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何で鎮静したら良いですか?

やっぱり「鎮静の三角形」

さて、ながながとお話ししてきていますが、個々までのお話しは、ざっくりいうと、

1) 処置は本当に必要か?
2) 行うならば、どの程度の麻酔深度が必要なのか?
3) 要求される麻酔深度は、その患者で可能か?リスクはないか?

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ということでした。今日のお話は、これを踏まえて、3) のようなリスクのある患者に、2) のような麻酔深度を達成したい。どの薬のどんな特徴を活かしてそれを達成するのか?ということになります。

よく小児科の先生方から、「何で鎮静したら良いですか?」と質問をいただきますが、「状況と目的による」と話せざるを得ない所以です。極端な話、薬剤は何でもいいわけです。状況を抑え、薬の特徴を抑え、目標とする「鎮静」が得られるよう工夫する、というのが正解です。

麻酔の三要素

さて、どの薬のどんな特徴を活かして目標の麻酔深度を達成するのか?を理解するためには、麻酔がどのように構成されているかを理解する必要があります。麻酔は、鎮静(=意識消失)、鎮痛、筋弛緩の算用要素から構成されます。

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それぞれの麻酔薬によって、どの要素をどの程度持っているかが変わってきます。

先日消化器内科の先生方とお話ししていて、ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)という内視鏡を用いた検査で、ミダゾラムを鎮静に用いていて「体動」があると追加していくのだが、そのうち血圧が落ちるか、息が止まることがあって困っているとのことでした。ERCPは内視鏡をぐいぐい突っ込んで行く検査ですので、それなりに侵襲が強い検査で、特に咽頭〜喉頭を刺激するため強い反射を誘発します。局所麻酔薬でそれを防いでいるのですが完全ではありません。ミダゾラムは鎮痛・筋弛緩の要素はない、純粋な鎮静薬であるため、浅麻酔では寝ていても刺激があれば覚醒(眼は開かないまでも意識レベルは変わる)し、動くことは可能ですので、体動が起きます。これに対して鎮静薬としてのミダゾラムで量を上げていけば、当然心血管系への作用として血圧低下が、呼吸への反応として呼吸停止、気道閉塞が起こります。しかも、筋弛緩の作用はないので、状況によっては苦しくて暴れることは可能、という状況になります。

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現場での薬の「使用のしやすさ」で、多用されるミダゾラムですが、やはり薬の特徴を理解されていない「無理な鎮静」「危険な鎮静」であると私は感じました。

このようなことが小児の「鎮静」でもたくさん行われています。少なくとも患者に麻酔薬を投与する医師は、鎮静の三角形、麻酔の要素をしっかり理解された上で、鎮静を行っていただきたいと思っています。

麻酔薬の特徴を理解する

臨床でよく使われている薬剤の特徴を一覧にしてみます。

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自分が行いたい処置が、どれくらい「痛いのか」「精密性が要求されるのか」をよく考えた上で薬剤を選択します。

チオペンタール、ミダゾラムなどは、「半減期が短い」とされ、多用されますが、持続投与の場合と、単回登用の場合では、半減期が全く異なる薬剤です。

これを理解するためには、context-sensitive half time という概念を理解する必要があります。簡単に言うと、「持続投与を行ってその投与を中止」した時の半減期です。

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例えば thiopental の添付文書によると

外国人のデータでは、健康成人6例(男3、女3)にチオ ペンタールを3.5mg/kg静脈内投与したとき、血漿中 濃度の減少は3相性を示し、それぞれの半減期は2.8分、 48.7分、5.7時間である。

とされていますが、持続投与を行った場合と、全く異なることが解ります。ミダゾラムも同様に持続投与の場合は半減期が非常に長くなっていることが解ります。

先ほどの消化器内科の先生方のお話で、効き過ぎたときは帰室前にフルマゼニル(ミダゾラムの拮抗薬)を投与しているというお話しもありましたが、拮抗薬は血中に存在するミダゾラムを拮抗する作用はありますが、組織中にあるミダゾラムには作用しません。したがって、一時的に「覚醒」しても組織中に残っているミダゾラムがまた出てきてしまいますので、再鎮静されていまい、病棟で急変、という事態になり得ますので非常に危険な行為ともいえます。

薬の特徴をよくよく理解して、患者に投与しなくてはならないということだと思います。

【参考文献】
1. チオペンタール添付文書
http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/1115400X1027_2_01/

2.  context-sensitive half time
https://www.e-jnc.org/journal/Figure.php?xn=jnc-8-2-53.xml&id=f1-jnc-8-2-53&number=199&p_name=0516_199


小児科、小児集中治療室を中心に研修後、現在、救命救急センターに勤務しています。 全てのこども達が安心して暮らせる社会を作るべく、専門性と専門性の交差点で双方の価値を最大化していきます。 小児科専門医/救急科専門医/経営学修士(MBA)/日本DMAT隊員/災害時小児周産期リエゾン