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“スルメデザイン”って何なの!?デザイナー5名が語り合う「ぺんてるらしさって何だろう」?


みなさん、こんにちは。シャー研部員の藤村です。

今日は、前回に引き続きぺんてるデザイン室のプロダクトデザイナーにお話を聞いていきます。前の記事では、プロダクトデザイナーという仕事についてお話をしてもらいつつ、デザイナーのみなさんそれぞれがデザインした、“マイベストシャープペン”についてあげてもらいました。

今回は過去のぺんてるシャープペンデザインの中から、プロダクトデザイナーたちが「これこそは!」と一票を投じる、イチオシのシャープペンデザインの話から、ぺんてるらしいデザインとは何か、に迫ります!

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シャ:みなさんには前回、ご自身の仕事(デザイン)でこれまでで一番のデザインをお伺いしましたが、今回はノック式シャープペン誕生60周年ということで、これまで過去にぺんてるから発売されたものの中で個人的にイチオシのシャープペンデザインをぜひ教えてください!できたら、ぺんてるらしさを感じる理由も一緒に教えてもらえると嬉しいです。では、森田さんからお願いします!


ぺんてるらしさその1
〜王道の中に光る個性という味付け〜

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森田:私が考える、ぺんてるらしいシャープペンデザインは「グラフペンシルPG5」です。見てください、一見シンプルで上下対称な形状をしていますよね。ミニマルな印象なのですが、よく見るとポイントごとに個性があって。ボディに印字されている筆記体の書体や、クリップの曲げ形状、硬度表示窓のアクセントカラーなどよく見るとオリジナリティ溢れるものばかりです。さっぱりしているけど、どこかにちゃんと個性がある、これってぺんてるらしいのかなと思います。

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清水:うんうん、わかります。わたしは「PG1000(グラフ1000)」が一番かなと個人的には思っているのですが、このシャープペンは究極にシンプルです。製図用シャープペンということで、機能が重要なのですが、シンプルなデザインで見事にそれを体現している。おまけに、ここまでするか!?というくらい細かな部分まで黒、そして絶妙な形状です。「機能」を最小限の造形の中に収めつつ、しっかり個性という味付けをしている、シンプルで存在感のあるデザインなんですよね。

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森田:究極は、個性を消さないことで愛着を生み出せるデザインなのかも知れないですよね。ロングラン商品を社員が大切に思っていることや、長年に渡ってデザイン担当者が変わらないのも、要因のひとつかもしれません。

シャ:確かに、お二人があげていただいたものどちらも、奇抜なデザインなどはなく至ってシンプル。そんな中にも、キラリと光る個性がありますね。それにしても、清水さんの「PG1000」はだいぶ使い込んでいる様子ですね(笑)。

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▲清水さんが挙げたイチオシのシャープペンデザイン「PG1000」。上は新品、下は清水さん愛用品。

清水:これはですね、塗装がはげて樹脂部分がツルっとするまで使い込んでいるんです。使えば使うほど、味が出てきていいんです。なんだろう、ヴィンテージのデニムのような感覚ですね(笑)。

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シャ:使い込むほどに愛着が湧いてくる…ということですね。

清水:そうです。もうね、これがある日突然なくなってしまったら、私どうにかなっちゃいますよ(笑)。これは、新しく同じものを買い直せばいいという問題じゃないわけです。良いシャープペンは、一生使い続けられる相棒です。森田さんも言うように、愛着を生み出せるデザイン、というのが究極のプロダクトデザインなのかなと。



ぺんてるらしさその2
〜 噛めば噛むほど旨い「スルメデザイン」〜

シャ:梅谷さん、中沢さんはお二人とも同じ商品をあげていますね。

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梅谷・中沢:はい。「ケリー」です。

梅谷:わたしが入社して初めて自腹で購入したシャープペンです。入社してすぐ、営業の研修で初めて販売したのがケリーだったため、個人的にも思い入れのある商品です。当時は、1971年に作られたということさえも知らず、今思うとそんなロングセラーなの?!と驚くほど、長年愛されるデザイン。20代前半だった私にはちょっと背伸びしたような、大人のデザインで、かっこいいなと思っていました。

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シャ:どの辺りに、ぺんてるらしさを感じますか?

梅谷:そうですね…、デザイン的な視点であげるとすれば、グリップ部分の模様です。ぺんてるの商品では比較的、グリップ部分にこの格子柄のような模様を起用しているものが多いように感じます。実は、最初に見たときは「なんか渋くて嫌だな」って思ったんです(笑)。だけど、これが使い出してみると、どんどん愛着が湧いてきて、今はこの部分がお気に入りです。

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中沢:使えば使うほど味が出てくる、やめられなくなる…。それってクセになるってことだよね。なんだかスルメみたいですね。噛めば噛むほど、じゃないけど(笑)。

シャ:スルメ(笑)!確かに、噛めば噛むほど味がある、スルメデザインかも知れないですね。その辺は意識していたりするんですか?

中沢:スルメデザインは、やろうと思ってなかなかできることじゃないですよね(笑)。けれど、作るからには、長く愛されるものを作りたい。生活の中に馴染む、いい道具になってくれればということをデザイナーは考えていますね。僕も同じケリーですが、梅谷さんのものとは別モデルですね。店舗で見つけて、3,000円もするのですが、勇気を出して買った1本です。イチオシにあげた理由は、金属製キャップ。内側には、バネカツラと呼ばれるクルっと巻いたバネが仕込まれています。軸に嵌めると「カチッ」と小気味いい音と感触が得られるので、文字を書く前に背筋の伸びる思いがします。

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本来ならば、万年筆などの高級文具に使われる構造なのですが、それをわざと音が出るようにシャープペンに入れている。また、ケリーという商品名には副題があって、「万年CIL(シル)」(万年筆+シャープペンシル)というのですが、完全にダジャレなんです。そういう遊び心の中に、しっかりと高級品に入れるような構造を入れちゃう真面目さが、僕は好きです。特段「書く」というシャープペンの役割には関係していないように思うかも知れませんが、使えば使うほど手に馴染んでくる。そんな魅力があるのがケリーだと思います。

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▲中沢さん愛用のケリー限定モデル。キャップタイプのシャープペンは、後端にキャップを設置してもノックできる細やかな工夫も。

シャ:以前に「#忘れられない一本」で和田会長が語っていた「嵌合(かんごう)」部分のことですね。このハマり具合は、誰が調整しているんでしょうか。

中沢:開発チームですね。金属加工の製品は2Dで図面を作るのですが、なかなか図面通りにはいかない。開発チームが削ったり、調整したりして最終型にするのが通常のプロセスですね。ヌルッとキャップが入って、パチっとハマる「ヌルパチ」と呼んでいるのですが、これは開発者の高い技術の賜物ですね。


ぺんてるらしさその3
〜時代を逆行し、意表を突くデザイン〜

シャ:柴田さんはいかがですか?

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柴田:僕は「マルチ8(エイト)」です。このペンの特徴は、使いたい芯の箇所にクリップの線を合わせると、芯が出てくる仕組みです。1本で何通りもの筆記具の役割を果たしてくれて、とても便利。芯は重力で落ちる仕組みになっていて、芯をしまいたいときは、ペンを逆側に向けてノックするとスっと収納されます。

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ぺんてるに入社したばかりの頃、打ち合わせ先で上司がおもむろにマルチ8を出してきて、ササっと図面を塗り分けている姿をみたときに、「かっこいい」と衝撃を受けました。以来、僕も真似して持ち歩くようになって、いまでも必ず鞄に入れて持ち歩いています。

シャ:これは使い方が難しそうですね…(笑)なんでしょう、ちょっと嗜好品のような「使いこなす喜び」があるのかも知れないですね。

柴田:それはありますね!ちょっと持っていると優越感というか(笑)。使い方に少しクセがあるところは、オレンズシリーズにも通じるところがあるかも知れません。

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シャ:思い出の一本ということもあると思いますが、柴田さんはマルチ8のどこにぺんてるらしさを感じますか?

柴田:“他にはない”というオリジナリティは、まずあげられますよね。直接的に競合する製品は見かけないので、真似しようとは思われない製品なのかも(笑)。それでも実際に気に入ってくれるファンがいて、ロングライフな製品として今でも販売し続けている。これってすごいことだと思うんです。

シャ:ある意味特殊というか、他にはないところがぺんてるらしさ?

柴田:そうですね。もちろん、使いやすいという機能面でも優れていますよ。普通ペン8本分も芯が入っているなら、軸はよほど太くなって、グリップは握りにくいだろう…と思われますが、握っても全く違和感ないんですよ。これは、グリップ部分だけ細くなるデザインにしているから。デザイン的にも機能的にもおすすめしたい一本ですね。

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オレンズもそうですが、“折れない”というイメージから、どんどん軸が太く頑丈そうな、がっちりしたイメージの商品が生まれてくる市場のトレンドの中で、あえて細身のシンプルなシルエットを起用する。そういう時代に逆行するところもぺんてるらしいんじゃないかな。

清水:ある意味、非常識なのかも知れないですね、ぺんてるは(笑)。でも、そういう意表をつくデザインだからこそ、市場に出たときに他とは違う何かが際立ってくるのだと思います。



変わらない部分と変わる部分
受け継がれるぺんてるスピリット


シャ:
みなさんが選んでくれた「ぺんてるイチオシ シャープペンデザイン」のお話を聞いていると、ぼんやりとですが「ぺんてるらしさ」が見えてきた気がします。まとめてみるとこんな感じでしょうか。

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うーん、なんだかポイントを並べてみると、やっぱりこういうデザインって、マニュアルからは生まれてきませんよね。

清水:そうですね。現時点では、ぺんてるデザイン室にはデザインマニュアルやガイドラインは存在するものの、ある意味そこに重きを置いていません。それは、その時々担当するデザイナーの個性を活かしてものづくりをするということもありますし、縛りやルールがあると抜け出せなくなってしまうということを回避する狙いもあります。ただ、これまで培ってきた「ぺんてるらしさ」みたいなものは、何か言語化できればと思い、今まさに研究しているところなんです。

中沢:昔は「他社がやらないことをやれ」ということを社内でよく言われていましたよね。それがいまでも社内のスピリットとして、染み付いているのかも知れません。文具業界で後発だったぺんてるだからこそ、他社と同じことをしていても仕方がないという意識はあった。だから、デザインの部分でもマニュアルには収めない、デザイナーが個性を活かしたアイデアで、他社にはないデザインを生み出そうと考えるようになったのは必然的ですね。

柴田:「新製品開発力」という言葉が社内にあります。

シャ:新製品開発力とは…?

柴田:要するに、どんどん新しいものを生み出しましょう。ということですね。ぺんてるは常にトレンドを発信し続けるというのを大切にしていたんです。

シャ:他社がやらないことをやる、という変わらないスピリットはありつつ、常に変化は続けていく、と。

中沢:ひょっとすると、ぺんてるらしさも変化しているのかもしれないですよね。変わらない部分はありつつも、変化を続けているからマニュアルに重きを置けない感じなのでは?

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森田:私たちはデザインをするときに、ただ単に見栄えをデザインしているのではないですからね。常に新しい感覚や価値観をキャッチして、そこから今の市場やターゲットに受け入れられるデザインにする。例えば、ほんの2年だって中学生や高校生からしたら大きく価値観が変化する期間ですよね。そこをキャッチせずズレてしまうと、「なんか古っぽい」と言われちゃいます(笑)。

梅谷:最近では、価値観も多様化していますよね。今の学生さんや若い方は学校やSNSなどコミュニティをたくさん持っている。「今の若い人はこう」と一括りにできなくなっていっています。

中沢:でも、必ず「軸」はあるんですよね。ある一つの価値観を持った人は、ある程度変わらない価値観で大人になる。その軸にたどり着くまでのプロセスをぺんてるは丁寧に、大事にしているんじゃないかな。それも変わらないスピリットの中でも、変わっていく「らしさ」ですね。

清水:歴代のぺんてるデザインも大切にしつつ、今後も僕らは新しい価値観の軸を掘り下げていく。時には時代を逆行するようなデザインや、王道シンプルだけど「ぺんてるらしさ」を感じるデザインを生み出していければと思います。


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結論「ぺんてるらしいデザイン」はいまも現在進行形で変化していた!ということですね。今年はノック式シャープペン60周年ですから、これまでのデザインの歴史全てを簡単に言語化するのはやっぱり難しいということ。時代により、いろんな形で試行錯誤したり、時に悩んだり、ひらめいたりする「デザイナー(人)」がいるから、長く愛用できるシャープペンのデザインは生まれるのかもしれませんね。

今後もぺんてるのシャープペンデザインが楽しみです!

それでは、また。

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