インドのひとたちとわたくし。(104)-Day 16 : ロックダウンは、たぶん延長
毎朝、アパートメントの家のドアまで来てくれていたゴミ収集のひとが来なくなってしまった。生ごみだけは1階にある共有部のゴミ箱にこっそり捨てさせてもらっているが(ごめんね)、水のペットや飲み物の瓶缶、紙ごみなどが溜まってきた。
ご近所に聞いたら、2階のバルコニー越しにサヴィータが、「朝、いつもおっきな音楽をかけた軽トラが来るでしょう」。あ、それ知ってる。「あのあとにゆっくり回収車が通るから、それに合わせて階下にゴミを出してお願いすればいいよ」とのこと。ああ、あのトラック、やっぱりゴミの車だったのか。
隣家は一家まるごと完全封鎖作戦で、一歩も誰も外に出ない。食料はすべて宅配にして玄関先に置かせている。
この近所では早朝や夕暮れ時になると、バルコニーや屋上を歩いたり走ったりするひとや、目の前の公園で私が動画で受け取っているジムのエクササイズとまったく同じことを思い思いにこなしたり、走ったりしているひとたちがいる。が、デリー州政府が外出時のマスク着用を義務化したので、明日以降は公園のウォーキングでもマスク着用したほうがいいんだろうな。ここからデリーは日ごとに暑くなって月末には日中40℃超の異世界に突入する。メロンやスイカが甘くおいしく、安くなってくるのはいいが、正直、マスクはつらい。
毎夕、近くのマーケットに買いものに行くときは隣の住宅街を突っ切っていくのだが、この2日間ほど通りがかりの家の2階のバルコニーで、生ギターのような楽器をかき鳴らしているひとがいる。珍しいなあと思って見上げると、奏者の男性が手すりから顔だけ出して手を振ってきた。こちらも手を振り返す。昨日も今日も、日課のように挨拶するようになった。
いつも人間が相手をしてあげている地域犬のような犬たちをあまり見かけなくなった代わりに、猿やら牛やらが近所に出没するようになった。先日は野ブタの親子を見かけたが、今日は彼らが1軒の家の前の塀の下で寛いでいるところに遭遇した。めっちゃリラックスしてるな。
現在のPM が故郷州のトップだったときに大きな政治と経済の改革を成し遂げて、2014年の選挙で全国を制覇した。ちょうど、お隣中国がものすごい勢いで経済成長していたので、インドは同じ夢を見た。ただし方法論は異なっている。さすがに世界最大の民主主義国家なので、首相がやれ、と言っただけで国は動かない。が、少しばかり遅れてきた新自由主義の恩恵にあずかったひとたちもまた多く、もともとヒンドゥー教のひとが多数派だから、現中央政府与党の「ヒンドゥー至上主義」方針にもそんなに違和感は抱かなかったのだと想像する。
少し前まで社会主義経済の厳しい環境の中で育ったひとも現役世代には多いので、「今さらソーシャリズムなんてごめんだ」と言い放つひともいるのは、わからなくもない。でも、世界の潮流が実は若い世代を中心に、かつてとは違う意味での社会主義的価値観に傾いているのは確かである。
そうでなければあれほどコービンや、サンダースに若いひとの支持が集まるわけがない。絵空事のように思われていたベーシック・インカムが、生き延びるためには現実的ではないかと言う気がしている。
今回の災厄がなかったとしても、インドが巷で言われているように今後も順調な経済成長を遂げただろうかと考えると甚だ怪しい。海外から見るほどには社会は変わっていないように思える。「劇薬」のような高額紙幣廃止などをやったから、ずいぶん注目はされたものの、今の与党政権の取る「家父長主義的ヒンドゥー至上主義」は個人的にはどうしても相容れない価値観だ。コロナとたいへんよく戦っているドイツや台湾、ニュージーランド、そして韓国も、主要な官僚に女性がいて、ソーシャル・リベラリズム的な政権であることを考えると、インドの先行きに対してあんまり希望的な観測は持てないというのが正直なところだ。
それでもなお、今この瞬間は、どにかく大量の地方の貧困層を助けることと、都市部での感染拡大を徹底して防ぐということに全州政府が全精力を傾けている。
もう少しすれば、国内の中小企業向けの支援策が出てくるとは思う。うちの会社が当てはまるような策があるのかどうか、CA のメハンドルに聞いておかなくては。
夕方、ラウルと名乗る人物の名前で重たい紙袋が届けられた。は?、ラウルって誰さ、ともって袋を開けてみるとなんと、モエ・エ・シャンドンのNVピンク・シャンパンとジョニ黒が1本ずつ入っていた。と同時にスミットからテキストが届いた。お酒の手配をしてくれたのだ!普通より高くても買うよと告げてはいたのだが、「あとで同じものを返してくれればいいです。それにしても手配はたいへんでした」との返事。ほんとうに助かった。まさに『命の水』とはこのこと。
西ベンガル州では酒類販売を解禁したらしい。さすがにコルカタから届けてもらうわけにはいかんねしえ。デリー州政府にもお酒が「必須物品」であることを認識してもらいたいが、先日の宗教集会を端にしたホット・スポット発生で、今や市内20カ所以上の地区が「完全封鎖」に陥っているから、それどころではない感じだ。
このところの報道を見て、ロックダウンは4月14日では終わらない、と確信した。
‐ デリー州政府の「封鎖作戦」( India Today, 9th Apr, 2020 )
( Photos : In Delhi, 2020 )
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