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小説家のいぬじゅんさん、シャープペンが創作意欲をかき立てるというのは本当ですか?【続・ポプラ社コラボ企画】


みなさん、こんにちは。
シャー研部の藤村です。

昨年コラボ企画を行わせていただいた、「物書きのプロアマのみなさん、手書きってどうなの?創作大調査」たくさんの小説家の方々にご協力いただき、ありがとうございました。

調査結果はこちらの記事をご覧ください!

ああ、なんだか想像以上にシャープペンって愛されちゃっているぞ!そして、いろんな小説家さんの創作方法って面白い! などなどこのデジタル時代でも手書きのパワーを感じることができました。

シャー研部としては、せっかくの機会でもあるので小説家の方にお話を聞いてみたいなー。なんて淡い期待を抱きつつ、ポプラ社さんへご相談してみると…。

「いいですね、小説家さんに話聞いちゃいましょう」

とあっさり続編企画が決定!(なんて寛大なんだ!)ということで、アンケートにお答えいただいた小説家さんの中から、シャー研部が独断と偏見で(笑)この方はもしやシャープペンLOVERなのでは!?という小説家さんをご指名!インタビューを実施させていただきました。

その小説家さんとは……、

ジャン!

いぬじゅんさん近影

いぬじゅんさんです。
僭越ながら簡単にいぬじゅんさんについてご紹介させていただくと。
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いぬじゅん
作家/ケアマネージャー/地域コーディネーター

奈良県出身、静岡県在住。2014年に発表した『いつか、眠りにつく日』が第8回日本ケータイ小説大賞を受賞。10代の中高生をメインに、青春・純愛小説を数多く手がける。「冬」シリーズ、『この冬、いなくなる君へ』『あの冬、なくした恋を探して』『その冬、君を許すために』(すべて:ポプラ文庫ピュアフル)など人気作品多数。『いつか、眠りにつく日』はFODオリジナル作品としてドラマ化もされました。小説家として執筆する傍ら、介護支援専門員として福祉の仕事にも携わり、現在も二足の草鞋を履いて活動されています。

第8回日本ケータイ小説大賞 大賞
第1回ソングノベルズ大賞DREAMS COME TRUE編 入賞
第8回静岡書店大賞 映像化したい部門 大賞

公式HP「いぬじゅんのホームページ」
Twitter @inujun2543

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ほ、本物の小説家さんにお話が聞ける・・・!という興奮を覚えつつ、今回は拠点をおかれている静岡県浜松市とつなぎオンライン取材を決行。さてさて、どんなお話が聞けるのでしょうか。


寝かせる?友人に話す?合格をもらう?いぬじゅん流ちょっと変わった小説作法

シャー研部(以下、シャ):どうぞよろしくお願いします!

いぬじゅんさん(以下、い):どうも〜!よろしくお願いします。

シャ:今日は色々と、いぬじゅんさんの創作に「手書き」や「シャープペン」がどう関わっているのか、お伺いさせてください。早速…唐突なのですが、いぬじゅんさん小説を書くときっていつもどんな手順で書かれているのでしょうか??

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い:はい。ちょっと僕の場合は変わっていると言いますか、特殊だと思います。

シャ:ふむふむ、“特殊”というと…?

い:ざっと、こんな感じです。

いぬじゅんのコピー


シャ:深掘りしたいところがたっぷりあるのですが(笑)。まずはアイデアを“書き留める”じゃなくて、“寝かせる”なんですね。

い:普段から半分空想の世界に生きているようなところがあるので…。妄想しだすと止まらないんですよ(笑)。例えば、人と話していても頭にいろんなアイデアが浮かんだり、特に人の恋愛の話を聞いていると、すごく浮かぶんです。そういうアイデアは、まず頭の中にとどめておくんです。で、数日経ってもまだ記憶に残っているものを、やっとスマホにメモします。なぜ寝かせるかというと、時間が経過しても記憶に残っているということは、つまり自分の中でも何か“響くもの”があるということだと思うからです。

シャ:なるほど。まずは“いぬじゅんテスト”に合格できるかどうかなんですね。次の「友人に話す」というのは?

い:友人で、読書家の人がいるんです。僕ね、あんまり大きな声では言えないんですが、小説家なのに全然本を読まないんですよ(笑)。だから、読書家の友人に書き留めておいたストーリーや設定、セリフを聞いてもらってアドバイスをもらうんです。

シャ:そのお友達から「合格」がもらえたら、晴れてアイデアとして採用になるわけですね。

い:そこで初めてパソコン作業に移り、自分のプロット集に追加します。そこには設定やストーリー、セリフなどを書きためてあって、出版社さんとの打ち合わせの際には、プロット集から引っ張り出してくるんです。ネタ帳のような存在ですね。その後は編集者さんと何度かやりとりして、ようやく執筆開始の段階に入ります。

シャ:おお、いよいよ執筆ですね!

い:はい、でも僕はまずシャープペンでイラストを描くんです。

シャ:え!イラスト!?小説家なのに、な、なぜ…???


手書きのイラストが、物語の「骨格」をつくる!

い:小説の主人公って、僕の頭の中ではいつも“絵”で存在しているんですよ。自分が思い描いたキャラクターがあって、それが具体的に見えてこないと小説は書き始められない。そんな時に、シャープペンでイラストを描いているんです。例えば、こんな感じです。

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シャ:おお、かわいいイラスト!結構細部まで描き込まれていますね。

い:こんな感じで、主人公のイメージをイラストにして、そのそばにキャラ設定のキーワードを書き込んでいくんです。

シャ:毎回すべてのキャラクターのイラストを描かれているんですか?

い:毎回です。そう言えば、以前ポプラ社さんに企画提案をした時の資料も、手書きで書いているものがあったんですよ(笑)。

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シャ:これは…!あのヒット作『この冬、いなくなる君へ』の続編『あの冬、なくした恋を探して』のプロットでしょうか?!

い:これは合格プロットです。こんな感じであらすじを“絵”で表現して、紙芝居のような感じで提案させてもらいました。いつもは、描いたイラストを人に見せることはないんですが、この時は特別ですね。

シャ:面白いプレゼン方法ですね。

い:そうそう、ちなみに別案で「事故ガール」っていう事故に遭いまくる女の子の話も提案しましたね。思いっきり、ボツになりましたが(笑)

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シャ:詳細なシーン設定やセリフ、登場人物の特徴まで。まるでアニメ作品の絵コンテのようなプロットですね。物語がいぬじゅんさんの頭の中でビジュアルで紡がれているような…。でも一体なぜ、こんなにも手書きをするのでしょうか。

い:シャープペンを使って絵を描くのって、僕にとってはイメージをより具体的にするための方法なんです。例えば、『この冬、いなくなる君へ』という作品の時は、主人公を描く際に、どんどんイメージが膨らんできたんです。消しゴムで線を消しては、書き直して、書き足して、また消して……。そうすることで、自分の中でストーリーの骨格やイメージがどんどんしっかりとしたものになっていきました。そうして、ようやく「いざ書こう!」となるのです。

シャ:なるほど!手書きイラストが創作における、“骨格づくり”の役割を果たしているのかもしれませんね。


シャープペンは、想像を大きく膨らませてくれる道具

シャ:そもそも、なぜイラストを描くようになったのでしょうか。

い:実は小説家いぬじゅんは副業でして、本業で福祉の仕事をしているんです。その本業で月に一度発行している新聞に4コマ漫画を連載していまして。いつの頃からか、イラストを描くのがクセになっていて、思いつくとすぐ絵にしちゃうんですよね。

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▲いぬじゅんさん作の4コマ漫画「浜松デイな日々」。


シャ:シャープペンでイラストを描くことのメリットは?

い:登場人物を可視化して、設定を書き込み、吹き出しで喋らせることで、どんどん具体的になっていきます。それは見た目だけじゃなく、キャラクターの意思のようなものまで見えてくるというか。「彼女ならこう言うだろうな」とか「このセリフ、絶対このキャラは言わないな」みたいな判断基準ができあがってくるんです。

シャ:いぬじゅんさんの中で、キャラが確立されていくんですね。

い:そうです。だから、小説の執筆期間中は、自分で描いた主人公やサブキャラたちのイラストを書斎の壁に貼って眺めながら、「う〜ん、こういうこと言いそう」とか「なんてひどい奴なんだ!お前!」みたいに、一人で盛り上がりながら書いてるんですよ(笑)。

シャ:感情移入すごいですね(笑)。消しゴムで消した後も見受けられますが、イラストの書き直しもされてますね?

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い:しますね、特に主人公は何度も何度も。シャープペンで線を描き加えて、消しての繰り返し。描く時にシャープペンを好むのは、“何度も消せるから”かもしれないですね。僕の自信のなさが表れているのかな(笑)。

シャ:迷いながら、考えながら、創作したいってことですよね。

い:そうかも知れないですね。だからシャープペンがちょうどいいのかも。イラストを描いているとだんだん線が太く、濃くなってくるんですよ。それは自分の中で“キャラ”が固まってきている証拠。だから、イラストの線を見れば、「あ、このキャラはもうこれで完成だ」ってわかる。逆に定まっていない時は、線がブレていたり、弱々しかったり、薄かったりします。たまに全部のキャラが薄いなーと思う時もあって。そういう時は、「ああ、まだ書き出すには早いんだな」なんて思ったりしますよ(笑)。

シャ:いやあ、面白い。シャープペンって濃淡が出せますし、何度も消して、描いてができるから、いぬじゅんさんのキャラクターづくりの過程にフィットしているんでしょうね。普段こういったイラストは人には見せないんですか?

い:手書きしている時間って、自分の頭の中にあるイメージや考えを巡らせている時間なんでしょうね。それは誰かに見せるためのものじゃなくて、あくまでも自分の中の言葉にできないイメージを可視化していく作業なんです。いま、ケーブルテレビを舞台にした小説を書いているんですけど、それも自然と絵が描きたくなるんです。テレビ局の外観があって、スタジオがあって、その中にはカメラが設置されていて、もちろん主人公がいて…。という流れでイラスト化していくと、自分の中の構想がどんどん深まっていくんです。1本のシャープペンから、そうやって物語が広がっていくんです。


1本のシャープペンからイメージが膨らみ、やがて小説家の言葉を紡ぐ原動力に…。聞けば聞くほど、いぬじゅんさんにとってシャープペンでイラストを描く行為は、大切なものだとわかります。



ペンケースは、仕事用・自宅用・いぬじゅん用?

い:ちなみに、シャープペンはぺんてるのオレンズを愛用しています。

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シャ:わ!ありがとうございます!

い:友人からもらったのがきっかけで、使い始めたんですけど、いまではすっかりハマって、自分で何本か購入しました。イラストを描いていると、どんどん集中して筆圧が強くなっていくので、芯が折れちゃうんですよね。そんな時に、オレンズだと芯が折れずに、ずっと同じ太さで描けるからいい細くて繊細な線が出せるのが、イラストを描く時にいいんですよね。

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シャ:なんとも嬉しいお言葉!ありがとうございます!!

い:あとはね、手帳に付けているシャープペンもぺんてるの「ビクーニャ フィール」です。これもずっと愛用していて、2代目です。軽いし書き心地もいいのでお気に入りです。だけど、どう頑張っても毎回軸に貼ってあるシールが上手く剥がれなくて(笑)

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シャ:それは…改善するように努めますね(笑)

い:でも、シャープペンに加えて赤・黒ボールペンも一緒になっていて、これは便利です。色んな仕事をしているので、手帳の予定もわかるように色分けして書いています。あとは、4コマ漫画は「エナージェル」を使っているし、いぬじゅんとして出るときには、サインを書いたり色紙を作ったりすることもあるので「サインペン」ノック式ハンディラインSは必ず携帯しています。

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▲いぬじゅんさんが愛用中の、ぺんてる製品たち。


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▲なんとも可愛らしい猫型ペンケース!右から自宅用、福祉の仕事用、いぬじゅん用。


嬉しいことに、次々とぺんてる製品が出てくる、出てくる…!決して仕込みをお願いしたわけではないのですが(笑)これだけ愛用してくれているとは、シャー研としても誇らしい気分です。


描けば描くほど、主人公=自分になっていく

シャ:文具に対してこだわりがあるんですね。確か、『この冬、いなくなる君へ』の主人公も、文具メーカーで働く女の子でしたが、もしかして文具お好きですか?

い:はい、好きですね!『この冬、いなくなる君へ』は、自分からこの設定でやりたいって提案したほどですし、実際に主人公が開発する商品企画もアイデアを自分で考えたりして、結構楽しみながら書いていましたよ。

シャ:いぬじゅんさんご自身の経験や趣味が作品には投影されているんですね。ちなみに、主人公が左利き用の文具を提案していましたが、もしかして左利きですか…?

い:いえ、両利きです。実は学生時代、南野陽子さんの大ファンで。好きが高じて、南野陽子さんと同じ左利きになろうって必死に練習したんですよ。そしたら、両利きになって戻らなくなりました(笑)。

シャ:へえ、そんな逸話が(笑)。ご自身の経験やアイデアってやはり創作の源なんですね。

い:僕の作品の読者は中高生の方も多いですし、登場人物の年齢もまさに青春まっただ中という設定が多いです。だから自分が過去に経験した恋愛や体験談、当時の感情はとても大事で。それはできる限りピュアな状態のままで、ずっと持ち続けたいと思っています。

シャ:『この冬、いなくなる君へ』は日記を軸に物語が展開されますが、こちらもご自身の体験からですか?

い:高校生1年から大学卒業まで、ずっと日記を書いていました。大学ノート何十冊分も書きためていたのですが、卒業後に大失恋をしまして、書くのを辞めてしまいました。その当時の日記を今読み返しても、それはもう目も当てられない程ひどくて(笑)。大人になっていろいろな経験を重ねていくと、ピュアな物語って書けなくなってしまうなぁと。日記として記録してしまうと、ますますそれが加速してしまう気がして、だから日記は辞めました。

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い:作品を書いているときって、キャラクターが憑依するというか。自分でイラスト化するからなおさらなのですが、どうも他人事とは思えなくなってしまって…。『この冬、いなくなる君へ』は、主人公に数々の困難がふりかかってきて、打ちのめされながらも徐々に成長していく物語なんです。だから書いている時は主人公と一緒に苦しみながら、「もうちょっとだから、もうちょっとの辛抱だからね」って自分に言い聞かせながら書いていました(笑)。

シャ:そこまでとは…。まさに産みの苦しみですね。

い:女性の主人公であれば、まだ客観的になれるんですが、大変なのが男性主人公の時です。同性で近い存在だから、気持ちが痛いほどわかってしまうし、ありえないほど憑依しちゃって。新刊の『その冬、君を許すために』は久しぶりに男性が主人公の小説なのですが、かなり苦しかったです。書き終えたときは、一緒に乗り越えた!って感じがしましたね。

シャ:想像を絶する苦労…!

い:小説を書くということは、お話の世界をそっと覗かせてもらっている感覚に近いんです。そこで生きているキャラクターがいて、そこで繰り広げられるドラマがあって、それをイラストにすることで、より具現的なイメージにしていく。最初は覗き込んでいるのですが、だんだんだんだんと中に入り込んでいってしまう。そして主人公たちと一緒に苦しむんですよ(笑)。「観客」的な感覚からどんどん「当事者」になっていく。手書きって僕の中では、そんな効果がある気がしますね。

シャ:うーん、面白い。手書きは創作における“自分ごと化の入り口”ということですね。そういう視点で改めて、いぬじゅんさんの作品を読んでみたいと思います。今日はありがとうございました!

い:ありがとうございました!

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シャープペン×手書きを深掘りすると、あふれ出てきたのは「作家の創作意欲をかき立てる道具」としての一面でした。自分の中のストーリーをより具体的に膨らませ、より大きく羽ばたかせるために、いぬじゅんさんはシャープペンを手にイラストを描き続けているのでしょう。いぬじゅんさんの小説を手にとって、「この主人公はどんな手書きイラストで描かれたんだろう?」なんてことを想像しながら読んでみるのも面白いかもしれませんよ。

それでは、また。


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〜いぬじゅんさんの作品をチェック!〜
『この冬、いなくなる君へ』
『あの冬、なくした恋を探して』
『その冬、君を許すために』

〜ポプラ社さんのnoteアカウントでも、いぬじゅんさんの創作秘話が公開中!〜

ぜひこちらもご覧ください。