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【商空間の未来】「アート系空間デザイン」と「ビジネス系空間デザイン」とは?

先日の投稿に記載したこの2つの項目について、今日は書いてみたいと思います。

店舗や飲食店などの「商業系空間デザイン」

「商業系空間デザイン」にとってまず大事なことは、その空間が商業的な「結果」を生み出すことができるかどうか、だと考えています。

店舗を持つクライアントの立場に立つと、彼らにとって大切なことは、最終的には「売上」になるはずです。そして、デザインはそのための手法のようなもの。
その結果、つまり、「売上」を出すために、デザインはどのようにあるべきか、店舗の印象はどうあるべきか、集客の機能はどうあるべきかを考える、ということになります。

展示会業界に移り、建築インテリア業界を客観的に見るようになって気になることがあります。

建築・インテリア業界の人は、「同業で集まりたがる」。
本来、ビジネス的にはライバルなはずなのに、「集まる」。

いや、これは「悪い」と言っているわけではないのです。
実際、私もそうなのですから。

現在の建築・インテリア業界で「商業系空間デザイン」について語られるとき、そのほとんどが、概念的な空間デザイン論であったり、情緒的な空間デザインの話であったり、哲学的な話であったり、納まりの話である場合がほとんどです。
そして、建築家やインテリアデザイナーは、「同業同士」で集まり、「あの空間デザインはどうだった」といったことを語り合うのです。
これは、商業系、というより既にアートの世界の話です。

一方で、その商業系空間デザインが、どのように集客を考え、具体的なデザインを行い、実際にどのような「結果」をもたらしたのか。このことについてはあまり語り合うことがなく、そのことを突き詰めて説明された本・雑誌などはほとんど見かけません。
実際に、書店に行くと、建築・インテリアのコーナーには様々な空間論的な書籍が多くありますが、ビジネス書のコーナーには、ほぼ、ない。
昨今(に限ったことではありませんが・・)、書店にはビジネスにおけるデザインの役割、アートの役割の重要性を書いた本が多く出ています。
VUCAの時代において、ブランディングとしてのデザイン性、世界観の構築、そのようなものが大事、という趣旨のものです。(かなりざっくりの説明ですが・・)
私もそれらに書かれていることにかなり共感をしており、今の仕事にも大きな影響を受けています。

しかし、それらの本を読み進めるたびに、そこに「デザイン」と言う言葉が出てくるたびに感じることが、そこで語られているデザインとは、ほとんどが「グラフィック系」や「プロダクト系」のことを指しており、「空間デザイン」がほとんど出てきていない、と感じるのです。

私は展示会ブースのデザインを行うようになって、商業系空間デザインを「アート系空間デザイン」「ビジネス系空間デザイン」という2つの言葉で表現しています。
「アート系空間デザイン」とは、現在のようにデザイナー/設計者同士が話をするような空間の概念的な話、哲学的な話などのことを指しています。
一方「ビジネス系空間デザイン」とは、その空間が実際の現場において「客を集める力」、そのためにどのようにデザインしたか、ということを指しています。
誤解のないように記載しておくと、私は「アート系空間デザイン」が悪いと言っているわけではありません。これまでの商業空間の歴史は、それによって作られてきました。それは今後も重要なものになってくるでしょうし、ブランディングで言うところの「情緒的価値」を構築するためにも「アート系空間デザイン」の考え方はますます重要になってくる、と考えています。
つまりはバランスの問題です。
私は建築・インテリアデザイナーにとって、今のこの経済状況下では、確実に客を集める力としての「ビジネス系空間デザイン」の能力を、重要視していかなければけないのではないか、と感じています。これまでの「アート系空間デザイン」に加えて。

昨今、本来建築・インテリアの専門家でない方がインテリアデザインを行う事例が出てくるようになりました。クリエイティブディレクターやアートディレクターが店舗を「デザインする」という事例です。
モノにあふれ、店舗も溢れる時代、秀逸な世界観を構築できる力つまり「アート系空間デザイン」を持つことと同時に、ビジネス的な視点で周囲の店舗から一線を画す力「ビジネス系空間デザイン」の力を持つようにしなければ、現在の商業系空間デザイナーは、ビジネス系デザインを得意とするクリエイティブディレクターの方々の「下」について仕事をするようになる、そう思えてなりません。理想的な姿は「下」ではなく「横」であるべき、だと思うのです。

では、空間デザインにおける「ビジネス系デザイン」とは何なのでしょうか。
書店において集客をテーマにした店舗づくりのコーナーにいくと、そこにはVMDの考えをベースにした教科書が数冊置かれています。しかし、多くの建築・インテリアデザインに携わる方は共感していただけると思うのですが、それはまだ「空間デザイン」とは言えないのではないか、と感じます。
では、「ビジネス系空間デザイン」とは何か。
そのヒントは、3日間で結果を出さなければいけない、展示会ブースの空間デザインの中に隠されているのではないか、と私は考えています。
それは、その空間を体験する人(=来場者)の心理を形にした空間。
通りを歩いている客がどうすれば自然に寄ってきて、どうすれば中に入って来るのか。私自身もまだまだ研究途中ではありますが、3日間で集客の結果を出す、ということを毎週のように実践しているこの経験を整理していけば、体系化も出来てくるのでは、と考えています。
ただ、展示会業界のブースも、このように集客のことを考えた「ビジネス系空間デザイン」がどの程度あるかと言えば、「今はほぼない」と言ってもいい状況です。
しかし、展示会業界にこそ、本来「ビジネス系空間デザイン」は必須なのです。

さて。今日は「アート系空間デザイン」と「ビジネス系空間デザイン」の話でした。
空間デザインにはこのどちらの要素も必要で、用途によって、どちらを重視するか、ということになってくるのだと思います。
今、展示会のブースデザインは、「空間デザイン」という世界では、ほとんど認知されていないジャンルです。
それは、先日の投稿にように、実務レベルでの違いがあったり、そこにいる人々や思考方法が異なる、ということも原因としてあるかと思います。
しかし、これからは、2つの業界がもっと行き来し、溶け込め合えば、日本の空間デザイン、ひいては日本の社会が変わって来るのではないか、と感じています。


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