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MELODY&NUTS #12 PAST Ⅱ

『なぁディー
 ディーにとっての音楽って何?』

『俺にとって音楽は
 会話みたいなものかな
 メロは想像できないかもしれないけど
 音楽と出会う前の俺は
 まともに人と会話出来たりするような
 人間じゃなかったんだ
 嘘みたいだろ?
 救われたんだよホント』

握っているビールを一口飲んで
更に話を続けた

『昔っから全然輪に馴染めなくてさ
 周りがやってること
 くだらねぇって思ってた
 サッカーの大会でみんなで優勝するぞーとか
 学園祭の模擬店クラス全員で頑張ろーとか
 何でそんなに熱くなれんだろうって
 不思議だった
 そんなことばっかやってると
 段々周りからも必要とされなくなってくるんだ
 言葉とか表情とか
 はっきり空気が変わるのがわかるんだ
 同調圧力ってやつ』

俺は黙って話を聞いた
どこか思い当たる節が
あったからなんだと思う

『それからの俺は
 他に遊ぶやつもいないし
 フラフラ街に出るようになったんだ
 街に出ると
 類は友を呼ぶって言うのかな
 同じような境遇の
 仲間が少しずつ増えていったんだ』

ナッツは未だにスヤスヤと
気持ちよさそうに寝ている

『いつも溜まり場では
 何かしらの音楽が流れていたんだ
 小汚え喫茶店だったんだけど
 コーヒーひとつで何時間いても
 マスターは嫌な顔しない人でさ
 帰り際には
 また来いよって言ってくれんだ
 俺嬉しくてさ』

『わかる気がするよ
 その気持ち』

『いつもお世話になってるマスターに
 何か手伝うよって言ってみたんだ
 そしたら』

『じゃーこれ頼むわ
 お客さんが楽しく会話できるように
 お前レコードかけてくれ』
『何でも良いのか?』
『何でも良いけど
 お客さんの邪魔はしないようにな
 あと使うレコードは
 ピカピカに磨いてくれ
 それだけでいい
 簡単だろ?』
『楽勝楽勝、任せとけ』

『こんな感じでお店のBGMを
 担当するようになったんだけど
 全然楽勝じゃないわけ
 やれ音が大きいだの
 雰囲気に合わないだの
 こっちからしたら黙って聴け
 って感じだったよ』
『それがDJの始まりだったんだね』

『文句を言われたくなくて
 試行錯誤しながら頑張ったんだけど
 変わらなくてさ
 マスターに聞いたの
 どうしたらいい?って
 そしたら一言』

『俺じゃなくて客に聞け』

『そこから知らない人とも
 会話が出来るようになって
 気付けば
 自分が流す音楽で
 楽しく過ごしている人を
 見るのが好きになったんだ』

『マスターとお客さんのおかげだね』

ディーは子供のように笑っていた
そして忘れていたことを思い出して
こう言った

『メロは音楽嫌いか?』 

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