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【商空間の未来】今後の「設計プレゼンのあり方」とは? / 「勝ち方」をプレゼンする「展示会ブースデザイン」の手法

自身のデザイン案を、クライアントに説明する際に、どのように伝えるか、今回はこのことについてお話ししたいと思います。当社は展示会ブースのデザイン・設計を行う空間デザイン会社になりますが、この「展示会ブースのデザインの内容をクライアントである出展者にどのように伝えるか」という手法は、展示会ブースだけでなく、店舗設計など商業系の空間のデザインを行う設計者・店舗デザイナーの方にも参考になるのではないか、と考えています。本記事が、展示会デザイナーだけでなく、多くの店舗設計者の方の参考になれば幸いです。

1.「どんなデザインなのか」ではなく「どのように結果を出すか」

先に結論のようなお話しになりますが、私が日頃のデザイン業務でクライアントである「展示会出展社」にデザイン案をプレゼンテーションしている方法は、「どんなデザインなのか」説明するのではなく、「どのように結果を出すか」でプレゼンを行っています。つまりデザイン案ではなく、「出展戦略デザイン」のようなプレゼンです。

プレゼン時にはクライアントに対し、「デザインについては後で変わっても全然問題はありません。大切なことは、どのように集客するか、というこのデザインの根拠の方です」とお伝えするようにしています。
デザイン案のプレゼンのはずなのに、重要じゃない、なんて言えるのか?と思われる方もいるかもしれません。しかし、これは商業空間のデザインです。クライアント(展示会の場合は出展者)が、本当は何を求めているのかを考えればごく自然なプレゼン手法と言えます。

2.「出展者」は何を求めているものは「出展の成功」

展示会ブースの場合、クライアントが最も気にしていることは、「多額の費用を出して展示会出展をして本当に費用対効果があるのだろうか」ということ。展示会をご存じの方はお分かりかと思いますが、展示会は大抵3日間で終了します。出展料も最近の相場は3m×3m(1小間)でおよそ40万円。これはいわゆる「場所代」です。その上さらにブースを設計し施工する金額、スタッフの交通宿泊費、人件費、そして販促費などが加わります。このように3日間のために多額の費用を出して「本当にいいのだろうか」、クライアント=出展者はそのように考えているはずです。そのクライアント様に対して、「こうデザインします」とプレゼンしても、「響く」とは限りません。クライアントがもし彼らなりの具体的な展示会必勝策のようなものを持っていれば別ですが、多くの場合、ブースデザインに求めるものは、どうデザインして結果に結びつけるか、となるでしょう。そこへ、「このようにデザインします」という「デザインのあり方」だけのプレゼンだと、説得ができないばかりでなく、「好み」による議論となり、その後の業務進捗に大きな影響を及ぼし、結果的にクライアントの出展が失敗に終わってしまう可能性も高くなってしまいます。
展示会ブースデザインは「3日間で出展の結果を出す」ための最短の商業空間デザイン。プレゼンでは、どのようにデザインすれば、来場者が集まり出展が成功するのか。そのために、何が必要で、どのようにブースを構成すればいいのか。設計者としての、デザイナーとしての経験を総動員して、クライアント(=出展者)に「勝つための戦略」を伝えます。

3.プレゼンの流れの方針は?

では、実際にプレゼンの時はどのようにしているか、ご説明します。
当社の場合。
まず、プレゼン時に聞いてくださっているクライアントの出席者の中に決済権を持っている方、もしくは経営者がいるかどうかで話し方を変えます
経営者がいる場合、展示会出展の目標は最終的には「会社としての売上を上げること」であることを強調するようにしています。そして、会社としての売上をあげるために「どう展示会を活用するか」が大事です。と。そのためにブースはどうあるべきなのかについてお話しするのです。

もちろん、経営者の方がいなくても、「売上を上げることを見据えて」ということはお伝えします。このように話すことで「単にデザインだけを考えているんじゃないんだな」と先方に感じ取っていただく、という意図もあります。

通常のデザイン案のプレゼンの場合、まずデザインのコンセプトを伝え、検討したデザインモチーフについて話し、ブース全体のデザインイメージを伝える。その後、各所の詳細デザインを説明していく、という流れになると思います。実際、そのようにプレゼンを行っているデザイナーの方も多いのではないでしょうか。

当社の場合、まず展示会出展の目的を明確にして、まず小間位置の分析から説明します。現在の小間位置をどう考えるのか。どちらから来場者が流れてきて、どこからブースが見えるのか、有利な場所なのか不利な場所なのか、お伝えします。クライアント側もそれまでの出展経験で小間位置の有利・不利をある程度分かる方もいらっしゃいますが、どんな出展者様でも毎週のようにブースをデザインしている我々の方が経験値を多く持っています。そこで、「一見有利に見えるけど注意しなければいけない点」などもお伝えするようにします。
この小間位置分析をお伝えした後、その小間位置から「どんな形状であれば来場者が集まりやすいのか」をお伝えする、という流れです。
このように、現状の条件をどのように分析し、どう考えてブースを構築するのか、そしてそのブースをどう活用してクライアント=出展社を出展成功に導くのか。このようにプレゼンテーションを進めていきます。

4.「クライアント側の専門分野」をデザイン案に加える

プレゼンでは最後に、このようにお伝えします。「このデザインがベストだとは実は思っていません」と。
プレゼン時のデザイン案=出展戦略は、当社側のみのノウハウを反映したブースデザイン案になります。しかし、「最強のデザイン案」、つまり「確実に集客が実現できるデザイン案」とするためには、「出展者側の知識・経験」の反映が不可欠なのです。例えば、これまで出展者が行ってきて成功してきた商品の見せ方、競合他社の情報、商品の特徴など。初回の打ち合わせで全てを聞くことができればよいのですが、大抵デザイン案(つまりたたき台としてのデザイン案)が出てきた段階で、「ここはこうあった方がいい」「これはこう見せた方が過去に良かった」などといった感想が出てくるのです。この「この時はこうだった」といった出展者側が持つ情報を反映することが実は展示会出展に成功する上では、とても重要で、大抵の場合、出展者自身気が付いていないことも多いものです。そして、それは初回の案を「たたき台」として、様々に会話をしないと出てこないものなのです。

5.最強のデザイン案は、双方の専門分野の協働で完成する

初めにプレゼンテーションを行った後、当社では1週間ほどで案に対するフィードバックをいただくことにしています。たたき台となった第1案に関する感想を自由に述べていただくのです。
そこで、出てきた感想の中で、集客に悪い影響を与えてしまいそうなものに関しては、その理由を述べて改善案に反映しないようにします。また、逆にクライアント側の意見で、先方の専門分野や過去の経験等に拠るもので重要なものであれば積極的にデザイン案に取り込むようにします。
デザイン会社、設営会社の中には、クライアント=出展者に言われたことは全て反映する、というところもあるようですが、私としてはそれは、自分たちの持つ専門性に対しての力と誇りを持てていない無責任な行為、と感じてしまいます。
大切なことは、クライアント=出展者が持つ専門領域、デザイン側が持つ専門領域、それぞれが持つ専門領域の区分を理解し、尊重した上で活かしあうことだと思うのです。
双方の専門領域を、活かしあって完成したブースデザイン案、それが最大の結果を出す展示会ブースデザインだと私は考えています。

6.店舗集客にも反映可能な考え方

店舗設計をされる方には上記のようにプレゼンをされる方もいらっしゃるのではないかと思います。その方はきっとこの考え方には共感していただけるのではないでしょうか。
しかし、一方で、この手法を取らず、「どんなデザインにするか」でプレゼンをしているデザイナーの方も多いのではないでしょうか。

展示会ブースでは、集客の結果がわずか3日間で出るため、デザイナーとしてはかなりシビアに「集客のためのデザイン」を検討します。そうしないと、「集まらないブース」をデザインしたことになり、「きれいなだけで、コストばかりがかかる」ブース(しかも3日間で撤去するブース)には、次の仕事は来ないのです。

今後の商業施設。
現在の不況下において、「結果を出せる店舗設計」ができることは大きな強みになることが考えられます。むしろ、これからは「結果を出せるデザイナー」に仕事が集中するかもしれません。
これまで、店舗設計では、店舗の運営期間が数年に及ぶことも考えると、デザイナーの「結果を出すデザイン能力やその責任」については、社会的にはあまり注目されてきませんでした。(もちろん、クライアント=店舗オーナー側は重視していたはずですが・・・)多くの書店に、ビジネス書や店舗集客の場所に、「店舗集客設計手法」に関する書籍はほとんどなく(VMD専門家によるVMDの本はありますが、設計とは少し異なります)、店舗デザインのコーナーには「作品性」や「設計手法」を語った本がほとんどを占めます。
これからは、「結果を出す空間デザインの手法」がもっとフォーカスされてもよいのでは、と考えています。
そのためのきっかけとして、「展示会ブースの集客手法」は、新しい店舗の形を探る上での「突破口」になるのでは、と考える次第です。
まずは、結果を出す展示会ブースのプレゼン手法、少しでも皆さんの参考になれば幸いです。









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