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麻酔をかけても大丈夫?

鎮静の三角形再び

鎮静の三角形を再掲します。

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まず最初に、
1) 処置は本当に必要か?
2) 行うならば、どの程度の麻酔深度が必要なのか?
と考えるのでした。ここまで来たら、次は「患者」の要素を考えます。

3) 要求される麻酔深度は、その患者で可能か?リスクはないか?

を考えてみましょう。

患者のリスクを評価する

ER や ICU で鎮静を行う必要がある患者さんは、重篤な呼吸不全、循環不全の状態にあることも多く、病態に応じた対応が必要になります。また、MRI を取るなど、落ち着いた状況での鎮静においても患者の基礎疾患の有無をチェックし、基礎疾患の病態に応じた対応が必要になります。

このため、患者の評価を事前に行い、どんなリスクがあるのか、目標とする麻酔深度まで麻酔薬を投与したときにどんなことが起こりえるのか?安全に麻酔深度に到達できるか?リスクにどう対応するか?などを事前に検討することが重要です。

具体的にはA(気道)B(呼吸)C(循環)D(神経)の順に沿って、各項目毎にリスクを評価しておくことが重要です。

Can not Ventilate, Can not Intubate.

鎮静に当たっては様々な知識を背景として患者を評価しておくことが重要ですが、ここでは特に、気道の評価について取り上げてみます。

鎮静に伴って上気道が閉塞しやすくなったり、呼吸が停止する可能性があることは前回お話ししたとおりです。確実に気道を確保し、人工呼吸を行う手段として、気管挿管(Intubation)があります。「挿管困難」かどうかを考える(Can not Intubate)、と聞けば、麻酔科の研修を終えた方であればピンとくるかもしれません。
気管挿管を行わなくても、下顎挙上法などで気道が確保でき、Jackson-Rees回路や、BVM(Bag valve mask)などで換気ができるのであれば、問題ないのですが、疾患や体型によってはそれさえも困難(Can not Ventilate)な状況になり得ます。

換気も挿管もできないという状況になると、そのまま心停止に直結しますので、日と呼ぶ余裕さえなく心停止に到ることも少なくありません。このため、患者の評価の中でも特に気をつけておかないと、MRI のなかで患者が心停止する、ということも十分にあり得ます。

呼吸が停止したあとからSpO2が低下するまでの時間を子どもと大人で比較してみましょう。

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呼吸が停止しても、しばらくは肺の中に残っている酸素を使ってSpO2は維持されますが、大人に比べて子どもの肺の容量は小さいため物理的に酸素を卓話手おける量が少ないことなどから、より短時間で SpO2 が低下します。

このような状況から、Can not  Ventilate, Can not Intubate という状況に陥る可能性はないか?と具体的に評価しておくことは大変重要です。
なかなか完全に予測することは困難ですが、成人と比べて特に小児で注意してチェックしておくべきことについて、明日、お話ししたいと思います。

 


小児科、小児集中治療室を中心に研修後、現在、救命救急センターに勤務しています。 全てのこども達が安心して暮らせる社会を作るべく、専門性と専門性の交差点で双方の価値を最大化していきます。 小児科専門医/救急科専門医/経営学修士(MBA)/日本DMAT隊員/災害時小児周産期リエゾン