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途中からテンポが変わる曲とその方法2

2 メトリックモジュレーション(応用編)

前回の途中からテンポが変わる曲とその方法1では、メトリックモジュレーション系テンポチェンジの基本編として、8分音符の3つ取りを解説しましたが、今回はメトリックモジュレーションを更に踏み込んだ形で使用したテンポチェンジの例を解説したいと思います。


それではまず、8分音符の3つ取りの発展形として「Fear, and Loathing in Las Vegas - The Stronger, The Further You'll Be」です。

1:55秒から始まるEDMのビルドアップ的なスネアの連打に続いて、2:02秒からシンセの音で3連のフレーズが1小節挿入された後、2:04秒からトランス的な曲調に変わりますが、ここでテンポも変わっていますね。
これは、2:02〜2:04秒までの3連が8分音符の3つ取りになっており、ここを基点としてテンポを変えているのですが、3連のリズムは最初の1小節だけで、次の小節からは16ビート(4連)に変わっています。

つまり8分音符の3つ取りでテンポチェンジし、更にその新しい1拍を4つ割りしてリズムを16ビートに変えている訳です。この点がシンプルな8分音符の3つ取りとは異なり、テンポチェンジ後も偶数のリズムが維持されています。

そして2:45秒から元のテンポに戻していますが、当初のテンポチェンジと逆の手順を考えれば、1拍を3つ割りして2つ取りしている事になりますね。
例えば、テンポが元に戻る1小節前くらいから2拍3連でカウントを取ると、テンポが戻った時にカウントがそのまま1拍に変わるのが分かるでしょう。

ただ2拍3連のリズムは、文字通り2拍を3連で取る、つまり2拍を3つに割るという事なので、慣れないと取りづらいかも知れません。
ここで簡単に2拍3連を説明しておきますと、有名な曲で言えば、The Beatles - We Can Work It Out(0:46〜0:50秒)や、天空の城ラピュタ - 君をのせてのイントロ(1:00〜1:04秒)で、3拍子のようにも聴こえると思いますが、実際は2拍を3つに割った2拍3連のフレーズなのです。
因みにこの曲私だけの十字架(0:36秒〜)のように、3拍子の曲を2拍3連で取る事によりテンポチェンジする曲もあります。この場合は1拍が2/3の長さになる為テンポは3/2倍になる訳ですが、元々が3拍子の曲なので、3拍子のままテンポが速くなって聴こえると思います。


次に「Lionel Richie - Say You,Say Me」です。

2:49〜3:05秒にかけての箇所ですが、これは1拍を3つに割り、その3つ割りの音符を2つ取りしてテンポアップしています。
具体的には、スネアの連打に合わせてギターが「ジャ・ジャ・ジャ♪」と刻み始めたところで新しいテンポ(8ビート)に変わっていますが、そのスネアの連打とギターの刻みが新しいテンポの半拍(8分音符)であり、元のテンポから見ると3つ割りの音符1つ分という事です。
つまりこれは前述した「Fear, and Loathing in Las Vegas - The Stronger, The Further You'll Be」が、テンポを戻す時に使った方法でテンポチェンジしている訳ですね。

3つ割りの2つ取りという事は、元の1拍の2/3が新しい1拍となるので、新しいテンポは元のテンポを2/3で割った、3/2倍のテンポとなります。
3:06秒から元のテンポに戻りますが、直前のフィルインで打っているスネア3発を1拍として取り直せば、元のテンポの拍節感(クリック)に戻りやすいかと思います。


そして次は前回も紹介したバンドの曲「オメでたい頭でなにより - 乾杯トゥモロー」です。

この曲は3連の2拍子(6/8拍子)で始まり、0:43秒からアップテンポのシャッフルビート(3連)に変わりますが、これは3連の1拍を4つに割り直して3つ取りしているのです。
具体的には、テンポチェンジした際に「タタタタタタ♪」とスネアが6回連打されますが、このスネア1発が4つ割りした長さになっており、つまりこの6連打は新しいテンポ(3連)の2拍分になっています。
この連打は、うっかりすると元のテンポの3連に聴こえてしまうかも知れませんが、この時点で既に4つ割りしている訳です。

そしてこの連打が新しいテンポを提示するカウントのような役割になっている為、比較的テンポチェンジのタイミングは分かりやすいと言えますね。
連打の後半3発目からアウフタクトでカーンパーイと歌が入りますが、カーンまでがアウフタクトで、パーイから次の小節に入ります。

1拍を4つに割り直して3つ取りという事は、新しい1拍は元の1拍の3/4倍になっている為、新しいテンポは元のテンポを3/4で割ったテンポ、つまり元のテンポの4/3倍となります。

またこの曲は元のテンポに戻す時も工夫がされていて、2:46秒から2拍3連のフレーズを挟んで戻すのですが、この2拍3連フレーズの時には既に元のテンポに戻っています。つまりこの箇所の2拍は元のテンポの長さに戻っているという事なので、新しいテンポの3連の音符1つ分が8つ入る計算になります。
何故なら、新しいテンポはそもそも元のテンポの1拍を4つ割りして作られたものである為、2拍に4連符(16分音符)が8つ入るのは当然の事です。

以上を踏まえると、この元のテンポの2拍には新しいテンポの8つの音符を使って、3:3:2と割ったリズムを当てはめる事ができます。
この3:3:2のリズムは2拍3連に近似しており、文字にすると「ツツ・ツツ・ツ」といったリズムなのですが、2拍の分割方法を計算式で比較すると、2拍3連は均等な「1/3+1/3+1/3」なのに対し、3:3:2のリズムは「3/8 +3/8+2/8」となります。
3:3:2のリズムは3つ目の長さだけ短くなるのですが、1/3=0.333に対して3/8=0.375なので、両者が似たリズムであるのは大体伝わるかと思います。
更に、3:3:2のリズムを新しいテンポから見た場合、3連のビートである為に、通常の1拍が2つと、やや短い1拍(2/3拍)と数えられます。
つまり、元のテンポの2拍3連と、新しいテンポの2拍+2/3拍は、近似したリズムであると言い換えられますね。

結果として、新しいテンポから元のテンポの2拍3連に変わっても、それが新しいテンポの2拍+2/3拍と近似しているが故に元のテンポに戻った感覚が曖昧な為、違和感なく新しいテンポから元のテンポに戻せるという訳です。
例えるなら、シンデレラ → サンガリア → サイゼリヤ といったように、一旦サンガリアを挟む事でシンデレラとサイゼリヤを結びつけている感じです。
もしくはマーク・ザッカーバーグが出てくるべき場面でサバンナ高橋が出てきても一瞬は気付かないでしょう。そういう事です。


それでは最後に、メトリックモジュレーション系の締めとして「King Crimson - One More Red Nightmare」を解説します。

今回はテンポチェンジの説明なので、歌が入ってくるところまでの変拍子とかは気にしないでください。そもそもこの曲の変拍子は、所々1拍抜けている程度の簡単なものなので気にする程ではありません。

2:06秒からテンポチェンジしており、曲の雰囲気自体もガラリと変わりますが、ここは16分音符(4連)を3つ取りし、その仮の1拍を更に8分音符の3つ取りしてリズムを変えています。

つまり、元のテンポの1拍を3/4倍し、更に3/2倍したものが新しい1拍となる為、新しいテンポは元のテンポを3/4×3/2=9/8で割ったテンポ、つまり元のテンポを8/9倍したテンポになります。
ただしこれは、あくまで純粋な楽曲デザインとしての話で、こうした過程を経てテンポチェンジしているだろうと推測した、メトリックモジュレーション通りの計算値であり、実際のテンポがキッチリ8/9倍になっている訳ではありません。そもそもこの曲はクリックに合わせた演奏では無く、演奏中のテンポも演奏者の感覚に基づいて随時変化しています。

例えば先に挙げた「オメでたい頭でなにより - 乾杯トゥモロー」は、クリックに合わせて演奏されており、メトリックモジュレーション時も元のテンポBPM=135からキッチリ4/3倍のBPM=180になっています。しかし、前回解説した「オメでたい頭でなにより - ザ☆キュ〜ティクルピーポー」の場合は、クリックに合わせた演奏ではありますが、8分音符の3つ取りからまた元に戻す流れでBPM=195→134→186となっています。
計算通りならBPM=195→130→195になるはずですが、これはおそらく計算通りの厳密なBPMでは遅すぎたり速すぎたりした為に調整したものと思われます。このようにハイブリッド仕様とでも言うか、クリックに合わせた演奏であってもテンポチェンジの際にはBPMの調整をしている曲もある訳です。
因みに「Fear, and Loathing in Las Vegas - The Stronger, The Further You'll Be」は、BPM=210→140で計算通りとなっており、「Lionel Richie - Say You,Say Me」は、BPM=64→98と、計算通りなら96になるはずなので若干の調整がされているようです。


以上のように、メトリックモジュレーションしていても、計算通りのBPMになっているとは限らないので注意してください。しかし、多少の調整値であれば、余程シビアなタイム感を持つ方でない限り、聴感上は違和感無く聴こえるでしょう。
次回の途中からテンポが変わる曲とその方法3では、これまで解説してきたメトリックモジュレーション系以外の方法論を用いたテンポチェンジの手法を解説したいと存じます。

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