ソヨンと和紙
京都の嵐山に流れる桂川。この川の貸ボートからの景色が僕は好きだった。だから、その景色を見せたくて、一週間後に韓国に帰る女友達、ソヨンを嵐山に連れ出した。
日射しが皮膚をちりりと焦がす、そんな八月。
二人、ボートに乗る。
上流に行くほど、観光地の喧騒から遠ざかり、人々の話し声や笑い声、呼び声が小さな砂粒になってゆく。
川面が和紙みたいに穏やかで、
鳥が筆脈みたく水面を渡る。
ソヨンは靴を脱ぎ、川に足を浸してビールを飲んだ。
こんな所連れてくるの酷いよ
韓国帰りたくなくなるよ
ソヨンは振り向いて僕に言った。
でしょ?
笑って僕は言う。
オールを置き、
ボートに仰向けになると、
空、雲、梢がゆっくり流れる。
ちやぷり、と水音。
セキレイが、ちろちよんと鳴く。
日本も、日本人も私好きだよ
ソヨンは呟く。
うん
僕は言う。
私、今日のこと忘れないよ
ソヨンは零す。
うん
僕は頷き、目を瞑る。
薄藍の風で胸を満たし、
寧静の水面に耳を澄ます。
もしサポートして頂けた暁には、 幸せな酒を買ってあなたの幸せを願って幸せに酒を飲みます。