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診断に関する考え方②

診断に関するお話しを続けます。

昨日は感度と特異度のお話しをさせていただきました。
難しい、、、という方もいらっしゃると思いますが、後ほど、実際にどうやって使っているか?ということをインフルエンザを題材にお話ししますので、後数回、頑張ってついてきて下さいね。

さて、感度と特異度を簡単に復習しておくと、、、

感度 =「疾患有り」のうち検査が陽性の割合
特異度 = 「疾患無し」のうち検査が陰性の割合

ということでした。これを用いて、ある疾患の可能性を高めたり、低めたりすることが、診断の本質的な考え方です。あわせて、SpIN/SnOUT もご紹介しましたね。

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感度が高い検査、特異度が高い検査を組み合わせて診断を行っていきます。

本当は感度も特異度も十分に高い検査があれば、それ一つで話は済んでしまうのですが、そんな理想的な検査はほぼありませんので、適切に検査を選択する技術が求められます。

感度と特異度はいうなれば、魚を捕まえるタモ(方言らしいですね、網のことです)の目の荒さにたとえられます。感度、特異度が高いということは、このタモの目が細かい、ということです。

タモの目が細かければ魚は捕れるのか?

タモの目が細かければ、どんな小さな魚でも逃がさず捕まえることができますね。では、下の二つの池ではどちらの方が、魚をすくうことができる可能性が高いでしょうか?

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全く魚がいない池では、いくら性能のよいタモで魚をすくおうとしても、決して魚をすくうことはできないですよね?

できるだけ魚がたくさんいる可能性が高い池に、目の細かいタモを入れることができれば、より魚が捕れる可能性が高くなります。

この魚がどれくらいたくさんいるか?という確率を "検査を行う前"、という意味で「事前確率」といいます。

同じように、病気の人がいないところで、いくら性能の良い(感度・特異度が高い)検査を振り回しても、検査結果を信用することはできません。

検査をする "事前" にどれだけ疾患を持っている可能性を高めておけるか?検査結果解釈の肝になります。

事前確率が、とても大事だ! と思えてきましたか?

事前確率ってわかるの?

ここで一つ疑問が出てきます。

事前確率ってわかるんですか?

いやー、、いい質問ですね。その通りです、ごもっとも。

わからないんです。

でも、手がかりはありますし、そこが実は勉強のしどころで有り、医者の腕の見せ所で有り、患者さんとの共同作業のしどころ、だったりします。

事前確率を知る手がかり

① 疫学情報

たとえば、こんな情報です。

「インフルエンザの流行状況は?」
「生後60日以内の発熱患者の内、敗血症 の患者の割合は?」
「日本人において川崎病は何人に一人ぐらい発生するのか?(=有病率)」

など。これらは教科書的に勉強したり、以前ご紹介した感染症の流行情報サイトなどを参照したりしながら都度アップデートします

② 病歴

例えばツツガムシ病という病気があります。ツツガムシは野原などに生息している可能性がある虫で、ツツガムシが持っている細菌に暴露されることによって発症します。

発熱を来しますが、「草原に行っておらず家の中で生活している乳児」が発熱したとしても、ツツガムシ病である可能性は限りなく低いですが、夏の暑い日に空き地で遊んでいた少年が、発熱した、となれば、ツツガムシ病である可能性は、高くなります。(どれくらい高くなるか、、はまた別問題ですが)

③ 身体所見

ツツガムシ病はツツガムシに刺されることによって感染します。特徴的な差し口が所見としてある子どもはない子どもに比べて、ツツガムシ病になる可能性は高くなります。一方で、刺し口がなければその他の疾患を先に疑っていくべきでしょう。

まとめ

以上をまとめると、そもそも、検査を行う前に、疫学情報・病歴・身体所見などを総合して、"事前確率" を十分に高めておくことが重要である、ということになります。

したがって、患者さんとの共同作業により如何に上手に情報を引き出し、それらを統合できるか?が臨床医の腕の見せ所、となるわけです。

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小児科、小児集中治療室を中心に研修後、現在、救命救急センターに勤務しています。 全てのこども達が安心して暮らせる社会を作るべく、専門性と専門性の交差点で双方の価値を最大化していきます。 小児科専門医/救急科専門医/経営学修士(MBA)/日本DMAT隊員/災害時小児周産期リエゾン