税収入は実は州政府の大きな財源でもある。
感染対策には、PPE や検査薬、設備、さらには貧困層のひとたちへの食糧配給などに大きな予算が投じられていて、国レベルでも大臣たちは20%の減給をすでに決めているし、州政府も他の予算をかなり緊縮させなくてはならない状況だ。ほんとうは酒販売による税収は、のどから手が出るほど欲しいはず。デリー州の酒税収入は毎年5,000クロ―(1クロ―=1,000万ルピー:1ルピー=約1.6円)あって税収全体の1~2割を占めるとのこと。GST(物品サービス税)が経済活動の停止によってほぼ無徴税状態だから、これは大きい。
一説では今回、中央政府が適用した2005年のNDMA(国家災害管理法)で酒類販売禁止が定められているが、その後に発令された2006年の食品安全基準によれば、酒類は「食品」と定義されており、「食品」は不可欠アイテムと見なす。つまり酒も「不可欠アイテム」として扱うことができる、という理屈があるらしい。
通用するんだろうか、この論法。かなり厳しいな。
インドは、検査体制が全土として不十分な中で、州ごとに独自の戦略で対処している。ケララ州は、いち早くトラッキングを徹底していて、感染者数も多いが市民の協力もあってよくコントロールされているようだ。世界最大のスラムのあるメガシティ、ムンバイを擁するマハラシュトラ州も、徹底した封じ込め作戦を展開中。そんな中、デリーは、PPE 不足から例のホット・スポットに端を発した『封鎖』地区の急増、大量の出稼ぎ労働者の保護など、問題が次から次へと発生していて手が回らない状況のようではある。
全数検査でない各国データを比較して患者数だけ見てもよくわからない。死亡者数も、国によってほんとうにコロナウイルスによる死亡者をカウントしているのかどうかも定かでない。ただ、日々の感染確認者数のグラフを見ていると、インドはいわゆる『指数関数』的なカーブに入ったように感じられる。非常事態がまだ続くのは間違いない。
犬の餌は「生活必需品」なので店は営業している。それに比べればお酒はひと様にとってそこまでの必需品ではないということなのだな。「はい、わかりました」と、私はうなだれるのみなのだった。
‐ PM 4回目スピーチの評価 ( NDTV, 14th Apr, 2020 )
‐ 州政府が酒類販売を望む理由( India Today, 15th Apr, 2020 )
‐ ケララ州の取り組み( Hindustan Times, 14th Apr, 2020 )
( Photos : Precious Time in Delhi, 2019 – 2020 )
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