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ずぶぬれてこの頃

2024.06.13
ぺぎんの日記#72
「ずぶぬれてこの頃」


朝はカラッと晴れていたのに、午後からスコール並みの大雨が降ったせいで、私を含め多くの人が帰宅難民になった。

帰宅難民という表現は大げさか。でも現に、だいたいの部活が終わった6:30頃の玄関は迎えを待つ人や、雨の中を帰る覚悟を決め切れない人でごった返していた。

玄関の外で激しく叩きつける雨を見て私も動揺する。部活をしていたときは、こんなに降っていると思っていなかった。

雨が少し弱まるかも知れないと期待しながら、玄関で突っ立つ。

シトシト降るような雨だと「めんどくさい」「湿度がキモい」といった感覚が勝つのだが、これだけ降るとむしろ心が高鳴ってくる。普段経験できないイベントにドキドキする。

その感覚は、みんな少しは同じなようで、特に馬鹿な男子たちは「うっひょー!」と叫びながら大雨の中に飛び出していく。

玄関を勢いよく飛び出し、正門の前に横付けしてもらった車まで走って行ったはいいものの、車の前まで来たところで「ばいばーい、元気でなー、また明日ー、あれ明日って小テストあるー?え?無いー?聞こえなーい」などと、玄関にいる友人にひたすら別れの挨拶をするエンターテイナーもいた。
車からお母さんが出てきて、そいつを無理やり車の中に押し込む。
そりゃそうだよ笑。ここまで走ってきた意味ないやんけ。

そんないくつかのドラマを見送った後、なかなか収まらない、むしろ力強くなっている雨を見て、私も無理やり帰る決断をする。
気温は27度くらいだし、おそらく風を引くことはないだろう。

玄関の中でバックを防水性の袋にしまう。
袋に入ったバックを抱え、えいや!と玄関を飛び出す。

これから30分近く、大雨の中自転車を漕ぐのだからどうせビショビショになるのは分かっている。しかし雨の中を生身で堂々と歩く変人にはなりたくなかったので、自転車小屋までダッシュする。

息を切らしながら自転車小屋に着く。バックの入った袋を自転車の後ろにくくりつける。さあ帰ろう。

自転車小屋の屋根の下から、自転車に乗って飛び出す。

ザアアアアア!

バケツを引っくり返した雨…よりは弱いのだろうか。しかし雨はものの20秒程度で私の衣服を、水で飽和するまで濡らした。
靴も服も身体にペッタリと張り付くのを感じる。

大粒の雨の、一滴一滴が重く、痛い。
腕に雨がバチバチ当たる。

街を抜け、我が家に帰る長い一本道に入る。

道全体が大きな水たまりのようになっている。
自転車のタイヤが巻き上げた水が、バックを入れた袋に容赦なくかかる。あの防水性を持ってしてもこの水量は厳しそうだ。中の教科書が多少水没するのは覚悟しなければならない。

対向車が来る。バッシャーン!と水たまりを蹴散らす。その水が思いっきり私にかかる。

うっひゃーい!

大雨、水たまり、水かけ、もうどんどん楽しくなってくる。
いいぞいいぞもっと降れ、なんて思いながら漕ぐ。

幸か不幸か、走っているうちにだんだんと雨は強くなってくる。
だんだんとガスってきて、おまけに上空では雷が鳴り出した。

あ、これ結構やばいのでは、、、?

そう気がついたときにはもう遅かった。全力で家まで帰るしか無い。

もう一度、気合を入れてペダルを回し直す。靴が水没して、むしろいつもよりフィット感が増している気がする。自転車と私がちゃんと一体に慣れている感覚がする。

全力で漕いでいると、だんだんと帽子を被った頭が痒くなってくる。汗のせいなのか雨の弱酸性のせいなのかは分からない。あまりにも酸性の強い雨を浴びるとハゲるなんていう話も聞いたことがあるから、「このかゆみって髪が抜けるかゆみじゃないよね…?」と怖くなってくる。

その恐怖を一回忘れて走行に集中していると、今度はなにか未熟のぶどうを噛み潰したような酸っぱくて渋い匂いが鼻をついてきた。続いて、畑に積まれた堆肥の匂いが鼻を突く。

雨はこんなにも匂いを運ぶんだなと思った。

漕ぐ。漕ぐ。全力で漕ぐ。

そんなこんなで色々ありながらも、ようやく家に到達することができた。

ずぶ濡れの身体を引きずりながら、なんとか家の中に入る。
「ただいまー」
息も絶え絶え「ただいま」を伝え、お風呂に直行する。

早く熱いシャワーを浴びたい。

お風呂を沸かし、ビショビショになった色々といっしょにお風呂に入る。
次の瞬間、ブワァ!っと、洗剤の匂いが強く香った。いつもはこんなに強く匂わないのに。湿度が高いと鼻の感度が高くなるのかも知れない。

速攻でシャワーをひねり、あっつあつのシャワーを浴びる。
んー気持ちいー。

硬い雨で叩かれまくった身体に、優くて柔らかいシャワーのお湯が触れる。
全身が回復していくのを感じる。
幸せ。

たまにはこういう大雨のイベントも、あっていいかもしれない。もちろん、災害にならない範囲で頼むね、天気さん。

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