手作りチョコを池に投げ捨ててた女の子の話
今年もバレンタインの時期ですね。
せっかくなので、バレンタインにちなんだ、高校時代の甘酸っぱい思い出を振り返ってみようと思います。
当時の状況
僕が高校生の頃、クラスに『水島さん』(仮名)という女の子がいました。
水島さんは、どこか不思議な感じのする透明感のある美少女で、アンニュイな表情でいつも窓の外を眺めていました。
そんな水島さんの後をいつも無意識に視線で追っていました。
気づいた頃には、コイに落ちちゃっていました。
でも、ある日から寡黙な水島さんが、クラス1のイケメン、『白田くん』とだけはよくしゃべることに気づいてしまいました。
その日から僕は勝手に自分の恋は叶わないんだろうなぁなんて、勝手に諦めていました。
バレンタイン当日の朝
水島さんが、可愛い包み紙を持って登校してきたのに気づいてから、ソワソワが止まりませんでした。
『誰にあげるんだろう?やっぱり白田くんかな、もしかして僕かもしれない』
朝からずっとヤキモキしていました。
昼休み
僕が高校生だった時代から、バレンタインの日の昼休みの教室はコイと青春とスイーツの甘い匂いで充満していました。
白田くんは女の子からのプレゼント渡しで行列ができています。やっと目の前の行列をさばききった白田くんは、教室から出て行ってしまいます。クラス外の女の子からも呼び出されたりしてるんですかね。
モテる男子って本当にうらやましいですね。
モテないモブ男子の僕たちは白田くんみたいなモテ男にヤジを飛ばしながら、教室の隅で男同士でだべって過ごします。
でもどうしても、なかなか教室に戻ってこない水島さんの机をチラチラてしまい、僕は友達との会話も上の空になってました。
白田くんを教室の外に呼び出したのは、水島さんだったのでしょうか。
「二人でいちゃいちゃ青春ラブイベントをやっているのでは?」
なんて想像しているとむしゃくしゃしてきて目の前のルーズリーフをくしゃくしゃにしちゃいました。
昼休み終了
僕の淡い期待を打ち切るように、昼休み終了のチャイムが鳴りました。
空しくて談笑にも混じらず虚空を眺めていると、目の前であまり話したことがない、地味で素朴な顔の女の子がモジモジしていたことに気づきました。
そのまま彼女は僕の机に包み紙を置いて、自分の席に素早く去って行きました。
僕が上の空でいて、小さな勇気に、気づくこともないまま彼女の恋愛イベントは終了しちゃったのです。
片思いをしている側からしたら大イベントでも、される側からしたら、こんなにあっけないものなんですね。
なんだか空しくなりました。
帰り道
その日僕は、なんとなく、失恋した気持ちで下校していました。
やっぱり、
いつも一緒に帰っている、坊主頭の『田中』の
「お前、今年はチョコもらってんじゃん!」
という羨望の声に苦笑いしいました。
明るいテンションを保つのがしんどかったので、
「今日別のところに用事あるから」
と田中を振り切って、回り道で、大池公園を通る道の方で帰ることにしました。
呑気な田中は「フゥ~!青春だね〜!」なんておっさんぶってた。
大池公園で
やるせなくなって、帰る気力もなくなって僕は、大池公園のベンチに座り込むことにしました。
ベンチから大池(いうほど大きくない池)を眺めていました。
辛い時でも水面を眺めているとなんだか落ち着いた気持ちになれます。
そのまま眺めていると、向こうのほうからからポチャっと音がしました。
そのさざ波が目の前の水面にも小さく伝わってきます。
音のしたほうを見てみると水島さんがいました。
可愛くデコレーションされた包装紙をくしゃくしゃにして中のチョコを取り出して、一つずつ、池に投げ捨てていました。
咄嗟に、水島さんめがけて走っていって
「捨てるくらいなら、僕にくれよ!」
と叫んじゃいました。
水島さんはびっくりしていました。
水島さんとの会話1
水島さんはいつも白田くんと仲良さそうにしていた
水島さんが可愛い包み紙を持って登校してきた
昼休みに水島さんと白田くんが教室から消えている
水島さんは今、チョコレートを大池に投げ捨てている
この4つのヒントから、ピンと来ていました。
水島さんは、白田くんにフラれたんだ!
だから、
渡せなかったチョコを池に投げ捨てててるんだ!
と推理をしました。
それで僕は、
「白田くんのことは残念だったかもしれないけど、せっかく作ったものを捨てるなんてもったいないよ!」
なんて言いました。
すると、水島さんは目をまん丸にして、少し考えてから、
「あ、白田くんにあげるつもりのチョコだと思ったのね!」
と気づいて言いました。
僕の推理はめちゃくちゃ外れていたようです。
水島さんとの会話2
水島さん「だいたい、あんなにチョコをもらってる白田くんにチョコをあげても面白くないじゃない」
僕「じゃあ、誰に渡すつもりだったの?」
水島さん「決まっているじゃない、ちゃんと水面を見て」
水面を見ると、コイが群がって口をパクパクさせていました。
水島さん「この子たちにあげてるの」
僕「いやいや、そうじゃなくてもともと誰に渡すつもりだったかを聞いてて」
水島さん「元からこの子たちにあげるつもりだったよ」
水島さんは不思議そうな顔で首をかしげます。
不思議なのは僕のほうなんだが。
僕「いや、これ、どう見ても手作りじゃないか、そんな苦労こいつら絶対わかんないじゃん、わざわざこのために作ったの?」
水島さん「そうだよ」
めちゃくちゃ動物愛がある子だなあと思いました。
水島さん「受け取り手は、私が作ったかどうかという情報じゃなくて、チョコそのものを判断して食べてる。そこに価値があるの」
僕「コイなんて鼻くそでも食べるじゃないか!」
訂正、めちゃくちゃ変人なだけでした。
水島さん「でも、誰もがチョコをあげている、白田くんにあげるより100倍楽しいと思うけどね。
クラスの女の子、誰もやったことないだろうし」
『誰もやったことない』にやたら価値を見出す思考は、サブカルクソ女の典型的なそれでした。
水島さん「私はね、こういう無駄こそ好きなの。
わざわざ手作りして包装までしたチョコをさ、視力0.1もない汚い大池に住んでるコイにあげるの。
いかにも回り道な青春してんなぁって感じの無駄じゃん?」
青春のすべてをはき違えている気がします。
その時、水島さんはハッとした顔で口もとに手を当てました。
水島さん「これが恋ってやつなのかな!?コイだけに」
僕「やかましいわ」
水島さん「コイしちゃったんだ。多分、気づいてないでしょう♬」
アホな鼻歌に溜息を吐きました。
池を背景に、風に髪をたなびかせ、鼻歌を口ずさむその姿は無駄に様になってました。
『こんなバカにコイした僕の時間を返せ』
と思いました。
その後
なんだかんだ合って、僕は水島さんと付き合うことになりました。
アンニュイな表情で窓の外を眺めている美少女は、案外いつも頭の中がアホなことでいっぱいでした。
それが今の彼女です。
次の年のバレンタインは、鯉をかたどったチョコをもらいました。
無駄にクオリティの高かったです。
「ウロコの造形にこだわった」とか言ってました。
作品の受け取り手である僕は、全くそのこだわりを理解しないままチョコを胃の中に消化しました。
そもそも僕へのプレゼントなのに、アートとその受け取り手みたいな構図になっているのがおかしいと思いました。
白田くんはああ見えて根っからのサブカル野郎だったようです。
女装した時の写真を裏垢に公開して、性欲猿から送られてきたDMの文章を詩集にしてコミケで売っていたそうです。
そんなんなので、全然ただのオタ友としか見ていなかったようです。
そんな白田くんも、現在は真面目に大学で「ジェンダー論」を研究しているようです。
今日はバレンタインにかこつけて今の彼女さんとの馴れ初めの惚気話をさせていただきました。
お互い社会人になって、今や結婚の話も進んでいます。
これからもまた僕の日常を切り取って皆さんにお届けしますので、読んでいただけると幸いです。
もしよかったら、感想書いてもらえると泣いて喜びます。
『水島さんより、白田くんについての話のほうが聞きたいです』とか、
『チョコレートをくれた地味で素朴な顔の女の子とはどうなっちゃったの!?』とか、
なんでもいいんで。
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