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7/18月:最高のリスクマネジメントには前向きな前言撤回を。

先日このブログにも書いて、明日からボランティアで行く予定だったキャンプが急遽中止になった。

理由としては、参加者全員を対象にして今日行った抗原検査の結果、子どもたちやスタッフから数名の陽性判定者が出てしまい、この後さらなる感染拡大の可能性があることに加えて、最近の社会的な感染拡大状況を鑑みての判断、とのことだった。

このキャンプの内容に大いに期待していた私としてはとても残念なのであるが、これは私が専門にするリスクマネジメントの観点から考察すると大変重要な事例であり、今回のスクールの決定は英断であったと考えている。

それは、このキャンプに向けて子どもたちのためにスタッフがプログラムを考え、各所に様々な手配を回し、相当に長い時間をかけて準備し、ボランティアを募集してまで開催しようとしていたこの思い入れのあるキャンプについて、前日にも関わらず無理に開催せずに中止するという判断をしたからだ。

日本においては特に、既にことが進んでしまっている物事について急遽撤回する、という意思決定は行われづらい。

例えば、東京オリンピックなどがその典型である。

そもそもオリンピック開催に伴う財政悪化が懸念されていることに加え、オリンピック開催予定の2020年になって追い打ちをかけるように新型ウイルスが蔓延し、ほとんど実施不可能な状況になっているにもかかわらず、延期を重ねて開催する様子は、相当無理をしているように見えてしまった。

それは、本当は引き返しても良いはずなのに誰もそうしなかったこと、既に話が進んでいた多数の施設や設備(既に支払ってしまったコスト、サンクコストという)がもったいないと思う心理、責任の所在が明らかにされにくい組織構造など、様々な要素が含まれるだろう。

こうした先の見えない状況下で何かの意思決定を行うときの考え方やツールを提供するのが「リスクマネジメント」である。

リスクマネジメントとは、ごくシンプルに言えば、未来が不確かな状況下で、そのとき持てるリソースをフル活用して最適な意思決定を行うためのツールである。

このリスクマネジメントについて、その意思決定が成功だったのか、失敗だったのかを評価するのは難しい。

ある意思決定の結果として何か不利益が生じた際に、その結果を見て、行われた意思決定が失敗だった、とする批判がよくある。

しかし、リスクマネジメントの観点からすればこの批判は的外れである。

なぜなら、リスクマネジメントとはあくまで、将来の「可能性」に対して行う意思決定であり、その「結果」については何も言及しないからである。

意思決定の結果、もし大きな不利益を被ったとしても、それは必ずしもリスクマネジメントの責任には直結しない。

その意思決定の段階では必ずしも結果がわからないのだから、その結果を見た後で意思決定そのものを非難してはならないのである。

これは要するに、後だしジャンケンはダメだ、ということだ。

相手がどんな手を出すかわからない状況下において、相手にグーを出されるリスクを取ってチョキを出したという行為に対し、実際に相手にグーを出されて負けてしまった結果が出た後で「なぜチョキを出したんだ!」と非難することはできない、ということだ。

だから、リスクマネジメントの成功・失敗を、その決断の結果を使って評価してはいけないのである。

このように考えると、実はリスクマネジメントがうまく行われたかどうかを正しく評価することというのは大変難しいことなのだ。

真に問うべきは、その意思決定の結果が良かったか悪かったかに関係なく、「その時点でのその意思決定が、どういうリソースを用いてどのようなプロセスによって行われたか、それが適切だったか」を問わなければならないのだ。

今回のキャンプ中止の件についても、このまま開催することもできたし中止することもできた中で、様々な準備をしてきたというサンクコストを踏まえてもなお、将来の可能性として感染が拡大するリスクを重要視した結果、中止という意思決定に至ったならば、それはある価値観に基づく意思決定の論理としてあり得るものだ。

この意思決定の結果が子どもたちにとって最も良い状態になるかどうかはもはや確かめようがないが、そのような中でも責任を持って意思決定することの重要性と難しさを頭では理解しているつもりの私からみれば、この決定は英断だったと思う。

このように、適切な思考プロセスを踏んだうえでの前向きな前言撤回が、許容され受け入れられる社会になってほしい。

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