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SpO2 は「呼吸」のモニタリングか?

鎮静中に何をモニタリングしていますか?

小児科医を対象とした調査(日本小児科学会雑誌2017: 121(11): 1920-1929)によると、MRI 検査時に鎮静を行った場合のモニタリングとして、多くの施設で SpO2 が用いられているようです。

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SpO2 は何をモニタリングしているのか?

「呼吸大丈夫ですか?」と聞くと、「SpO2 保たれているから大丈夫です!」というお答えをよく聞きます。本当でしょうか。

以前お話ししたとおり、「呼吸」とは「外界と肺の中に空気が出入りしていること」です。その空気の出入りの結果として、血中に酸素が取り込まれ、ヘモグロビンと結合し、SpO2 として酸素とヘモグロビンの結合の割合が示されます。呼吸 = 空気の出入りがとまっても、通常肺の中には一定量の酸素が存在します。このため、下図に示されるとおり、呼吸 = 空気の出入りがとまってから、SpO2 が低下するまでに、一定のタイムラグが生じます。

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つまり、SpO2 で 呼吸 = 空気の出入りをつかまえようとすると、実際の事象が発生してから、以上を覚知できるまでの間に、タイムラグが生じるということです。呼吸の結果として十分な酸素が取り込まれているか?を確認するモニターとしてSpO2は侵襲も少なく非常に優秀な検査ですが、この点をしっかり理解して使用しないと、心停止が切迫してからしか対応ができない、ということになります。

無呼吸のタイプ

鎮静下で「呼吸 = 空気の出入り」が障害されるとすると、呼吸の刺激そのものが止まる(から、空気の移動が起こらない)パターンと、空気の出入りをさせようとする力は働いている(呼吸の努力はある)けど、詰まっていて(閉塞していて)空気が出入りできないパターンとに分けられます。

前者を「中枢性」無呼吸、後者を「閉塞性」無呼吸といいます。

これは何も麻酔中に限ったことではなく、いわゆる「無呼吸」の鑑別の基本的な事項です。

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上手をよく見て頂くと、その違いが明瞭になると思います。閉塞性では呼吸努力があるので、胸部、腹部の動きがあるのが解ります。

この動きを捉えるためには胸の動きを見ておくことがとても大切です。その意味で、呼吸数のモニターは大変有用ですが、体動を拾ってしまうことも多くなかなかそれだけでは呼吸=空気の出入りの有無を捉えきれないことも多いです。

EtCO2 モニターとは!?

EtCO2 とは end tidal CO2 の略で、呼気終末、つまり呼気の終わりに二酸化炭素がどれくらい含まれているかをモニターします。値そのものも有用ですが、ここではその波形に注目します。

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胸部のインピーダンス(胸部の筋肉の動きと思ってください)とカプノグラム(EtCO2 の波形)が描かれていますが、インピーダンスが出ている(胸の動きがある)けれども、カプノグラムの波形が消えているところが、胸は動いているけど空気の動きがない部分です。中枢性無呼吸の場合、カプノグラムが消えている部分のインピーダンスは消失します。
この 呼吸 = 空気の出入り に対する、カプノグラムの鋭敏さが、MRI 検査時の鎮静に関する共同声明で、EtCO2モニターが装着が強く推奨されている所以です。

症例数は少ないですが、ECGモニターによる呼吸数のモニター(胸郭の動きを検知)とスマートカプノライン(自然気道でEtCO2がモニターできるデバイス、後述)と比較したときの無呼吸検出率の差を研究した論文も出ています。

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EtCO2って挿管しなくてもモニターできるの?

すこし勉強された方はこのように思われると思いますが、現在では気管挿管(= 人工呼吸の為の管を口から気管に入れること)をしていなくても、自然気道でEtCO2 をモニターすることができます。

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経鼻・マスクによる酸素投与と同時に、EtCO2を計測することもできる製品が各社から販売されていますので、是非使ってみて頂ければと思っています。

【参考文献】
1. 日本小児科学会雑誌2017: 121(11): 1920-1929
2. 医機学 2010; 80: 43-47
3. 日本クリティカルケア看護学会誌 2017; 13: 123-125
4. 日本光電、Medtronic 各HP製品情報より写真引用


小児科、小児集中治療室を中心に研修後、現在、救命救急センターに勤務しています。 全てのこども達が安心して暮らせる社会を作るべく、専門性と専門性の交差点で双方の価値を最大化していきます。 小児科専門医/救急科専門医/経営学修士(MBA)/日本DMAT隊員/災害時小児周産期リエゾン