今まで食べた食べ物で1番好きなもの! 『後編』
おばあちゃんのけんちん汁の『前編』続きです。
僕の親は小さい時に離婚してお父さんに育ててもらいました。
そして海外にいる間に父は少し年上の女性と再婚していていました。僕とその女性は休暇で日本に戻る時の2、3度の面識くらいで会話はほとんどありません。
僕がヨーロッパでの仕事引き上げて日本に帰国した日のこと。。
毎回帰国した日は実家に戻り家族と一緒にご飯を食べるんです。。
家に戻って台所を見ると目を疑うものがありました。。
大きな大鍋。。
まさか。。と中を覗くと
「けんちん汁」
お父さんがパートナーの女性に僕がけんちんが好きなことを言うはずはないし。。
その女性がたまたま作ったものでした。
でも不思議なのがその量。。
二人でいつも住んでいるのにこんな大きな鍋で。。。
そしてけんちん汁を頂くと。。
『うっ。。!』
。。。。
脳裏によぎったあの味。。
そうおばあちゃんのけんちん汁の味でした。
『嘘でしょ。。。』
おばあちゃんのけんちん汁を食べたことのある母親でもおばあちゃんのけんちんとは全く別の味のけんちん汁になるのに、おばあちゃんのけんちん汁を知らない人が全く同じ味になるなんて。。。
しかも材料も味も完璧。。
誰よりもおばあちゃんのけんちん汁をたくさん食べた僕の味覚だ。。
おばあちゃんが作ったとしか考えられなかった。。
でもおばあちゃんは亡くなっている。。
女性はそこでこう言いました。『けんちんはたくさん作ると美味しいのよ』
おばあちゃんが言った言葉と一緒だ。。
一体何がなんだかわからなかった。。
でも偶然があるものだと。。
おばあちゃんと同じ味のけんちん汁の味がたまたま存在しているのだと思った。
おばあちゃんのけんちん汁の特徴は八つ頭という品種の芋だった。里芋の種類はたくさんあるけども地元でもこの八つ頭をけんちんに使うところはそんなに多くはない。
たまたまもありえる。。
このパートナーの女性も地元の人だからだ。
でもそれが違うことが分かったのは後日。。。
次の週にまた親と一緒にご飯を食べる機会があった。
その時にまたけんちん汁が作られていたのだ。。
そのけんちん汁を頂くと。。
『あっ。。。』
全くの別物のけんちん汁の味だった。。
具材も違う。。昆布とか入っているし。
なぜだ。。
鍋もなぜかちっちゃな鍋。。
あの時言ったじゃないか。。
『けんちんはたくさん作ると美味しいのよ』
あの言葉はなんだったんだ。。
その時に気づいた。。
おばあちゃんがその女性の身体をかりて「けんちん汁」を作ってくれたのだと。。
そんなことがあるだろうか。。。こんな話をして信じてもらえるだろうか。。
だけどもこれしかもう答えが出ない。。
おばあちゃんが僕にやりたかったこと。。
『おかえり!』っとけんちん汁をいつものように届けてあげることだった。
それは天国にいてもできることなんだ。。
きっと神様にお願いしてたのかもしれない。。許可を取るのも大変なのかもしれない。。
でもそこで気づく。。
おばあちゃんはいつも僕を見守っているっていうこと。
おばあちゃんだけでなく亡くなった人はみんなそうなのだと思う。。
僕はおばあちゃんが生きているうちに伝えたことがある。
ずっと伝えたかったことだ。。
『僕は今まで食べてきた中で一番好きなのはおばあちゃんのけんちん汁だよ』っと。。
世界トップクラスのレストランに『Geranium』に行った後に確信した。。
やっぱり僕にとって一番美味しいものは
おばあちゃんのけんちん汁なのだと。。
今でも冬の時期になると毎年けんちん汁をつくる。。
八つ頭の里芋ができてくる時期だからだ。
そしていつもおばあちゃんの味だ。。
もしかしたらおばあちゃんが僕の体をつかってけんちん汁を作ってくれているのかもしれない。。。
おばあちゃんが住んでいた家で。。。
けんちんの作り方を教わった縁側で野菜の皮をむき。。
昔からあった同じ場所のキッチンでけんちんを作る。。
「トントントン。。。」
包丁で里芋を切りながら思う。。。
おばあちゃんも材料を切っている時に僕のこと考えてくれてたのかな。。
明日帰ってくる。。トントントン。。。
そして僕もけんちんを作るときはいつもおばあちゃんのことを思う。。
人参もう少し細く切ろうかな。。とかは考えない。
おばあちゃんのことを自然と考える僕がいつもいる。。
お父さんにも届けなくちゃ。。お袋の味。。
そう思うとまた一つ嬉しくなるひと時なんです。。
本当に感謝の一言に尽きます。。。