途中からテンポが変わる曲とその方法4
補遺
初回の<途中からテンポが変わる曲とその方法1>、前々回の<途中からテンポが変わる曲とその方法2>、前回の<途中からテンポが変わる曲とその方法3>と、全3回に渡りテンポチェンジの手法を解説してきましたが、今回は種々の観点から本編中に含めなかった曲を、その理由と共に解説します。
1曲目、「KID FRESINO - Coincidence」です。
この曲は、16分音符の5つ取りをしている箇所(1:03〜1:13秒、2:52秒〜最後まで)があり、明確にリズムが変わったのを感じ取れると思います。スチールパンのフレーズに意識を向けると、5つ取りしているのが分かりやすいかも知れません。
当該箇所は、バックトラックが5つ取りのフレーズをオスティナートで繰り返しており、音楽的な狙いとしては5連のリズムを聴かせるのが主目的であると感じます。メトリックモジュレーションは、常にリズムとテンポが同時に変化する為、4/5の速度にテンポが落ちているとも言えますが、この曲の場合はリズムの変化に主眼が置かれており、テンポの変化はその結果でしょう。
つまり、テンポを変える目的で5つ取りしているようには聴こえない為に、テンポチェンジの例として本編では解説しなかった訳です。
リズムとテンポのどちらに主眼が置かれているのかは、個人の印象論になってしまいますが、そもそもメトリックモジュレーションはリズムを変化させる手法なので、テンポよりもリズムに主眼を置いている方が普通です。またこの曲は「5連のリズム」が一般的とは言い難く、むしろ特殊な部類である為に自然とリズムの方へ意識が向くのではないでしょうか。そこで意識が向く方に主眼が置かれているとの推論にも、論理的な無理は無いと思います。
2曲目、「rei harakami - にじぞう」です。
この曲は3連符のリズムが主体となったポリリズムの要素が有る曲で、聴感的に分かりやすいのは3:49〜3:57秒のキックが入ってくる箇所です。
曲中、他の箇所にも同様のパターンが出てきますが、このキックは3連符を4つ取りしており、先行していたハットのリズム(3連符2つ遅れの4つ取り)と相まって、所謂「ドッチー・ドッチー♪」といったドラムパターンに変わったように聴こえると思います。
問題はこれをテンポチェンジと見なすかどうかなのですが、ドラムパターンのみが4つ取りのリズムに変わっただけで、他のパートは3連のまま変わっていません。つまりそれこそがポリリズムであり、複数のリズムが同時進行している訳ですが、これは複数のテンポが同時進行しているとも言えます。
そして複数のリズム(テンポ)が同時進行しているポリリズムの状態では、そもそもリズムがチェンジ(交代)していない為に、テンポもチェンジしていません。その為にこの曲もテンポチェンジの例から外しました。
ただ、実際にはテンポが変わったようにも聴こえるのではないでしょうか。
これは、ドラムのキックが拍節感に大きく影響を与えるからであり、たとえポリリズムであっても、当該箇所のように4つ取りのキックが周期的に打たれていれば、その間は4つ取りの拍節感に支配されてしまいます。
しかし仮に、そのまま新たな展開に発展して行くようであれば、メインのリズムが3連からその4つ取りに移行したと考えられる為、ポリリズムであってもテンポチェンジしたと言えますが、実際には一時的なものであり、リズムに変化を付ける為のギミック的な手法と考えてよいでしょう。
3曲目、「ずっと真夜中でいいのに。 - 暗く黒く」です。
1:44〜2:13秒、そして3:35秒〜最後までは、ドラムがテンポに対して半分の尺で演奏されています。これは俗に倍テン(倍のテンポの略)と呼ばれる手法であり、4/4拍子の曲を4/8拍子で叩いているとも言え、実質的に1拍の長さが半分になる為、倍のテンポとなって聴こえる訳です。
類例には「Thomas the Tank Engine - Original Theme」(0:24〜0:41秒)等が挙げられますが、以下に模式図で説明しますと、1拍の区切りを|、アクセント(スネア)の音符を●、それ以外の音符を○とした場合、
|○○○○|●○○○|○○○○|●○○○|〜
上記は当該曲の基本的なドラムパターン(16ビート)1小節分を単純化したものになります。これが…
|○○●○|○○●○|○○●○|○○●○|〜
このように変わっています。
拍節が半分(4分音符→8分音符)になった結果、倍速のドラム(リズム)パターンとなり、1小節内のアクセント(スネア)の位置が倍に増える為、スピード感が増したような印象を受けるでしょう。これはドラムのループ素材を半分の長さにタイムストレッチするようなものです。しかし、小節線の位置を変えていない事から分かる通り、テンポは変わっておらず、あくまでもドラム(リズム)パターンが途中で倍速になったり、また戻ったりしているのです。
4曲目、「Toto - Rosanna (Live)」です。
この曲の基本的なドラム(リズム)パターンはハーフタイム・シャッフルと呼ばれており、テンポに対して2倍の尺で演奏されています。これは俗に半テン(半分のテンポの略)と呼ばれる手法であり、4/4拍子の曲を、4/2拍子で叩いているとも言え、実質的に1拍の長さが倍になる為、半分のテンポとなって聴こえる訳です。
当該曲は3連のハネたリズムですが、ストレートなハーフタイムの類例には「Ariana Grande - positions」、途中でハーフタイムになる例としては「廻廻奇譚 - Eve MV」(1:26〜1:45秒)のトラップビート的な箇所が分かりやすいでしょう。
倍テン同様、以下に模式図で説明しますと、
|○○○|●○○|○○○|●○○|〜
上記の8ビート(3連)1小節分を…
|○○○|○○○|●○○|○○○|〜
このようにしたのが半テン(ハーフタイム・シャッフル)です。
拍節が倍(4分音符→2分音符)になった結果、半速のドラム(リズム)パターンとなり、1小節内のアクセント(スネア)の位置が半分に減る為、ゆったりとした印象を受けるでしょう。これはドラムのループ素材を倍の長さにタイムストレッチするようなものです。また0:59〜1:12秒までの箇所は、等速のリズムに戻る為、相対的にスピード感が増して聴こえると思います。観客のクラップも4分音符で叩かれていますね。しかしこの曲も「ずっと真夜中でいいのに。 - 暗く黒く」同様、テンポは変わっていません。あくまでもドラム(リズム)パターンが半速で始まり、途中で等速になったりしているのです。
以上3〜4曲目の曲例から、倍テン及び半テンと呼ばれる手法は、テンポに対してドラム(リズム)パターンが、倍や半分の速度に変化するものであるとご理解頂けたかと思います。直感的な言葉で表すなら、楽曲のノリを変える手法であると言う事ですね。つまり、あくまでもリズムを変える手法であってテンポは変わらない為、テンポチェンジの例から外した訳です。
尚、実際のテンポが倍速や半速になる場合もありますが、それは楽曲そのものを倍速や半速で演奏している為、上記の倍テンや半テンと呼ばれる手法とは別種の手法として区別されるものでしょう。
終わり。
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