事故 vs 虐待? part 2
前回、発達段階と矛盾する事故は、虐待を疑うきっかけになることをお話ししました。
本日はCHILDの "H" についてお話しします。
事故なのか?
やけどの例を考えます。
1 歳 8 ヶ月男児
テーブルに置いてあるコーヒーをこぼしてやけどをしたとして受診
受傷部位: 左肩周囲 II 度熱傷(水疱ができる) 5%
左上腕から前腕にかけて I 度熱傷 12%
近位部(肩側)は境界明瞭だが前腕は境界不鮮明で水が
流れたような後になっている。
発達歴:ひとり立ち 1歳、ひとり歩き 1歳2ヶ月、右利き
なにか違和感を感じますか?
まず、1 歳 8 ヶ月でひとり歩きもするこどもであれば、十分起こりうる事象ですね。ヒヤッとしたことがある親御さんも多いのではないでしょうか。
一方で、「手でコーヒーをひっかけてかぶった」という病歴に注目します。
一般に「テーブル」はこどもの身長より高く、コーヒーをこぼすとすれば、手を上に伸ばして引っかけるはずです。その場合、どんなやけどになるでしょうか。
コーヒーは飛び散るはずですし、流れればコーヒーは冷めますので、コーヒーカップに近い部分のやけどの程度がひどくなるはずです。
コーヒーが飛び散れば、水滴による丸いやけどがあちこちにできる可能性が高いでしょう。コーヒーはどちらから流れるでしょうか。手に近い方から、肩に向かって流れるはずです。
本児は右利きです。左腕、右腕、どちらが受傷しやすいでしょうか?
本症例のやけどの所見をもう一度ご覧ください。
受傷部位: 左肩周囲 II 度熱傷(水疱ができる) 5%
左上腕から前腕にかけて I 度熱傷 12%
近位部(肩側)は境界明瞭だが前腕は境界不鮮明で水が
流れたような後になっている。
受傷機転と矛盾はありませんか?
受傷機転と矛盾する事故
外傷を見たときに、以下のポイントをチェックして下さい。
その損傷を引き起こすには
① どの方向から
② どのようなタイプの外力が
③ どのくらいの大きさの力が
④ どのくらいの時間
加えられることが必要か?
このチェックポイントを考えることで、病歴として述べられる受傷機転(どういう経緯で怪我をしたか?)と、実際の所見に矛盾がないかをチェックし、矛盾がある場合には積極的に虐待の可能性を疑って対処します。
虐待による外傷の特徴
日本こども虐待虐待医学会一般医療機関における子ども虐待初期対応ガイドより虐待を疑う外傷の特徴を示します。
一般に転倒などの事故による損傷は、反射的に手足で防御しようとしますので、四肢に多い傾向があります。一方で、体幹(体の中心部)の外傷は一般の外傷では起きにくいことがわかっています。
【参考文献】
日本こども虐待虐待医学会
一般医療機関における子ども虐待初期対応ガイド「通称:一般医向けマニュアル」(https://jamscan.jp/manual.html 2019/7/19 最終アクセス)
小児科、小児集中治療室を中心に研修後、現在、救命救急センターに勤務しています。 全てのこども達が安心して暮らせる社会を作るべく、専門性と専門性の交差点で双方の価値を最大化していきます。 小児科専門医/救急科専門医/経営学修士(MBA)/日本DMAT隊員/災害時小児周産期リエゾン