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こんなふうに P10(あなたの持っている歌を聴きたい)

2日目が終わる頃
yuukiは少し残ってから帰ると言った。翌日は朝早く来られないかもしれないので鍵は大家さんに預けることにして。

他のメンバーは
盛り上がった1日を回想する間もないほど疲れていて
翌日の準備もほどほどに帰って行った。


3日目 朝。

yuukiがお店に行くとすでに扉が開いていた。

中にはsayaがいてマイクの前で歌っていた。

sayaは歌うのが大好きで大の苦手だ。

友達の前で歌えるようになったのが最近。
自分の声の良さに気がつき
歌が上手いことに気がつき
その後に
歌うのが好きだと意識しないまま
毎日歌っていたことに気がついた女性だ。

そんな歌手は山ほどいると思う。
自分から作品を生み出しておきながらその手触りは自分では感じられない。

それが歌ではないだろうか。



「52枚も売れてる!」
パコが昨日外した絵の場所を数えて言った。
「初日が28だから・・・倍近くか」
takaがテーブルを拭きながら言った。

「goチンパー」を持ってきたおじさんの絵が5枚。そしてパコの続々と生み出される詩に合わせてメンバーが即興で描いた絵が、出来たそばから売れていった。

作品と言うには世の中に失礼だと思うほどの絵画達。

コピー用紙
menuの裏紙
喫茶店のナプキン
誰かのTシャツ
スニーカー
お店のマグカップ

様々な場所で息を吹き込まれたシルエットは喜んで買ってくれたゲスト達の家に連れて行かれた。

それらは額に入れてこそ価値が出そうな面白い絵ばかりだったが
さすがに喫茶店のナプキンまで一緒に売れて行くとは。

路上ライブのような盛り上がりを見せた瞬間を
封じ込めた動画もpによって配信される。

残りの絵画を見たところ
メンバーの絵はもうなかった。

「ここにいる人の絵はちゃんと売れていくのね」

残っているのは委託されていた30枚弱。

「人は人から物を買っている。
お金だけではなく想いのやり取りがあるってわかるね」

「うん こんな体験て・・・」

もちろん絵だけでも、この世の中への愛とか情が充分に伝わる。
気持ちのこもっている絵というのはそれだけで素晴らしい。

だけれど

昨日までの2日間で

チャリティーに参加するメンバーは

委託者もゲストも全てが

闇雲に量産したものをやり取りすることではないと

肌で感じていた。


「今日はこの委託された絵を売り切るのが私たちの使命ね」

「いない人の気持ちをいかに伝えるかだね」


sayaはいつになく緊張している。

昨日から自分が歌う時間を作ろうと考えていたようだった。

普段はyuukiの音楽がないと歌わないし
マイクを握ることを拒否しているのに
今日は違った。

自らスタンドマイクを用意して
まるで夜中じゅう歌っていたみたいな顔をして
か細く練習を重ねていた。

それはうた?

わからない。

メンバーは話している風を装って耳を傾ける。

「早く逢いたい。こうしている間にもお腹を空かせているよね。
もう少し辛抱して。。。なんて通じないか。
とにかく。。。生命の 生命の 生命の 太いところを信じて。
もう少し。。。待っていて。」

それはsayaの呟きだった。


「今日が終わったら明日にはそのお金で買い物に行って
snsで発表するんだよね」

sayaはオニオンを洗って皮ごと水の中に沈めると火を付けた。

「うん そうだね。まずは先日やった記者発表に来てくれた記者達に報告をするよ。それから、買った商品をフードバンクに届ける」

仕込みをしながら説明するpの話を虚ろに聞きながらsayaは
「私も待っている人だったかもしれないんだもの」
と言った。

「一度だけね、もらったことがあるの。支援物資を。外国に住んでいたときにママとパパが別れちゃってね。ママは日本に帰らないって言って頑張っちゃって、ちょー貧困になった。お金は無いし、廊下が雨漏りのしている古いアパートは怖いし、私はこの国の人とは違う日本人だって意識はもう芽生えているし、どうしようかと思ってた。その時にママと食品をもらいに行ったんだよね」

「あ~。sayaはアメリカ生まれだもんね。どこの州だっけ?」
カウンターにある地球儀を回して指で示しながらsayaは続けた。
「もらった食品の中に、パパの勤めている食品メーカーの缶詰があってさ。あっ て思って私、思わず隠しちゃってね。なんでパパ来ないんだろうって。悲しくなってね。パパから直接もらっていた食品を巡り巡って受け取るなんて。」

「・・・・・そうだったんだね」

sayaは随分長いこと貧困生活を経験した。けれど物資をもらったのは、その1回限りだったと言う。母親の意地があったり、日本人の母子家庭への偏見があったり、人の世話にならないように、自立しなければと女2人で必死だった。お腹が空いて学校に行けない時もあった。

「その時に友達が色んな物をくれた。私が頼んだつもりはないんだけれど、お菓子だったりサンドイッチだったり、洋服やアクセサリーまで・・・・・だからかな。私は同じ年頃の子が大変だったら耐えられない。きっと知らない人からは受け取れなくても、友達としてなら遠慮なく貰える事ってあると思う」

sayaはハイスクールを卒業すると留学という形で日本にやって来た。

「日本に来る方法をずっと探していたの。勉強をいっぱい頑張ったら必ず来られると思っていたよ。母親はアメリカが好きだって言うから置いてきちゃったけれどね。彼氏がいるみたいだから今は大丈夫」

大学では日本を知らない日本人としてちょっとした話題になった。

「saya 一言だけ言って良い?」

yuukiがギターを持ってsayaの近くでささやいた。

「saya  自然に歌い出せば良いんだよ。これから歌いますって宣言しなくても、そのままでいいよ。いつもみたいに」

sayaは長いこと、そう yuukiが照れるくらいに長いことyuukiの顔を見つめて、目を潤ませると、みるみる顔色を変えて笑顔になった。

「そうだね ありがとう」

こうして
人前で歌うのが恥ずかしいと言っていたsayaは
さりげなく歌い出した。

夏夜のマジック

あの頃のように

BGMになったつもりで3曲をさらりと歌い上げたsaya.

風を浴びているように気持ちよく目を開けると
全てのゲストが手を止めてsayaを見つめていた。
そしてsayaの耳にやっと届いたのは
たくさんの拍手の音だった。

sayaは慌ててしまった。
いつもなら逃げ出してyuukiの後ろに隠れるところだが
1つ息を吸うと心に決めて話をした。

「今日は来て下さってありがとうございます。このギャラリーはメニューをご覧いただいたとおり えっと その みんなで助け合いたいなって言う目的です。人生では助けられる時が必ずあって もし今、自分が助けてもらわなくても平気な時ならば 誰か そ そう 友達とかを 助けていたいって思います」

もう一度大きな拍手,゚.:。+゚,゚.:。+゚☆彡

「ここにあります絵は皆さんと同じ人達のシルエットです。心がこもった物ばかりです。ピンときた絵がありましたら えっと ぜひ 家に連れて帰って下さい。わ わたしは 絵は描けないけれど こんなすてきな場所に参加できて嬉しいですし 皆さんに会えて嬉しいです・・・・・・
・・・・・・
えっと 次の曲も ラブソングです。恋愛の曲 ですが 全ての人への たくさんの 愛の歌に聞こえます」



 Wherever you are(あなたがどこにいても)♪
I always make you smile
Wherever you are
I always by your side~~

♪心から愛するひと
心から愛しい人
この僕の愛の真ん中には
いつも君がいるから

ONE OK ROCKのWherever you areを歌うsaya

優しさの塊が溶けて溢れ出す歌声は

誰の耳にも同じ幸福をもたらす。

誰の演出か
いつの間にか少し照明を落とした店内で
キラキラと輝くゲスト達の瞳は
心の灯火にしか見えなかった。

そして最後にsayaは言った。

「3日間のうちに参加して下さった皆さま どうもありがとうございます。
つたない表現ですが 感謝の気持ちで歌いました。
皆さまの心が 夢の中ではなくて 現実の世界で 動き出します」



                         To be continue...




P1から⬇

※生活に困っている人を支援するチャリティギャラリーを開催したい。
※助けるか?助けられるか?どちらかの関係じゃなくて、どっちもハッピーでどっちにもなれる関係の場所。
※作品を作る人が生活出来る社会にしたい。
※若者だって、自分の収入が少なくたって
困っている人を助けられる。助け合える。
こんな想いがあって作りたい理想の場所を物語にしています。

よろしければ1から読んで頂きたいです🙇

どうぞよろしくお願いいたします。

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