「つくね小隊、応答せよ、」(61)
引き揚げ船は長旅だ。
時間をかけて、あちこちに寄港しながら日本へと戻る。
否が応でも、周りの者達とは顔見知りになってゆく。
渡邉は誰とも交流しなかった。
しかし女が抱いている子は、なぜだか渡邉の方をちらちらと見て、興味を持っている様子だ。
渡邉は目をそらすが、その子は不思議なものをみるようにして渡邉を何度も母親の影に隠れて見つめてくる。
ある日、その子は、誰かからもらったスルメを、渡邉に手渡してきた。
渡邉はそれを無視したが、その子は渡邉の足元にスルメを置いた。
渡邉がその