Peak2Peak 檢見﨑誠

檢見﨑 誠/ 写真家・登山ガイド(日本山岳ガイド協会登山ガイドステージⅢ/ Peak2…

Peak2Peak 檢見﨑誠

檢見﨑 誠/ 写真家・登山ガイド(日本山岳ガイド協会登山ガイドステージⅢ/ Peak2Peak写真山岳ガイド事務所を主催 /京都大学農学部中退/株式会社文藝春秋を経てフリーランスのフォトグラファーに。/ ガイドのご用命はこちら→peaknipeak@gmail.com

最近の記事

ポストコロナへの助走

<ウィズコロナだと?> 9月4日。山のガイドをしていた時、お客様2名のうちのお一人が山小屋で発熱した。山行の2日目の夜だった。前日は登山口近くの山小屋に泊まり、天候回復を待って稜線に上がった。午前中はまあまあの天気だったが昼すぎから雨が降り出し、山小屋に到着するちょっと前から本降りになった。びしょ濡れになって小屋に入り、まずは乾燥室に直行。濡れたものの始末をして人心地ついた頃には、夕食になってしまった。食事の後、一人が熱っぽい気がするとの申し出があり、体温を測定すると37度ち

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    • 三人の赤木沢

      <増水> その方と時々一緒に山に登るようになって2年がたった。山歴は長く、経験も豊富で、日々の自己研鑽も欠かさない、80歳近い年齢で現役のクライマーだ。 自分のような無名ガイドでその方の役に立つのかと思うが、安全管理を徹底し、無事に下山していただくことを第一に、毎回ご一緒させてもらっている。今回は黒部の美渓、赤木沢へ、二泊三日でご一緒した。 昨年は悪天候やアプローチに通る有峰林道の土砂崩れで、中止してしまった赤木沢。今年も予定していた日程が豪雨で中止。リスケジュールをし

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      • スプリング・エフェメラル

        山道で出会う花の名前が覚えられなかった。何度も同じ花の名前を覚えては忘れ、忘れては写真と図鑑を見比べて再確認した。暫くすると、花が咲く季節と場所がセットになって記憶に残るようになった。毎年、同じ季節に同じ場所で同じ花々が迎えてくれる。ああ今年もこの花たちに巡り会えた。寒い冬を雪に守られて過ごし、太陽の光を浴びて短い夏を謳歌する花々の姿に、心を動かされる。 スプリング・エフェメラル Spring ephemeral いつのころからか、雪解けと共に咲き、夏が来て植物が繁茂する前

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        • 憂鬱な山

          <戦闘的楽観主義を捨てる> 若い頃は、周囲のことに向き合うことを避けていたように思う。人間関係や仕事、目の前にこと、将来のこと、どうにかなるさと、よく言えば「楽観主義」、悪く言えば「その場しのぎ」。そうして多少の冒険主義も失敗も許されたと思ってきたが、山を仕事とするようになって、それが許されないことと実感するようになった。 写真の世界の失敗では、怪我も命も落とさなかったが、事が起こってからでは遅い山の世界で生きるようになって、まだまだ不十分でいつまで経っても未熟ではあること

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          春の山

          <アルペンルート開通に合わせて> 立山黒部アルペンルートは、長野側は扇沢、富山側は富山地鉄立山駅を起点とする山岳観光ルート。今年は4月15日に開通した。冬の間ゲートが閉ざされている信濃大町から扇沢の県道がこの日の朝開くので、それに合わせてまず柏原新道登山口から爺ヶ岳南尾根を上がって爺ヶ岳、さらに鹿島槍ヶ岳へ昇る山行を実施した。 春の山は楽しい。ほんの半月前まで、厳冬期の山々は白い鎧を纏って容易には人を寄せ付けない。4月の声を聞くと、その白き峰々は少しだけ表情を和らげてくれる

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          上を向いて歩こう

          専制者の夢が、僕たちの夢と同じなら、 僕たちは彼の言う事を聞いてその後に従うだろうか。 国家への幻滅を感じている。 それはまずコロナ禍で芽生え、次第に大きくなり、 ロシアのウクライナ侵攻で決定的になった。 僕たちはなぜ国家に拘束されなければならないのか。 もし、80年前の日本に生きていたら、 僕は日本という国を守るために、 進んで前線に行っただろうか。一億総玉砕を信じ、 アメリカ兵に向かって捨て身で向かっていっただろうか。 もし、今、ウクライナの首都キエフに住むウクラ

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          Three Chords and the Truth

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          言い訳の多い山

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          冬山シーズンイン 完璧なビーナスベルト

          <難しい選択> 2021年、コロナに明け暮れた今年も、あとひと月を残すだけとなった11月末。ラニーニャ現象によるドカ雪が北アルプスにもたらされた。登山にもBCスキーにも嬉しい降雪ではあったが、入山日のタイミングは、難しかった。 北アルプス北部では、11月19,20,21日までは好天、22日から天気が崩れ始めて26日まで悪天候が続いた。27日から回復に向かい始め28日にThe Dayを迎えた。 この2021年11月28日は「歴史に残る」一日だったとは、立山を滑ったガイドの言葉。

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          北穂高岳

          毎年北穂高小屋の営業は11月3日の宿泊までと決まっている。昨年はコロナ禍の影響で営業期間が短縮されてしまい、稜線が白くなる前に小屋が閉まってしまった。今年は10月中旬に降った雪が稜線では根雪となりそうなくらいで、満を持して小屋閉めに合わせて北穂高を目指した。 雪が降ると涸沢から北穂へは夏に使う南稜ではなく「春道」と呼ばれる北穂高沢のルートを登る。涸沢から北穂を見上げると南稜と東稜に挟まれた大きな急勾配のルンゼが見える。これが北穂高沢だ。無積雪期はガレ場で落石も多く危険。バリ

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          ユージン・スミスにはなれなかった

          <過去からの便り> 昔勤めていた会社から新刊本が届いた。 『雲上の人 ジャイアント馬場』門馬忠雄著 文藝春秋刊 会社勤務時代に撮影した写真はすべて会社に著作権があり、管理されているが、 文藝春秋という会社は律儀な会社で、担当編集者にもよるのだろうが、 退職した社員が撮影した写真の再使用にあたって、撮影者に連絡をしてくれた。 しかもその本を贈ってくれた。 届いてみると、その本のカバー写真が、今から30年ほど前に自分が撮影したものだった。 誠に良い会社に勤めていたものだと、

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          源流の秋

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          雲ノ平、花の巡礼

          毎年山が花の季節になると心が騒つく。北アルプスの高山帯なら雪渓が溶け始める7月中旬ごろから、太陽の光と雪解け水がそれまで眠っていた花々を目覚めさせる。 高山帯の雪解けは、6月末から7月上旬にかけてどれくらい雨が降るかによって、その時期と残雪の量が変わる。2021年、今年の黒部源流エリアでは谷筋では残雪が多く、稜線の雪は早い時期に溶けていたようだ。7月に入ってから雨が少なかったせいで、残雪が多いエリアもあった。たとえば標高の高い場所でチングルマやハクサンイチゲが咲き始めている

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          Peak2Peakのデジタル写真講座第13回「マクロレンズで高山植物」

          NIKONのZマウント用のマクロレンズがついに発売された。今回はそのうちの一本、NIKKOR Z MC 50mm f/2.8を使って、マクロレンズの世界を楽しんでみよう。 <最短撮影距離とワーキングディスタンス> レンズにはそれぞれ被写体に最も近づける距離があり、それ以上近づくとピントが合わなくなる。これを最短撮影距離と言っている。例えば、ニコンのZマウント用の標準レンズであるNIKKOR Z 50mm f/1.8 Sの最短撮影距離は「撮像面から0.4m」である。(撮像面と

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          お気に入りの山 北穂高岳

          <北穂で珈琲はいかが> 北穂高小屋のテラスで飲む珈琲は最高だ。雨でも食堂の窓側の席に座って、ぼんやりと外の景色を想像しながら時を過ごす。だが同時に大概は、下山の時のことを考える。とくにガイド山行ならば、登山道や雪の状態に想いを巡らして、安全に下るにはどうしたらいいか、あれやこれやシミュレーションをしながら過ごすことが多い。なんといっても、そこは標高3100m。富士山を除けば、日本で一番高いところにある山小屋だ。 例年GW営業に合わせて穂高の稜線の山小屋は小屋開けを迎える。北穂

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          Peak2Peakのデジタル写真講座第12回「光を味方につけよう」

          <photo+graph> フォトグラフとはphoto=光でgraph=描くことである。光が物体に当たって反射し、その光をカメラは記録する。かつてロラン・バルトは「写真とは全て過去にあったこと」と言ったが、もし未来から届く光があれば、きっと写真は絵画に近づきより自由を得るだろう。しかし、今のところ、写真は過去から届いた光しか、記録できない。 光には色があり、強さがある。角度があり、拡散の度合いがある。朝の光は低い位置から山々を照らし、「モルゲンロート」などと持て囃されるよう

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