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ファウル!

2024.06.19
ぺぎんの日記#78
「ファウル!」


以下、便宜上「男子」「女子」という明確に区別した表現を用います。ご了承ください。

今は体育の時間に、ソフトボールを男女混合でやっている。
野球経験者の男子って紳士だなぁと思った、そんな話。

ソフトボールを男女混合でやると何が起こるかって、そりゃまぁ端的に言うと男子が上手くて女子は下手なのである。ボールは投げられない、バットには当たらない、外野になっても走れない。おまけに野球の基本的なルールを知らないと来ている。

これが男子と女子の育ちの違い_いわゆる文化圏の違いってやつなのか、それとも先天的に持っている運動への勘のよさの違いなのかは分からない。
何にせよ、経験者だろうが未経験者だろうが、とにかく男子は女子よりソフトボールが上手い。

そんなソフトが下手な女子の1人、Yちゃんが今、バッターボックスに立っている。私はレフトで守備。Yちゃんは対戦中の相手チームである。

私のチームのピッチャー(野球部男子)が、打ちやすいようにフワリと、ボールをストライクゾーンに投げ込む。

スカッ

Yちゃんの振ったバットは、キレイに空振りになる。
「ふえぇ…」
Yちゃんから情けなくて可愛い声が出る。

「ストライク」
審判をしている、攻撃チームの野球部男子が申し訳無さそうにストライクを宣言する。

2投目。
スカッ。
またしても空振り。
「ふえぇ…」
Yちゃんから情けなくて可愛い声が出る。
「ストライク」
審判は申し訳無さそうに、そう言う。

攻撃チームの女子たちは「大丈夫!振ってればいつか当たるよ!」などと、わけの分からない応援をしている。
次振って当たらなかったらアウトだっつーの。

そして運命の3投目。
フワリと飛んでいったボールは、、、
スカッ。
見事バットをすり抜けた。

「あぁ」と落胆する相手チームの男子。

と、ここでピッチャーの野球部男子が声を上げる。
「今キャッチャー、ボール取った?」

キャッチャーが応える。
「ごめん!取りこぼした!審判、カスった?」

審判が言う。
「バットにボール カスッた!ファウル!」
審判が高らかにファウルを宣言する。

ピッチャーが叫ぶ。
「うわぁマジかぁ!もっかい行くかー」

「よーし気合い入れてこー」などと、あちこちから声が上がる。
バッターボックスのYちゃんは、何が起こったか分からないといった顔で、しかし堂々とバットを構える。

4投目。
投げる。
スカッとバットをすり抜ける。
「ファウル!」
審判とピッチャーが同時に叫ぶ。
もうキャッチャーがボール取っちゃってるけど、これはファウルらしい笑。

5投目。
投げる。
スカッ。
「ファウル!」

6投目。
投げる。
スカッ。
「ファウル!」

だんだんと、「ファウル!」の声が守備陣全体に広がってくる。Yちゃんがバットを振るたび、すべてファウル判定になる。守備の男子陣の総意に基づいて。

7投目。
投げる。
スカッ。
「ファウル!どんまい!」

8投目。
投げる。
スカッ。
「ファウル!もっと球見て!」

そしてついにその時がきた。
ピッチャーが投げたボールが、Yちゃんの振ったバットに当たる。
「当たった!」Yちゃんと、数人の守備と攻撃が叫ぶ。
攻撃チームから「走れ走れ!」と声が飛ぶ。
Yちゃんは思い出したように1塁ベースに走り出す。

一方その頃、ピッチャーの眼の前に転がっていったボールは、、、
ピッチャーの野球部男子が一塁ベース側に暴投して、ファーストの頭上をフワリと超えて奥に飛んでいく。
「なーにしてんねーん!w」
攻撃、守備両方の男子から、ピッチャーへのイジり野次が飛ぶ。

Yちゃんは一塁ベースに到達する。ファーストはボールを拾って戻って来る。

続いて、バッターボックスには、野球部の強力なバッターが入る。
「打ったら全力で走ってね!」
バッターがYちゃんに伝える。
Yちゃんが頷く。

ピッチャーが投げる。
バッターが打つ。
カキーン!
軽やかな音を立てて、ボールがレフト側はるか上空を通過する。
Yちゃんが、2塁ベースに向けて走り出す。
私もまた、遥か彼方のボールを追いかけて走り出す。


あの場にいた女子の、果たして何人が、あの守備の男子たちの優しさに気付いたのだろうか。「女子三振無しにしよう」とか、そういう提案でも良かったはずなのに、なのにわざわざ「ファウル!」と表現した彼らの優しさに、私は結構本気で感動した。

「優しい人がいい」
恋バナをするときに、何気なく「優しい人」という表現をするけど、本当にいい人に出会うためには、私たちがまず「男子界隈の優しさ」っていうものを理解する努力をしないといけないのかも知れないな。
なーんて、思ってみたりして。


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