患者さんとの話し合いの進め方④
簡単にお話しするつもりでしたが、結局長くなってきてしまいました。
患者さんとの話し合いを進める際のポイントとして、
① 何のために話し合いを行うのか?
② 準備は十分だったか?
③ どう見えているか?
をあげました。今日は 「③ どう見えているか?」について私見をお話ししたいと思います。
患者さんはどうして私の話を聞いてくれているのか?
そんなの「医師だから」でしょ?と当たり前のように返ってきそうですが、そう思う人は要注意だと思っています。
人に及ぼす影響力を3つに分類すると、
ポジション・パワー(公式の力):
アサイン権限や、許可、予算、報酬、情報、材料を握っている、など
パーソナル・パワー(個人の力):
信頼性、専門性、実績、カリスマ、魅力、スタミナ、
コミュニケーション力、など
リレーショナル・パワー(関係性の力):
提携する、頼れる、互恵性(多様なネットワークの中心にいて、
精神的支援、助言、情報、資源を得られる力)、など
の3つがあることが知られています。
いわゆる「医師である」ことは一つのポジションパワーになっていることは間違いありませんが、それだけではなさそうです。しかも、多くの患者さんは自分が話している相手がを「研修医の先生である」ことをわかった上で、「お医者さん」としてつきあってくれています。つまり「医師である」というポジション自体に対する信頼性はそれほど強くないはずです。
また、「自分が信頼されている!」と個人の力と勘違いしてしまうこともありますね。これは自分も含めて気をつけなければいけないと思っています。
「信頼されやすい雰囲気」を如何に出すか?は大事なことです。一方、医学教育の中で「ラポール」が強調されますが、ERのセッティングでは、患者さんとは出会ってせいぜい1時間です。そんなに簡単に「信頼関係」が形成されるものとも思えません。
※ ラポール:セラピストとクライエントの間に、相互を信頼し合い、安心して自由に振る舞ったり感情の交流を行える関係が成立している状態を表す語
(by Wikipedia)
ではどうして患者さんは話を聞いてくれているのか?
それは「●●病院のER担当の医師である」という病院のカンバンに対する信頼が先に立っていると私は考えています。もちろん、個々の医師・看護師を初めスタッフ全員の努力の積み重ねによって、その「カンバンに対する信頼」が形成されるわけですが、こと初対面で話を聞いてもらえる状況というのは、ここでいうところのリレーショナルパワーによるところがおおきのではないかと考えています。
人は何故動くのか?
もう一点、いくら医師であったとしても、街で会った人に突然、薬を飲ませることはできませんし、手術をすることもできません。
相手への影響力=自分のパワー源泉の大きさ×相手の自分への依存度
という公式が知られています。
人に動いてもらう為には相手の自分への依存度を高める、作業が不可欠になります。
医師-患者関係というのはそもそも患者側に、痛み、苦痛、心配という、「医師」「病院」に対する、依存度が非常に高い状態にあります。だからこそ、「自分のパワーの源泉」など小難しいことを考えなくても比較的容易に患者さんは「動く」ように見えるわけです。
逆に言えば、患者さんは基本的に「頼らざるを得ない存在」であるともいえます。この力関係をよくよく理解した上で、患者さんと相対したいものです。
非言語コミュニケーションを利用する
上記を受けて、私はできるだけ「説明する人」「治療を施す人」という立場を意図的に取らないように振る舞うことを研修医の先生にはお伝えしています。
医師からの説明というのは、結果的に「一方的な命令」になってしまうこともあると考えているからです。
あくまでも「支援者」「一緒に状況を悩む人」というスタンスでおはなしをするのが良いのかなあと感じています。これは完全に私見で、エビデンスがあるかどうかはしりませんが、その方が患者さんの協力が得やすいと感じています。
もちろん意図的に「治療を施す人」という立場を取ることもありますが、あくまでも必要だと判断したときに「意図的に」やります。
「支援者である」という立場を伝えるために、非言語コミュニケーションを積極的に利用します。たくさんは難しいので、研修医の先生にお勧めするのは以下の2つ。
① 患者さん(の家族)と向かい合わせに立たず、横にたって視線を共有する
② 「わざわざ」椅子を持ってきて自分も座る
患者さんといかに連帯感を作るか?がポイントです。
わかりやすい図があったので引用しておきます。
https://life-and-mind.com/negotiation-8378
この視線を共有する効果は、いろいろな本で言われていますね。
また、ER はただでさえバタバタしますし、患者さん側も、「医師が忙しい(マルチタスクである)」ということは十分に理解しています。ですから、「わざわざ椅子を持ってきて座る」効果は絶大です。
「あなたのために時間を取っていますよ」ということが、非言語のメッセージとして伝わるからです。
これにより患者さん側も「あ、しゃべっていいんだ」と感じてくれますので、思っても見なかった情報が飛び出すこともたくさんあり、患者さん側のニーズを探り情報を増やすという先日来の話にとっても効果絶大です。
是非試してみて下さい。
最後に
患者さんと話をする際に、どんなことを考えたら良いのか?という視点でお話をしました。ここまでに述べてきたことはあくまで「私の私見」ですが、小手先のテクニックとして利用するのではなく、あくまでも「患者さんとの話し合い」をどのように俯瞰したら良いか?という観点でご利用頂ければと思います。
【参考】
https://globis.jp/article/4906?fbclid=IwAR2J81t_IVTU9ZPERStAcsoSgqVIHG40UL6fBcWWVYXVUKJmv2ylpdgRmBM
小児科、小児集中治療室を中心に研修後、現在、救命救急センターに勤務しています。 全てのこども達が安心して暮らせる社会を作るべく、専門性と専門性の交差点で双方の価値を最大化していきます。 小児科専門医/救急科専門医/経営学修士(MBA)/日本DMAT隊員/災害時小児周産期リエゾン