途中からテンポが変わる曲とその方法3
3 タイムストレッチ
前々回の<途中からテンポが変わる曲とその方法1>、前回の<途中からテンポが変わる曲とその方法2>では、メトリックモジュレーション系のテンポチェンジを解説してきましたが、今回はそれ以外の方法論を用いてテンポチェンジしている曲を解説します。
まずは「tofubeats - SOMETIMES」です。
2:08秒からテンポが遅くなっており、拍子も同時に4拍子+3拍子(7拍子)になっています。とても不思議な感じがしますね。
これは、オーディオ化したバックトラックを1拍切ってタイムストレッチした結果だと思われます。
具体的には、元の4拍子のトラック2小節分、つまり8拍分の後ろ1拍を切ると4拍子+3拍子、もしくは7拍子になります。
すると当然ですが、元の2小節の長さには1拍足りなくなってしまいます。そこで1拍分空いた後ろのスペースをタイムストレッチで引き伸ばしてやれば、2小節の中に7拍が均等に伸びて埋まる訳です。要するにエクセルやワードでやるような、文字の均等割り付けと同じ理屈ですね。
当然、単純に後ろを1拍切ってタイムストレッチするだけでは、この曲と同じようにはなりません。7拍子に合わせてリズムを組み替えたりと、更なるエディットが必要ですが、このテンポチェンジの根本的な発想としては、おそらくこうした過程を経ているのではないでしょうか。
新しいテンポは、本来8拍入る箇所に7拍入る事になるので、1拍が8/7倍になり、結果として元のテンポを8/7で割った、7/8倍のテンポとなります。
元のテンポの4拍子×2小節と、新しいテンポの4拍子+3拍子(7拍子)が同じ時間を共有している為、元のテンポのカウントをそのまま取り続けても、8拍で1周して頭が揃うようになっています。
つまりこれは新しい手法にも感じられますが、実際は4拍子×2小節の8拍を7つ割りするメトリックモジュレーションな訳です。
しかし、結果的にはメトリックモジュレーションでも、その結果に到達するまでの過程を考えると、充分に別種の手法と呼べるのではないでしょうか。
4 単純連結
では次に「ももいろクローバーZ - ミライボウル」です。この曲は当初、メトリックモジュレーション系として解説しようと思っていたのですが、よく聴くとそうではありませんでした。
1:24秒からガラリと雰囲気が変わって突然テンポアップし、リズムも16分3連のハネたリズムから、ストレートな16ビートに変わります。
16分3連は言うなれば6連なので、6連の4つ取りで16ビートに変えていると当初は思ったのですが、その場合は1拍が4/6倍、つまり2/3倍になる為、新しいテンポは元のテンポの3/2倍(1.5倍)になるはずです。しかし、具体的なBPMを調べた結果110から150に変わっていました。
これは1拍が11/15倍に変わっているという事であり、言い換えれば1拍を15分割して11個取りしているので、常識的なメトリックモジュレーションの割り方では考えられません。
つまりこの曲はテンポの異なるパートを単純に連結しているのです。1:49秒から元のテンポに戻りますが、ここも単純に連結しています。
テンポチェンジというよりメドレーや組曲の様なもので、曲を繋いだ結果としてテンポも変わった感じですね。
このように、キメラ的というかプラモ的というか、異なるパーツをそのままカチャッと繋げてしまう、非常に無邪気な手法もある訳です。
勿論、全く何も考えずにただ並べただけではこのようにならないので、少なくとも和声的な繋がりは考えねばなりませんが、テンポチェンジの手法としては最もプリミティブなものと言えるでしょう。
同系統の曲としては、新しいダイの大冒険のOP曲にもなった「マカロニえんぴつ - 生きるをする」などがあります。
この曲は2:24秒から唐突に全く別の曲調に変わり、テンポも変化します。そして2:53秒からアッチェレランド(テンポを徐々に速く)して元のテンポに戻りますが、ポップスではあまり耳にしない手法で面白いですね。
5 フェード
最後にもう1曲、「Post Malone - Hollywood's Bleeding」です。
まずBPM=134で始まり、1:12秒からBPM=160へとテンポアップします。そして2:00〜2:04秒までリタルダンド(テンポを徐々に遅く)して元のBPM=134に戻りますが、テンポの変化が自然に聴こえるよう良く工夫されています。
具体的には、まず最初のテンポアップ前に2小節の間が置かれており、ここは動いている音が無いので拍節感(クリック)が希薄になります。その後にリズムトラック、そして更に2拍置いてからボーカルが乗ってきます。
つまり、まず元のテンポの拍節感を薄めてから新しいテンポに移行し、2拍リズムトラックだけを聴かせて、新しいテンポの拍節感に慣れさせた後にボーカルが入ってくるというように、唐突な印象を与えないよう徐々にフェードして新しいテンポへ誘導する配慮がなされている訳です。
前述の「ももいろクローバーZ - ミライボウル」のように、突然テンポチェンジする曲は拍節感を見失いがちな為、適切にリズムを追うには何度か聴いて慣れる必要がありますが、それとは対照的に、この曲は初めて聴いてもごく自然にリズムに乗る事ができます。
そして元のテンポへ戻す時もリタルダンドで徐々に戻しており、その間もリズムトラックを抜いて拍節感を希釈してある為、いつの間にか元のテンポへ戻っているように聴こえると思います。
「ももいろクローバーZ - ミライボウル」が、カチャッと繋ぐプラモ的な手法ならば、「Post Malone - Hollywood's Bleeding」は、継ぎ目の無い粘土的な手法と言えるでしょう。単純に類推できるものでもありませんが、一昔前に流行ったアハ体験動画のように、漸次的な変化は音楽に関しても目立ちにくいと考えられます。
しかし、これほど丁寧に誘導しなくとも、テンポチェンジの際に新しいテンポのクリックをある程度聴かせて慣らすパートを置けば、十分に唐突感を消す事が可能です。
例えば「ZARD - この愛に泳ぎ疲れても」は、ヒラウタの2周目からテンポアップしますが、テンポチェンジする際に8分音符でシンセのシーケンスフレーズを2小節入れる事で、新しいテンポのクリックを提示している為、割と急にテンポチェンジしているのにも拘わらず、自然な流れで新しいテンポに乗れます。曲に入る前にドラマーがスティックでカウントを出すような効果がある訳ですね。
以上、全3回に渡り5通りに分けてテンポチェンジの手法を解説してきましたが、本編はこれにて終了です。しかし今回、種々の観点からテンポチェンジとは断言できない曲があり、補遺として次回の< 途中からテンポが変わる曲とその方法4>にてそれらの曲を解説致します。
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