静かな空間(マガジン28)
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T先生は、私から真正面に立った。こちらを向いているみんなからは見えない。だけど、私のやっていることは全て見える位置だ。立っていることによって、インストラクション通りに動いているかも見ようとしているのだろう。
自己紹介からスタートして、私は、ヨガの考え方の説明に入る。ここにいるみんなを、全く初めてヨガクラスにきた人たちと想定し、経路(Nadi)のことなどを説明することが課題だった。
ドキドキと心臓の音が大きくなってきて、口を丸めて息をはく。
水筒の水を口に含み、喉を湿らせてから、私は始めた。
2分後、「これは、西洋医学で言えば、副交感神経と考えられることで、、」と続けたあたりで、T先生がぽかんと口をあけたのが見えた。どこに驚くようなことがあったのか、その時には理由がわからなかった。
私の説明は、テキストのそのページだけを読んだのではなく、テキスト全体、また他の資料などを参考に、自分なりにまとめたものだった。その方がきちんと理解できると思ったけれど、解釈を間違ったのかもしれない。ヨガを初めての人に向けてと、西洋医学では、と言い変えたけれど、見当はずれのことをしてしまったのだろうか。何が間違っていたのだろう。
引っかかりはあったけど、止めるわけにはいかない。咳払いをしてそのまま続けた。間違いがあったとしても、先生はあとで訂正するだろうし、考えている場合ではない。
さらに説明を続けながら、他の生徒の方を見回しているうちに、T先生と正面からばちりと目があった。すると、先生は大きくうなづいてみせたのだ。そして、嬉しそうに目を細めながら、私の説明に熱心に耳を傾けた。
**
時計を見た。
時間通り、15分で説明を終えた。
残りは、ウォームアップと実際のヨガのインストラクションになる。
ウォームアップの一つ一つのエクササイズについても、きちんと調べた。どうやれば正しいやり方か、どこを曲げて、どこを伸ばしているのか。
一つ一つ、大きな声で説明をつけながら、丁寧に行なった。みんなも真剣に動きを行う。
ウォームアップ用のエクササイズを一通り終え、両手を胸の前で合わせ祈りのポーズを作るよう促す。
Let's tune in.
Inhale.
私が言う。皆が息を吸う。
Exhale.
息を吐く音がする。
Inhale to tune in.
すっと、静かに息をはく音。
全員で、マントラを3回唱える。
集中が、あった。
Relax your hands.
自分も手を下ろす。
みんなの様子を見回す。
エリーも、ヘレナも、サトも、アリシャも、あぐらのポーズで座ったまま、まだ目をつむっていた。
緊張とは違う、でもピンとした、静かな空間がそこにあった。
私は、その感じに、引き込まれていた。
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次は、発表の3(マガジン終了まで、あと2話程度)
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